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私の謹慎、解けてましたわ


 「あら、あなたやっと来たの」


朝、マリーヌたちがいる部屋の扉を開けると、顔だけ覗かせた彼女はそう私に言い放ちました。思わずぽかんとしてしまいます。…何に驚いたのかって、まあ久方に会う友人に向かってそんなことを言い放つ彼女に対してもそうなのですが、何よりその部屋中に埋め尽くされるようにあるドレスの山ですわ。唖然とする私を見て、


「なにしているのよ。あなたも早くドレスを決めなさいな」


と言うと、マリーヌは服の採寸に目を戻します。はしゃぎながらドレスを選ぶセナはそもそも私に気づいてもいません。右を見ても左を見てもドレスで、ノッテで流行っているものから、アルデヒドで流行りのもの、同じドレスで些細な違いのものから色違いまで揃えてあります。


「……これは…パーティー用のドレスですか?」


「当たり前じゃない。パーティーは我々淑女の義務よ」


私が体調を崩している間に、あなたたちはパーティーの準備をしていたのですか。私はため息をつき、彼女に言いました。


「……私は遠慮しておくわ。終わったら呼んで頂戴……」


「あらやだ。たかが公爵令嬢ごときが、私のお誘いを断ると言うの? いい度胸しているわね。アルデヒド王国との付き合いも考え直さなきゃいけないかしら?」


マリーヌの高慢ちきな言葉が、部屋を出て行こうとする私を止めます。…あなた、ご自分の思い通りにならないときに、国のことを言うのはさすがに汚いわよ。


「あれ、アルーシャ! あんたも来たの?」


ようやく私を認識したセナが、私に駆け寄り、私の手を引きました。


「見なさいよこれ! 凄いでしょ! 今度マリーヌの誕生祭があるらしくて、マリーヌのおじ様が私たちもどうかってご招待してくださったのよ!! その費用は全て持ってくれるんだって。せっかくのご好意を受け取らないと損よ損!」


あぁ…なるほど。私は腑に落ち、クスリと笑いながらマリーヌを見ました。そんな私を見てたじろぐマリーヌ。あなたの異常までのルーカス様への愛はもうおなかいっぱいですわ。ですが……どうしましょう。私は今謹慎中の身ですから、社交界に顔を出すわけには……


「そのような顔をせずとも、シャーロット家御当主から許可はいただいているわよ。まぁ、あなたの謹慎はすでに解かれているそうだし……聞いていないの?」


謹慎が解けている?私は首を傾げました。大体、私の謹慎は表立って解けるようなものなのでしょうか??私の疑問は、ノック音で部屋に入って来たアンが答えてくれました。


「アルーシャ様がご存じないのも無理はありませんわ。グリアムの目に余る行動に、つい先日、私の母…つまりは第二王妃様の怒りが爆発しまして……彼の方が今王室にて謹慎の身なのです」


…あの温厚な第二王妃様を怒らすなんて…一体彼は何をしたというのでしょう?アンを見ますと、アンはニコリと微笑み返しました。


「勝手に王宮の一つをエリザ様にお与えになろうとしたのですわ。今は使われていないとはいえ、お兄様の所有物を他人に与えるなんて……脳みそまでお花畑になったのではないでしょうか?」


その笑みには黒いものが宿っているように見え、私はマリーヌたちとこっそり顔を見合わせました。確かに、アンや第二王妃様が怒りを露わにするのも分かります。アルデヒド王家の長女である彼女が唯一お兄様と呼べる方。それは、アルデヒド王家長子のエミール・アルデヒド様でございます。彼は幼い頃から神童と呼ばれ、また将来を期待されておられた方とお聞きしております。しかし、数年前…彼は不運の事故で亡くなられたと聞きました。彼のお母様である第一王妃様もその事故に巻き込まれてしまい、その葬儀が行われた際には様々な憶測が飛び交いました。噂では…あくまで噂ですが…その事故は、グリアム様の母君…第三王妃様が仕組まれたものだとか。息子の王位継承のために。


「…よりにもよって、お兄様が愛していらっしゃったあの場所を……」


ぎゅっと可愛らしいワンピースを掴むアン。私たちがどう声をかけようか迷っていると、突然ハッとしたように、顔を上げました。


「とまあ、グリアムにはいい罰になるでしょう。あの子と過ごすはずだった休みが、全て勉学に費やさなくてはいけないのですから」


そして、ニコッと笑うと、ワンピースをそっとつまみ、マリーヌにお辞儀をするアン。


「この度は、御生誕の催しに招待していただき、ありがとうございます。マリーヌ様」


「…いえ。粗末な催しかと思いますが、どうか楽しんでくださいませアントワーヌ様。ドレスなど色々入用かとは思いますので、遠慮なくお申し付けください」


満面の笑みを零し、そして専属のメイドと共に立ち去るアン。


「……お姫様も色々大変なのね」


その後ろ姿がドアの向こうに消えると、セナがボソッと呟きます。それに、この場で唯一お姫様であるマリーヌが頷きながら、注がれたコップに口をつけました。


「当たり前でしょ。お姫様だって、可愛らしく佇んでいるだけじゃないのよ。王位継承やら未来の殿方探しやらで大変なんだから。…あの方は特に複雑でしょうね。なにせ、魔王の花嫁として選ばれたのだから


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