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蠢く影と頭痛の種

 __________



「…んー。中々上手くいかないもんだね」


男は暗い空を見てそう呟いた。そこはとある地。人が恐れて近寄らない魔の地であった。昼の時刻であるというのに空は闇に覆われており、そして辺りには命の気配すら感じられなかった。


「……ええ。予定では今頃、目的の物は我々の手の内にありましたからね。これでは大幅にずれてしまいます」


そんな土地に命知らずにも大きな城がそびえ立っていた。そしてその城の一室では、欲に飢えた男と、それに従う者がこれからの話をしていた。


「…思えば最初のあの時から予定は崩れかけておりました」


従う者はため息をつきながらそう言った。予定が変わることにいら立ちを隠せないようだった。


「…ふむ。その通りだ。…ところで、あの時とは一体どんなときだったか」


それとは対照的に、男は別段気にも留めていない様子で彼に問いかけた。


「……………………………ギルド長会議の時です。欠陥品がしくじったおかげで、さらに手を出しにくくなり、その存在が人間側に知られてしまいました。そしてさらに、問題なのは今回の件です。無事目的そのものは達成いたしましたが、その他のことが大いに台無しにされてしまいましたよ。あの国は我らにとって都合が良かったものですからね。とある商業社を手にしたまでは良かったものの、邪魔をされてしまいましたから。…ただでさえ最近鬱陶しい連中が増えてきて、材料の調達もままならないってのに……聞いていらっしゃいます??」


「…うん? 大丈夫…起きてるから」


大きなあくびを一つして手をひらひらとさせる男に、従う者は頭を抱えた。


「…魔王軍が南の大陸を落としたという知らせから、もう何日たったと思っているんです? ひと月と半月です。あちらにいるスパイとは連絡取りにくいんですから、次にどんな動きをしてくるか分からないですし…。我らが今こんなところで手間取っているわけにはいかないんです……って、おい!!」


ついに従っている者の堪忍袋の緒が切れた。崩した姿勢で座り、最後の一滴を惜しむかのようにワインを飲んでいた男の頭を力強く殴ったのだ。鈍い音が部屋に響き渡り、次に見た時、男は椅子から転げ落ちて頭を押さえていた。


「…いてて。もー、君はまじめすぎるんだよ。もっと気楽にいこうよ気楽にさ。別に゛彼゛の存在が知られたところで構わないでしょ。あそこで目撃者を逃がしてしまったとしても、もうすでに僕らが彼の存在を広めてしまっているんだから。あそこで人を殺したのは、奇妙な力を使う黒いマントの男ってね」


「違いますよ! 俺が言いたいのは、材料の調達の件で…」


「それについても問題なーし! だって、たかが材料だよ? そんなもんこの世界には腐るほど有り余ってるって。さすがにこんなとこにはないけどさ」


男はへらっと笑って、外を指さした。従う者は男のその答えに呆れるも、それについては正すことはなかった。


「…まぁ。確かに実験の約八割が上手くいっていますし、前の時のように多くいることはないのでしょうが…」


「そそそ! それに人間軍(あっち)魔王軍(そっち)も我らの目的に気づいていない。障害は少ないってわけ。今手を付けているゲームが終わったら、次にアレを手に入れればいい。ん~! 楽ゲー最高!! 」


男は腕を大きく伸ばし、叫んだ。従う者は本日何度目かになるか分からないため息をつき、そして気づいた様子で口を開いた。


「…と言いますと例の国は…もう?」


「そういうこと。国王軍が面白い手を使うもんだから、結構次の手を待ってたりしたんだけど…もう飽きちゃった」


「……飽きっぽいあなたにしては持った方ですね。しかし、一体どんな手を? 前任者の失敗をあなたが無理やり引き継いでから、ひと月も経っていませんよね」


「ん? んー。ああいう所ってさ、まずライフの確保をしなきゃいけないから、まずそれを止めるでしょ。そしたら、こーなるからそれをよっこいしょーってすれば、うわあああってなって……」


