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悪役令嬢本領発揮

暴動は司祭を中心に行われていたようで、かなりの規模のものでした。まあ、当たり前でしょうね。今までここらあたりの権限はすべてあの方が握っていたようなものですから。ですが、貴族に自分から堂々と行かないで下の者にやらせるというのは気に食わないですわ。


「お嬢様どうされます?なんなら私が………」


物騒な目をするトウヤ。


「そんなことしたらますます私たちの不信感は高まるわ。あちらは何を望んでいるの?」


ギルドの長が新しく変わったことには不満はないでしょうが、おそらく彼ら、というより司祭が気に食わないと思うのはギルドが都市へと介入してきたことでしょう。介入したのは昨日今朝の話なのになんと耳が早いのでしょうか。


「ギルドと都市との切り離しでございます。ようするにこちらに関わるなということでしょう。」


「……エリ、少し頼みたいことがあるのだけれど…」

「なんなりと」


私は少々気になることがあり、それをエリに伝えるとエリは意地悪く笑って一礼しました。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「ふぅ。」


僕の名前はシュウ。元男娼です。お嬢様が5歳の時に、はやり病にかかり捨てられていたところを拾っていただきました。お嬢様は汚い僕に優しい言葉をかけてくださり、あったかいスープをご馳走して下さいました。そしてそのころから魔術師の才能の片鱗を見せていたお嬢様は僕に回復魔法をかけてくださりました。ぽかぽかと気持ちよかったです。僕は運がいいと思う。お嬢様に拾われていなかったらとっくに死んでいます。それから体を強要されることもなく幸せに過ごしています。


そして今、お嬢様はギルド長として辺境の地アレスタへと訪れ、この地の改革を行っています。僕はその担当者として指名されましたが、僕なんかに務まるでしょうか?


「シュウさん。ここはどうすれば………」


だけどこんな僕に任せてくれるお嬢様の期待を裏切るわけにはいかないから、僕は今日もなけなしの勇気を振り絞って話します。


「おうおうおう!!裏切り者どもがいたいた!!」


突然乱入してきた男達。


「……な、あなたがたは……!!」


村人達は誰か知っている様子。その男達はせっかく作り上げたびにいるはうすや畑を壊し始めた。


「………や、やめ………」


「んー?お前見かけねぇ顔だな。お前もしかしてギルドの者か?」


男が1人僕の髪を掴む。必死に抵抗するが、僕の力じゃとても敵わない。男達はびにいるはうすを壊し続ける。


「……やめ………」

「あ?」

「やめろおおおお!!」


僕の髪を掴む男の腕に噛みつき、びにいるはうすを破壊する男の一人に飛びかかった。


そしてボロボロになった僕が目を覚ました時最初に見た物は、びにいるはうすの無残な姿だった。



☆☆☆☆☆☆☆☆



「…………………」

「ほら、黙ってちゃわかんねぇだろ」


私の前で俯くシュウ。状況は隣にいるワタルに聞きました。いつもなら帰ってくるはずの時間に戻らないシュウを迎えに行くと、そこにはビニールハウスは無く、代わりにビニールハウスと思われる残骸が。傷だらけのシュウはその前で座り込み呆然とそれを見ていたのだと。住人達に尋ねても知らないの一点張りだったそうです。まあ、大体予想はつきますが。


「……………」


ぎゅっと服の袖を握りしめるシュウ。私はワタルに一旦外へ出るよう目で言い、ワタルはそれに従ってくれました。


「…………シュウ。」


私に呼ばれるとビクッと肩を震わせるシュウを私は抱きしめた。


「………お、お嬢様?ぼ、僕汚い………」


私から離れようとするシュウを私はさらに強く抱きしめる。


「汚くないわ。貴方は私の家族同然。汚いなんてあるものですか。ごめんなさい、あなたの傷は私のミスだわ。痛かったでしょう?」


まさかこんなにも早く妨害をしてくるとは思いませんでした。私は悔しくて悔しくてたまりません。するとシュウは首を振った。


「……ぼ、僕……………お嬢様の期待に………応えられませんでした……」


私の中ですすり泣く。


「いいえ。貴方は立派にやりとげているわ。それに壊れたらまた作ればいいのよ。貴方にはそれができる。そうでしょう?」


私より頭1個分小さいシュウの顔を手ではさみ、私に向けながら言いました。涙でいっぱいの顔だったけれど私が笑いかけると、にこっと笑ってくれました。私の大好きな顔になりました。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「なるほどね。」


それから2日経ちました。暴動は酷くなり、私の不名誉な噂までたつ始末です。そして私は司祭と会う約束をこぎつけました。今日がその日。私はエリからの報告書を読み、それを見てエリは不敵に笑います。


「…………えらく御機嫌ねエリ。」


「はい。お嬢様への不名誉な嫌がらせの報いを今からあれに出来るのかと思うとうきうきしてきます。」


今までにないくらい怖いエリ。このこもいい性格してるわと心の中で笑う。ギルドへの嫌がらせやシュウのことはすでにギルド内に広がり、まずシュウを可愛がっているマリカとアイサが激怒。そして二人ほどにないにしてもギルド内は殺気に満ち溢れておりました。 最近雇ったばかりの冒険者たちもです。その人たち曰く、司祭はギルドに入り浸る冒険者たちにも普段嫌がらせをしていたようです。今すぐ鉄槌を下そうと各々が武器を持ち始めました。もちろん私はそれを止めましたわ。


