TAKE4:真夜中の空の下
春の夜風はとても気持ちが良かった。
あたし・・・生きていたら普通の高校生だったのに・・・。
京介と同じ高校入るために死ぬ気で勉強してたのにぃ・・・。
死ぬなんてさ・・・。
星が輝いている。
「・・・・・・・・・」
だぁ――――――――――――!!
これはあたしが死んだわけ聞くのちょうどいいでしょ!?
って京介どこだ!?
「兄ちゃん!!」
ここはあたしが苺として地上に初めて降りて来た時の公園。
京介はライトがまぶしく当たっているベンチに座っていた。
「兄ちゃんあのね、聞きたいことあるんだ!」
京介の顔は無言の笑みに変わった。
『なぁに?』って問いかけてきたみたいに。
「・・・・・・」
ん?
は・・・鼻がむずむずする・・・。
「へ・・・へっクション!!」
どこにでも響きそうなでかいくしゃみが出た。
「っく、春だからってそんな薄着してるからだろ!!」
そう言って京介は自分が着ていた紺のパーカーをあたしの肩にかけてくれた。
ぐっと拳を右手でつくり、気を引き締めた。
「あのさ、小春ちゃんのことなんだけど―――――・・・」
京介の顔がまともに見れなかった。
曇るというよりか、目がものすごい見開いてしまって笑みも消えた。
完全に、心の傷として残ってしまった・・・?
「あ・・・あぁ・・・小春の事か・・・なんでお前が?」
「だって・・・」
「関係ないだろ?」
京介は顔をそらした。
「でも・・・・・・、小春ちゃんのこと、どう思ってた?」
あたしは言い切った瞬間に固く目を閉じた。
「別に、何とも」
京介は立ち上がり、あたしに大きな背中を見せたまま言った。
「帰るぞ・・・苺」
「っ・・・・・・」
返事なんてできなかった。
だって・・・あたしは・・・小春だよ?
あたしがここにいるのに、真実は何も分からない。
今京介の言葉が真実だとしたら・・・あたし、ばらして消えちゃいたい。
急に足取りが重くなった。
京介の背中を見つめながら、あたしの『家』となるところへ帰った。
苺の小さなキーホルダーがかかっている扉を見つけた。
あたしの部屋かな・・・。
開けてみるとそうだった。
幼稚園のカバン、帽子、他にも小さなものがたくさんあった。
小さなベッドに座ると肩から紺色のパーカーが落ちた。
「あ、これ京介の・・・」
あたしは部屋を出て京介の部屋に入った。
部屋の中は薄暗くて京介はもう寝付いていた。
あたしは京介のパーカーをハンガーにかけた。
足元に学ランが落ちていた。
「たっく、そのままほっといて・・・シワになるじゃん」
あたしはひとつため息をついて学ランもハンガーにかけた。
その時、生徒手帳のようなものが落ちた。
「あーもぉ・・・」
あたしはピタリと止まった。
手帳をつかむと京介の部屋を飛び出した。
「これって・・・」
あたしが小春だった時の写真が手帳に入っていた。
確か中学校の入学式の時の写真。
あたしがノリノリでピースしてたのに京介はちっとも乗り気じゃなかった。
中学生という大人の第一歩であたしたちはお互い意識し始めあたしと京介の間が空いていた。
これ・・・まだ持ってたんだ。
恥ずかしいとか言って自分見せなかったじゃん・・・。
「・・・バカ」
あたしは京介の部屋の扉に身を任せてずるずると床にへたりこんだ。
こんな写真、何にもないわけじゃないよね?
友達のハードルくらい越えてるよね?
寝息の聞こえる京介の部屋に再び入ると手帳を学ランの中に戻した。
安心すると一気に眠気が押し乗ってきた。
京介のベッドに横たわってみたら気持ちが良かった。
そのまま、京介の横で、夜を過ごした。