「あー、やっぱりいいです。自分で確認しますから」


男の言葉を遮り、従う者はきっぱりと言った。傍から見たらどちらが上なのか分からない態度である。


「あらそう? でも、やっぱりいいね、現場って」


男はそんな従う者の言葉も特に気に留める様子もなく、嬉しそうに呟いた。従う者はそんな男の様子が珍しいのか、首を傾げた。


「…ぐうたらなあなたにそんなことを言わせるだなんて。今回の相手は優秀だったということでしょうか?」


「んー、でも魔王攻略ほどではないかな。ツンデレ姫以上ロリ魔王以下ってかんじ?」


「……その例えは私には分からな過ぎますね。説明もしなくて結構です」


「くっくっ!! あー楽しいね楽しいや。それこそこの印にふさわしいよね」


男は自分の左手を見せながら言った。その男の中指には鈍い光を放つ指輪がはめられていた。従う者はそれをちらっと見て、肩をすくめた。彼の腕にも施されているその紋は、ライオンの骸骨に蛇が巻きついているという、なんとも不気味な紋様であった。



__________




 こんにちは。アルーシャでございます。こちらは清々しいお天気です。お母様もおばあ様も相変わらずお元気でいらっしゃいます。実家はどんな状況となっているか大変気がかりではございますが、さっそく本題に入らせていただきますわ。つい先ほど、アルデヒド王国第一王女であらせますアントワーヌ様がいらっしゃいました。何やら私の見舞いにこられたということですが、私は今国外追放の身でございます。これは一体どういうこと……


「アル! この私を放って置いて、どの殿方宛の手紙を書いているのかしら?」


ずざっと四分の一まで書いていた手紙が途端に破けました。私はいきなり後ろからタックルをかましてきたセナをじろりと見ました。


「……アルデヒド王国名家シャーロット伯爵家ご当主ルドルフ・シャーロット様へのお手紙を執筆中であったのですが、それが何か? セナ・ルクエア」


「ご…ごめん」


ばつが悪そうにジルの後ろに隠れるセナを一瞥すると、隣で優雅にお茶を飲んでいたマリーヌが口を開きました。


「いい加減になさい。誰も彼もあなたみたいに仕事中毒(ワーカーホリック)ではないの。予定外のことが起きて仕事ができない不機嫌さを、私たちに当たり散らさないで頂戴。せっかくのお茶がまずくなるわアルーシャ・シャーロット。それに王女様の前よ。セナもそれ相応になさい」


…今そのことで頭を悩ませているというのに…。私がため息をこぼすと、


「……すみません。やはりご迷惑でしたわね」


しゅんとした様子でアンが口を開きました。


「いいえ。そのようなこと、あなた様が気になさることはないのよアントワーヌ姫。ほら、お菓子もどうぞ」


ほらみなさい、あなたが気を使わせてどうするのよ…と言う目線をマリーヌが送って来ました。ジルもセナもそんなアンの様子に慌てて笑顔を取り繕います。…まったく、あなた方はそれでよいかもしれませんが、こちらはそうもいかないんです!


「……アントワーヌ様。先ほどのお言葉について、許可はいただいているのでしょうか?」


「ええ。皆快く送り出してくださいました」


……嘘ですわ。にこっと微笑むアンに私はそう思いました。大体、そんな簡単に外へ出すならば、今の今まで外に出さなかった理由が分からなくなります。…やはりこの一件、お父様が絡んでいるとしか思えません。


「……………分かりました。こちらからも一応確認を取っておきます。マリーヌ」


「ご心配なく。アントワーヌ姫のお部屋はご用意させていただいておりますから。それに追い出すなら、他に追い出すべき方々がいますので、アントワーヌ姫を追い返すなんて無礼な真似はいたしませんわ」


笑顔を浮かべるマリーヌにぞっとした顔をするセナとジル。


「同盟国とは言いながらも、突然の来訪でありますのにこのような待遇…本当に感謝いたしますわ」


一瞬、ふわっと綺麗な花々が咲き誇っているかのように錯覚してしまいます。それほど、老若男女構わず惹かれてしまう微笑みを浮かべるアン。……私も最初、その笑顔に騙されたものだわ。それとは裏腹の内面を知っている私以外のその場にいる全員がその微笑みに見とれていました。


「…では、アントワーヌ様とこれからのお話がありますので、よろしければ席を外してくださらない? お三方」


私がお茶を一口飲みながら、そういうとハッとしたように三人は立ち上がりました。案外あっさりと従ってくれたその後ろ姿に、私は思い出したように声をかけました。


「そうそう。盗み聞きみたいなはしたないことはなしよ」


どうやら図星のようでした。ぎくっとし、私を恨めしそうに見た後で、ようやく二人きりになりました。


「それでアン? あなた他に何か……」


お父様がわざわざこの状況下で王女をよこす。これには何かあるはずです。その証拠にアンはわなわなと体を震わせて……


「ずるい!!」


「……は?」


しかし、その口からは予想外の言葉がでました。…ずるい?国外追放を受け、その滞在先で魔族に襲われ、さらに仕事が大忙しだというのにまだそれに手すらつけていないという私に対して、一体どこにそんな要素が…??


