TAKE3:宿敵
「杏奈・・・あんたって奴は・・・」
あの時聞こえた“先着”って、杏奈のことだったんだ!!
「ちょっと〜、気安く『杏奈』なんて呼ばないで。友紀菜お姉さまと呼んで」
友紀菜・・・お姉さま??
あたしは思わず噴出した。
生きていた頃はあたしより顔は大人びてたくせに背はあたしよりも低かった。
たしか〜・・・150いくかいかないくらい??
バカにしてたら怒られたけどっ・・・まさっか、『お姉さま』とはね!!
やばい、腹痛い・・・。
「いつまで笑ってるのよ」
「いって!!」
杏っ・・・友紀菜お姉さまが口は笑っているけど目が笑っていないという器用な顔つきであたしの耳をつまんだ。しかも力いっぱい。
あたしもさすが・・・3歳児のような体じゃこの力耐えられません・・・。
「いって!!いたたたた!!やめてって!!おらっ、杏奈っ!!」
<しばらくお待ちください>
「あんたは今あたしをバカにはできないのよ」
は?
「あんた、その体、見た目何歳くらいだと思う??」
へ?
あたしは自分のてのひらを見た。
小さい・・・。
次に自分の足。
短い・・・。
次に顔。
小さい割りにでかい!!
「・・・第一印象3歳くらい」
「ブッ!!」
ブッ?
「ハハハハハハハハハハハハ!!!」
次の瞬間部屋中に杏奈の笑い声が鼓膜を突き破るように響いた。
「うっせ―――!!」
あたしは叫ぶが笑い声で消されてしまう。
こいつ・・・。
バンッ!!
「!!」
「姉ちゃんうっせぇよ!!俺の部屋まで聞こえてくんだよ!」
京介が来た瞬間に杏奈の笑い声はピタッと止まった。
「あ〜ら、京介。ごめんねぇ。ちょっともぉ苺がおもしろくって」
見ている側は反吐が出そうな程のおそろしいぶりっこ。
こいつ・・・
「あれ?苺まだここにいたんだな。2人して笑ってたのか?楽しそうだな」
京介の笑顔に反吐はぜーんぜん出ませーん♪
「2人とも仲良かったんだな」
「いや〜それ程でもぉ♪」
しまった。杏奈と言葉がハモッてしまった。
杏奈もチラリと横目であたしを見た。
多分同じこと思ってるだろ・・・。
杏奈があたしに近寄ってきてすぐ隣に座ってあたしの肩を寄せた。
「い゛っ・・・・!!」
尻に激痛の痛みを感じた。
おそるおそる自分の尻を見ると洗濯バサミ以上に杏奈の指があたしの尻にくいこんでいた。
ハハハ・・・負けてたまるか!!
ブニッ!!
「ぬ゛っ・・・・!!」
あたしは小さい手で杏奈の尻をつかんだ。
こいつ・・・尻固ぇ!!?
「じゃ、2人仲良くするんだぞ」
京介は笑顔でドアを閉めた。
「は――――い♪」
ちっ、またかぶったよ。
やっとこそ杏奈の手があたしの尻から離れた。
でも痛ぇなぁ・・・。
「さ、さっきの話の続きだけど」
え、戻しちゃうの!?またあんた笑うんじゃ!?
「何だって?!」
やべっ。何で聞こえてんの!?
「プ、あんたは相当チビよ。だってその体、実は5歳児なのよ」
5・・・才児。
「まぁ、所詮3歳だろうと5歳だろうとあんたは今は京介の恋愛対象じゃないわ。むしろ、例外よ!!」
「!!」
ちょっと、そんな言い方・・・っ!!
「その分あたしは18歳。年上って手もアリでしょ?」
杏奈はスタイルのよい体であたしを見下した。
「フフッ、せいぜい見てなさいよ。あたし死んでも全然あきらめきれてないんだからここにいるのよ」
「杏奈・・・何でよ。友達でしょ?」
あたしが発言した瞬間に杏奈の目つきは変わった。
「友達・・・だった・・・でしょ?どうせ生きていた頃の話じゃない。今は違う。諦めずにここにきて、京介とイチャッて、生きていた頃はあんたに京介を独占されっぱなしだったもの!!」
あたしが・・・独占してた?
中学校3年生の時、あたしは転校してきた。
前の学校ではいじめられていて心配だったけど、すぐに友達ができた。
『俺、中原 京介。よろしく!あ、学級委員なんだ!何でも聞いて?』
隣の席だったのが京介だった。
『ちょっと!京介ばっかり独占しないでよ!あ、あたし市原 小春!あたしも学級委員なんだぁ!よろしくね』
京介とは反対側の隣の席に座っていたのが小春だった。
2人ともいい人だな。良かった、やってけそう・・・。
この時は安心していた。
2人は小さい頃からの幼馴染なので仲も良く、よく一緒にいた。
あたしも2人の輪に入れた。
でも、しばらく月が経つと、
『ごめん〜、委員会の仕事あるんだ!』
『俺も・・・』
2人が2人でいる時が多くなってきた。
そんな中、こんな声が聞こえてきた。
『あの2人、超仲いいよね!?』
『付き合ってんじゃない?』
耳障りだった。
『杏奈っ、テスト勉強しようよ!京介も一緒なんだけど』
あたしじゃ、あの2人の輪には入れない。
京介くんには傍にいる小春がいる。
何で嫉妬するんだろう。
きっと、好きなんだね。
伝えようとしてものんきに笑っている小春が京介の付属品だった。
2人はいつも一緒・・・。
あたしじゃ、小春の代わりになれないの?
