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アントワーヌ姫の疑問

☆☆


「急なシリアスシーンを、ぶっこんできたか」


備え付けのベッドに大の字になりながら、私はそう呟いた。いきなりのイベントに私は驚くばかりだ。3日前にアルの調子がおかしいことに気づいてから、何が起こるかハラハラしていたが、まさか恋愛イベントではなく父親のイベントだとは流石に誰も思うまい。


「何? どういうこと? プレイヤーの記憶に引っ張られたイベントなんてあるはずないし…。そもそも、アルが魔物に襲われている時点でおかしいのよ。私が魔王の花嫁って設定もおかしいし…私が知っているストーリーと違いすぎる」


私は勢いをつけてうつ伏せになり、枕に頭を埋めた。枕の下から今までしたためてきた日記を取り出す。アルと出会って考えること。それは、あまりにも自分が世間知らずだということだ。うちの国にダンジョン…しかも塔のダンジョンが現れたことを、私が知ったのは最近のことだった。アルの力で無事排除したらしいが…


「おかしいのよねぇ…。塔のダンジョンって、魔王の部下と対面して初めて挑戦できるんだよなぁ。クリア条件は、確か双竜の片割れを仲間にして…でもあれは、主人公限定の出会いでアルは会わないはず…。それと、騎士団長のおっちゃんとも会わないといけないし…そのためには……あっ!? アーベル!! そういえば、アーベルとのイベントじゃん!! アーベルが無茶な戦い方でダンジョンの主に挑んで、敗北しそうなところで主人公が現れる。彼女を守るために真の力を発揮しダンジョンの主を倒す!! そのイベントムービーが中々綺麗なグラフィックで……私も見たかったぁぁぁぁぁ!!!」


私はネットで絶賛だったあのシーンを、ゲームでも本物でも見られなかったことに肩を落とした。私の絶賛の推し、アーベル・シャングボルト。主にエリザ攻略の際に見られ、あの悪役令嬢とコミュニケーションがとれる唯一の攻略対象。その鍛えられた肉体美と、仲を深めた者しか分からない彼の優しく妹思いなところがプレイヤーの心臓を鷲掴みにするのだ。


「私はエリザとの絡みはあんまり好きじゃないんだけど、彼の一途で真っ直ぐで、好きな人のためなら例え相手が誰であろうと救いに行くその姿勢が好きなんだよね。アルが学園を追放されそうになるシーンでは、彼だけが唯一彼女を庇ってさぁ。んんっ!!


『俺は、お前がどうしてこのようなことをしたのか分からん。だが、お前なりに婚約者を取り戻そうとしたのだろう。…お前の心内を気づいてやれんで…すまなかったな』


かー! イケメン!! アーベルのこの悪をただ悪だと決め付けない騎士道に、惚れた女は数知れず。そのイベントの後、アーベルとアルーシャの二次創作がどんっと増えたのよねぇ」


まぁ、私の好きなカップリングはアルーシャとエリザで揺ぎ無いけど。運営の思惑通り、アーベルの女となった私は、彼のグッズを買い占めてしまうのだが……あのグッズたちは私の部屋で元気にしているだろうか。…捨てられていたら、私はマジで大泣きするぞ。


「あー!! 早く帰りたい!! できるなら、別のキャラに転生したい!! …アルーシャ・シャーロットだけは勘弁して欲しいけどさ」


アルーシャと私が転生したアントワーヌは、主要キャラたちの中でも残酷なエンドが多い。アルの場合、主人公の助けがなければ死んでしまうエンドが多いのも、大変な理由の一つ。


「…一時期、あまりにも死ぬエンドありすぎて、運営がアルを嫌い説あったっけ?」


だが、肝心のアルは、全くこの世界のことを知らないため、余計に彼女が心配になる。死ぬエンドが多いと一回手紙で忠告したことあるが、彼女はどこ吹く風だったことを思い出す。


「『あら、それは大変ね』じゃないよ! 査問会の時は本当に肝を冷やしたんだから!! …でも、あれも変なんだよねぇ。あの経済大臣のくそっぷりは毎度のことなんだけど……ルドルフがなぁ…」


メイドたちを巻いてこっそり聞き耳を立てていた私は、会議の中でやけにルドルフが彼女を攻撃しているのを思い出す。確か、あの査問会には主人公も参加して、その選択によって結末が変化するようになっている。


「そのときは、経済大臣が彼女を言及する側で、ルドルフは逆に彼女を庇う側だったはずなんだけど…何がどうなってそうなったんだろ? それに、マーダー家が現れなかったのも意外だなぁ」


大体、彼女はマーダー家の当主に殺されて終わるはずなのに。


「見覚えのないストーリー。訪れることのないプレイヤーに対しての妨害。……まさか、私みたいに展開を知っている者があらかじめ手を打っている…とか?」


私はんーっとない頭をひねったが、答えは出ない。そして、ついに私は考えることを止めた。


「あー! やめやめ。どうせ、私は推理イベントはいつも攻略を見る人間ですよー!!」


そして、私は大きく欠伸をした。今のところ、私に関しては魔王の花嫁イベントという意味不明なもの以外はない。


「私が魔物に襲われても、アルが助けてくれるでしょ。めちゃめちゃ強いし」


だけど、アルーシャ・シャーロットってあんなに強かったっけ?ふわぁっと欠伸を一つし、私は眠りに落ちた。明日は回復したアルとどこに行こうかと考えながら。


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