卑劣なやり方をした無礼者にはそれ相応の報いがあるべきだと思いますもの。


「ギルド長。司祭様とそのお付きの方が来られました。」


アイサの声で回想終わりです。そのアイサの声はいつものような明るさはありません。少し殺気のようなものが込められていましたわね。


「入っていただきなさい。」


私の声で扉を開けるアイサの横を通って入ってきたのは司祭と3人の屈強な男達。


「よくおいで下さいました。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私が新しいギルド長に任命されました。アルーシャ・シャーロットでございます。どうぞお座りください。」


「ギルド長殿。こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ない。司祭のプロトリーです。」


ぎこちなくお互いの挨拶が終わると、男達を側から離すことのないまま司祭は席に座ります。


「いやー今回のギルド長は若くて麗しい方でございますな。」


私を見定めるように見る司祭。これは女癖が悪そうです。


「今回の司祭様をお呼びいたしましたのは、少々お聞きたいことがあるのです。何故かギルドが都市へ介入するのを快く思われない方がいらっしゃるようでして。司祭様でしたら何故かご存知なのかと思いまして。」


さっそく話に入る。すると司祭は顔を崩すことなく、


「分かりませんな。そんな者がいるのですか?初耳ですね。」


と言います。


「そうですか。二日前、我々の所有物が何者かに壊されるという事態が起こったのですが………そのお心当たりは?」


「それは芳しくありませんな。犯人の見当はおつきで?」


「今調査中です。」


「………そうですか。早くその首謀者を捕まえ、平穏な日々に戻ることを祈るばかりです。」


ちらっとエリを見ると、エリはにこっと微笑んだ。いつでもいいらしい。では、いきますか。


「いえ、司祭様。首謀者の見当はついておりますわ。ですからあなた様をここに呼び出したのでございます。」


するとぴくっと眉を上げる司祭。


「……………それはどういう意味で?」


しかし、私はそれに答えず話を変えた。


「そう言えば、最近都市では私の噂がもちきりになっているようで恥ずかしい限りですわ。ご存知で?」


………この女、何を考えていやがる。なーんて顔に出てますわ。


「…………………いいえ。あなたのような方だ。随分と良い噂なのでしょうな。」


「今回のギルド長は『悪役令嬢』だそうです。」


「…………ほう。あなたのような可憐で気位が高い方にそのような不名誉な噂。聞き捨てなりませんな。」


「いいえ。私結構気に入っていますのよ。」


楽しそうに笑う。


「『悪役令嬢』だなんて私にぴったりではございませんか」


「っ!?」


そして顔を一変させる。今までのよそ行きの顔ではなく、敵に向ける顔。だけど笑みは絶やさず私の口は弧を描いていることでしょう。私はギルド長の椅子へと座る。


「司祭様?私はギルド長。ただの世間知らずの小娘ではございません。あまり私を甘く見ないようお願いするばかりですわ。」


「………それは………ご忠告……と受け取ってよろしいのですか?」


「いいえ。貴方にはすでに忠告していたはずです。私同じことを言うのはあまり好きではありませんの。」


だが、表情を崩すことなく司祭は言う。


「なんのことでございましょうか?確かにあなた様の使者からのご忠告は承っております。私はそれに逆らわないよう努めてきたつもりですが?」


あくまでもシラをきるつもりのようです。私はエリを見る。


「失礼しまーす。」


場にそぐわない声がし、中から入ってきたのはマリカワタル姉弟とボッコボコにされ縄で拘束されている男達。二日前シュウに傷をつけた男とその男に指示をしたあるグループのリーダーの男です。


「この男達に見覚えは?」


「………存じ上げませんな。」


「ここ最近勢力を増した犯罪グループのリーダーとその幹部たちです。もうそのグループは壊滅いたしましたのでご安心を。」


「…………それはそれは。さすがの敏腕。感服いたしました。」


わざとらしくお辞儀をする。だけど内心はヒヤヒヤのようです。何かあった時のための用心棒が消えてしまったのですから。


「私ギルド長として犯罪を見過ごすわけにはいかないんですの。」


「それはそれは。この都市は安泰です。私も安心して眠れるというも………」


司祭の言葉を私はため息で遮りました。いえ、遮るつもりはなかったんですけど。


「二日前、我々の所有物が何者かに壊される事態とともにその時いた私の" 家族"をその犯人は傷つけましたわ。私それについてかなり腹が立っておりますの。その犯人には重い罰を与えるべきだと思いませんか?」


にっこりと微笑むと、司祭様も微笑んでくれましたわ。ひきつっていらっしゃいましたけど。


「さて、司祭様?ここからが本題ですわ。貴方最近やけにぶりがよろしいですわね?都市開発のための資金は一体何に使われましたの?」


私はエリの報告書を司祭の方へ投げた。慌てて拾い上げる様子は滑稽でした。そこで初めて司祭様の表情はくずれましたわ。


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