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Insomnia

作者: 音澄 奏

眠れない時には、無理に寝ようとしない方がいいとはよく言われることです。

しかし、午前三時を過ぎた僕に他にどんなことができたでしょうか。

仕方なく僕は薬を飲みに洗面台へと起き上がったのです。灯りをともす刹那のフラッシュが僕の目に衝撃を与えました。

僕はしばらく目をしばたいていましたが、やがて周りの景色が分かってきました。

そこは確かに洗面台でした。

薬は洗面台の右から二番目の扉に閉まってあります。

一度、薬を飲みすぎて僕が意識を失いかけた時以来、母が怒ってそこに閉まってしまったのです。

硝子瓶を取り出し、そこから2錠ほどわずかに黄ばんだ錠剤を取り出しました。眠るためにはこれで十分でしょう。

しかし、どうしてこうも睡眠薬というものは苦いものなのでしょうか。良薬口に苦し?いいえ、睡眠薬が体にいいわけがありません。身体に悪いものなら、もう少し美味しくたって罰はあたらない筈です。

とにかく僕はそうして、睡眠薬を口にすると大人しくベッドへと戻ったのでした。

しかし、ベッドへ戻った後も僕の思考と孤独とは僕を苛み、眠ることは叶わなかったのです。

「ベッドに入って、目を閉じていれば、人間は自然に眠くなるものなの。」

以前、習っていた家庭教師の先生にそう言われたことがあります。ただそれだけのことが僕にはどれほど辛いことでしょうか。何も考えず、ただ眠る。普通の人にとっては、当たり前のそれが何故僕にはできないのでしょう。

もっとも、眠れなくて困る理由も僕にはありません。明日の予定も約束もない僕にとって、困ることなど何一つないのです。

ただ眠れないことは、僕にとっても辛いことなので、眠るにこしたことはないのです。

ああ、いつからなのでしょうか。僕がこんな原因不明の病に悩まされるようになったのは。学校に行けないようになってから、5年経ちますが、眠れなくなってしまったのは、もっと前のことのような気もします。

原因不明。いいえ、原因ははっきりしています。それは僕の自意識過剰と自信の無いせいなのです。僕はもう、この家に篭るようになってしまってから、あらゆるものが僕を嘲笑っているかのような気がして恐くて仕方ないのです。

しかし、原因が分かったところで何になるでしょうか。癌の原因は分かっておりますが、今だ癌の決定的な治療法はありません。だから人はそれを病と呼ぶのです。

僕はわずかにめまいと喉の乾きを覚え、また洗面台へと起き上がりました。僕が部屋のドアを開け、玄関の方を向いたその時です。光がわずかに差し込んで参りました。

ああ、待ち望んだ朝がやってきたのです。

やっとあの長き夜が明けたのです。

そうです、永遠に続くかに思われた夜もいつかは終わるものなのです。明けない夜などないのです。これで僕は勝者です。

しかし、僕は同時に永遠の敗者であります。幾千の夜が終わり、幾千の朝がやってきても、そしてまた夜は廻るのです。

あの、眠れない夜が。

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