あたしが、京介くんを独りいじめできないの?
昔の思い出があるからって、ずるい・・・。
「・・・そう、思ってたの?」
あたしは唖然とした。
杏奈は無言のまま立ち上がって、フラフラと部屋の扉を開けて出て行った。
「ちょっとっ・・・杏奈!!」
あたしも立ち上がって追いかけた。
「ブッ!!」
部屋を行きおいよく出たとき、急に立ち止まっていた杏奈にぶつかった。
「杏奈ー!!お風呂入んなさい!」
『お母さん』という存在の声がこちらに聞こえてきた。
「はーい♪でも京介と一緒なら入るー!!なんちゃって」
通じそうもない冗談を笑顔で言うとあたしを見下すような笑みであたしを見下した。
「その体じゃ、京介は奪えないわね」
「ちょっ・・・でも、ばれたら消えちゃうんでしょ?!」
「そーだよ。でもあたし、誰かさんみたいな根性なしじゃないから」
そう言って階段にゆっくり足をかけた。
あたしは、何もしなくて京介と仲が良かったわけじゃない。
杏奈だって、生きていた頃何かした?
あたしだけが、そういう『根性なし』じゃない!!
「杏奈に京介は渡さない。体が小さくたってあたしは小春だもん!!今こうしてまた生きてるもん!!」
杏奈の動きは止まったが、背を向けたまま無言で階段を下りていった。
あたしはそのまま床にペタンと手をついて動かなかった。
「杏奈・・・」
あたしもしばらくして階段を下りた。
京介の家は何度か行ったことあるから家の間取りくらい覚えてる。
リビングはたしか・・・
「あ、苺」
重いドアを開けたら京介が座椅子に座ってテレビを見ていた。
「苺。お前姉ちゃんと風呂入ってくれば??」
首だけをこちらに90度向けて問いかけた。
今、杏奈と一緒に入りたくない・・・。
京介といたいよ・・・。
「やだ。お兄ちゃんと一緒いる」
あたしは京介の隣に座った。
「おいおいまさかお前俺と一緒に入るつもりじゃねぇーだろーな?」
苦笑いであたしを見て京介は聞く。
「!!」
あたしの頭は沸騰して頬を触ってみるとすごく熱かった。
「あはははは、そんなわけないじゃんー。でも良かったり・・・って!!」
後方から醤油のビンが飛んできた。
おそるおそる振り返ると杏奈が目を光らせてこちらを見ていた。
背筋がぞくっとなるはずだ。この世の者の目つきじゃない。まぁ実際そうか・・・。
“はーなーれーろー”
目だけで言ってることが分かるなんて恐い・・・。
あたしは恐がって笑いながらも京介のそばを離れた。
近くにある赤いソファーに座った。
京介ばかりを見ているとテレビの音が雑音に聞こえる。
あ た し 、 何 で こ こ に い る ん だ ろ う ? ?
京介にも告白はできない。
自分がバレて消えてしまう。
一体、何をすればいいの?
だって、このまま穏便に7日間をやり過ごせばあたしはまた生き返る。
記憶を全部消して。
死んだこと、京介のこと、杏奈のこと・・・。
“死ななければ良かった”
今更何の後悔なんだろう。
事故の記憶さえ覚えていないくせに。
ただ1つ、フラッシュのライトが光ったことだけ覚えている。
あれは交通事故だった?
何で自分が死んだかも覚えていないなんて・・・。
みじめだ。
・・・・・そうだ!!
京介に聞けば何か分かるのかも!!
「兄ちゃん!!」
あたしは顔を輝かせて京介を呼んだ。
「?」
はてなマークを浮かべながら京介は首だけ振り向いた。
「あああ、あのね!こここ・・・こは・・・こ・・・」
あ、あたし何言ってんだ?
「こ・・・んばん散歩でもどう?」
冷や汗をたらしながら京介に言った。
死ね―――――――あたし!!
「お、おま・・・ガキらしい言い方じゃねぇな。お前」
さすがに京介も苦笑い。
「別、いいよ」
やったぁ!!
あたしは心の中でリンボーダンス(?!)を踊った。
ハッと気づいてあたしは構えた。
杏奈はもう風呂に入っていたらしく姿は無かった。
安心したあたしはそのまま京介と一緒にテレビを見た。
杏奈が風呂から上がった後あたしも1人でお風呂に入った。
ただでさえ力のない体なのに杏奈に立ち向かっていく気はない・・・。
夕飯は京介と杏奈、京介のお母さん、お父さんとみんなで並んで食べた。
こんなこと、死んでからじゃできなかったね。
久しぶりにも感じた家族の食事。
内心あたしは心踊っていた。
「苺―。そろそろ行くぞー」
京介が玄関で呼んでいたのであたしは急いだ。
杏奈は自分の部屋で気づいていないらしい。
あたしはせかすように京介の背中を押して家を出た。