「ずるいずるいずるい! ずーるーいーー!! なんで花の王子と一緒にいるの!? ずるすぎる!!」


…花の王子??はてなが浮かぶ私を置いて、アンは頭を抱えながら一人暴走を始めました。


「なんで四大悪女と『花の君』のジルが仲がいいのよ!! そんな組み合わせずるすぎる! 優しくて怒ることが滅多にない花の王子をどうやってやきもちを焼かせるか…それがプレーヤーの醍醐味の一つでもあるってのに…!!」


「……ジルはあんななりをしていますが、立派な女性ですよ?」


「知ってる! じゃなきゃ、いちゃラブ百合verに出てこないもん!! 唯一の男装キャラだから、みんな血眼になって落とそうとするんだけど、中々難易度高めでさ。クリア特典も鼻血と涙なしでは見れないようなアニメムービーもあるし…。あと私的には捨てがたい女装もハッピーエンドのご褒美おまけだから…あー! ジルだけで私何週間使った!? それでも友情エンドから先に進まないし……。もー! セナのあの落ちやすさをジルも見習って欲しいよほんと!! 最終的には押してダメなら引いてみろ作戦だったけどそれも完敗で、どこかの誰かが四大悪女共と絡ませたら簡単だったとかいうからしたけど、それもだめだったし……ん? でもここではジルは四大悪女グループにいたよね? てことは、ジルと四大悪女は相性がいいってこと!? 嘘―!! そんなのどこの攻略にも載ってなかったじゃない!! ふざけんなぁぁ運営!!」


……ストレスが溜まりすぎたのでしょうか。この間のご乱心よりも激しいですわね。


「あ! でも今は四大悪女じゃなくて、三大悪女しかいない…。あー! なんで肝心の推しがいないのよ!! 私四大悪女の中でだったら『小さな暴君』派なのに!! …んんっ!! 『何を言っていらっしゃるの? あなた様のそのこうるさいお口、塞いでしまおうかしら』とか! 『…べ、別に! あなた様を気に入っているとかそんなのありえないんだからね!』とか! 『よしよし、下僕♡』とか生で聞きたかったぁぁ!!」


……『小さな暴君』。確かにあれとも付き合いはありますが…彼女が絶対に言わなさそうなことを希望するのですね。そんなの死んでも言わなさそうですよ彼女。自分以外の奴らは爆発しろ…と言うのが彼女の口癖ですから。しかし、上手いですね彼女の声真似。


「ふふふ! 私全キャラの物真似得意なんだ!! なんなら、アルのも今度してあげるね!! あ、ちなみに最後のは暴君友達エンドの特典で、卒業後に薔薇の庭園で首輪をつけられた時に言われる言葉なの。いやー、まさかあれが流行語にピックアップされるなんて…」


…聞いていませんし、しなくていいです。私はごほんっと咳ばらいをしました。そろそろ私も本題に入りたいのですが…


「…あ…ごめん。またやっちゃった。いやー最近部屋の外にも中々出させてもらえなくてさー…ストレスというストレスが溜まっちゃって…ごめんね」


「…あなたも大変ねアン。それで先ほどの話だけど、本当に私のお見舞いだけ?」


「ええ。まあ言うとするなら、外に出たかったというのもある!!」


…そんな堂々と…。


「心配しなくても本当に王様には許可を貰ってるよ? ふふっ、私を守ってね!! アル♪」


……頭痛の種が増えることになりましたね。


どうもです。ご無沙汰しております。更新が不定期&疎かになっており申し訳ありません。今後の展開にあわわっとなっているのです。定期的に更新できるよう努力はしておりますが、気長にお付き合いいただけたらと思っています。すみませんほんと。


今回、人間側と魔族側の他に新しい勢力が出てきました。まー、個性的な面々が負けじと揃っています。


好きあらば、サボろうとするトップの男と、それに悩まされるNo.2の従う者が今回、出てきましたねー。


No.2は胃に穴が開きそうですね。胃薬を常備してそうです。トップは基本的自由な性格の持ち主で、そんな人間がよくもまぁ、あんな組織を作ったものだと思います。それはまた追々…ということで。


では、今後とも『我らが悪役公爵令嬢様』をよろしくお願いします。55話の談話でした。

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