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ノッテ王国で②

お店の中は薄暗く、そこら中ガラクタのような物が無造作に置かれてあります。どこかで見たような人形、壊れたおもちゃ、古びた宝石など見る限りもう持ち主から必要とされなくなったものばかり。もしかしたらリサイクルショップなのかしらと思いましたけど、表に看板はありませんでしたわね。


「いらっしゃい。」


すると店の奥からおばあさんの声が聞こえました。私の他にお客さんはおらず、声はお店に響き渡りました。


「おやおや。珍しい客が来たもんじゃ。何をお求めかね?」


おばあさんは私を上から下まで眺め、近くに寄り添った毛並みのいい犬を撫でながら言いました。…何かを求めてこの店に入ったわけではないのでその質問は少々困りますわね。


「ここは何のお店なのですか?」


「ここは失われた物が見つかる店でもあり、お前さんが無くしたものを見つけるお店でもあるの。」


ほっほっほっと笑うおばあさん。


「無くしたものですか?」


私、昔から物持ちはよい方ですから…。無くしたものなんて思いつきませんわね。


「…ふむ。お前さんはどうやら無くしたことにすら気づいていないようじゃな。じゃが、それを探す手伝いはできても、わしはそれを思い出す手伝いはできないんじゃよ。困ったの。お前さんにとって大切なものなはずなんじゃが…」


なんでしょう?いくら考えても思いつきません。こんなに考えても思い出せないとなると、それって本当に大事なものなのでしょうか?


「分かりませんわ。それほど大事ではなかったということでしょう。諦めますわ。」


「ダメじゃ。お前さんはそれを思い出さねばならぬ。その義務があるからの。」


おばあさんはきっぱりと言いました。そしてそばの犬が何かを咥えているのを見つけ微笑みました。


「おーそうじゃそうじゃ! これがあったか! いい子じゃルーシア。」


そして私にそれを手渡しました。それは中が空洞の透明な球でした。よく見てみると、藍色に光っています。


「ふふっ。それはな、探求玉(シークビード)と言ってな。お前さんが無くしたものの手がかりを探してくれるんじゃよ。今はお前さんの魔力を感じ取っているだけじゃがな。」


藍色の中をキラキラと星みたく光っていて球の中はとてもきれいです。私の魔力はこのような感じなのですか。他の人はどのようになるのでしょう?


「これ、いただけるのですか? お代は…」


ぱっとおばあさんの方を見るとそこには先ほどはいたはずのおばあさんはいませんでした。そればかりかお店もないのです。私は外にいました。入った時と同じく、人がたくさんいる中に。


「アルーシャー!! あんたどこ行ってたのよ! 私を走らせるなんて言い度胸してるじゃない!!」


「あなた赤い屋根なんてよくもまあそんな嘘をついたものね。嘘つき令嬢に名前を変えるべきよ」


セナとマリーヌが顔を真っ赤にしてこちらに来ました。…白昼夢だったのかしら?護衛の方々に聞くと、私が指した赤い屋根のお店はなかったと言います。私が店の中に入ったところは人込みに隠れて見ていないと。…私疲れているのかしら。


「…あなた何か買ったの? 珍しいわね。」


「はあ!? あんた何楽しんでたのよ! このっ!」


セナがまだ混乱中の私の手から何かを奪いました。それはおばあさんからいただいたあの球でした。


「…なにこれ?」


セナがきょとんとした顔でそれを見つめています。茶色の波が球の中をゆっくり流れていました。


「かしてごらんなさいな。……なんでしょう? 綺麗ですわ。」


マリーヌがそれを手に取ると、今度は淡い水色になりました。


「…確かこれは探求玉(シークビード)と呼ばれるものですわ。中々手に入らない品物ですわね。こんなものどこで買ったの?」


「…貰ったのよ。私もよく状況を把握できていないのよ。」


「へぇ。気前のいい人っているのね。どこの店なの?」


セナが辺りを見渡しながら言います。…そこにあったはずなのですが…。気が付いたらただの土地になっていたとは言えませんわね。


「…確か…。あら。」


私がどう言おうか考えていると、目の端に路地裏で数人に絡まれている少女を捉えました。私はそちらへと急いで向かいました。


「いいじゃんかよ。俺たちと遊ぼうぜ。」


「……」


「無視かよ。おい何か言…」


「止めなさい。」


私が制すると、数人の男たちは私を見ました。そしてにやっと笑うと、


「なになに? お友達? こっちは美人さんだ。」

「ラッキー!」

「可愛い彼女と美人な彼女かー。迷っちゃうなぁ。どうする?」

「そうだなぁ。俺は…」


と口々に言いました。そして少女の腕をいきなりつかみ肩を抱きました。…あ


「俺はやっぱり最初目をつけたこの…」


男は最後まで言い終わることなく倒れました。


「…は?」


「やれやれだよ。こっちは君らに興味も関心もないってのに。」


少女はその細く女性らしい見かけによらず、辛辣な言葉を吐きました。そしてショートの髪の毛をうっとうしそうに耳にかけて、その他の男たちを見ました。そして私に微笑みます。


「久しいねアル。君は相変わらず凛々しく、そして美しい。」


「あなたも相変わらず容赦しないわね、ジル。普通絡まれただけで失神させないわよ」


絡まれていたのは私の友人の一人であり、何故か学園にいるはずのジル・ノストラでした。男たちは慌てて失神した男を連れて逃げ去っていきましたわ。


「休暇中なんだよ。どうせだから、君に会いたくてね。マリーヌに言っておいたんだが、聞いてなかった?」


「…」


ちょうどマリーヌが来たので目を合わせると、速攻で逸らされてしまいましたわ。…忘れていたのねあなた。


「誰かと思えばジルじゃない。あんたもこっちに来たの?」


「これはセナ。久しぶりだね。そういえば愛しの彼、頬を怪我していたみたいだけど何かあったのかい?」


…セナのパンチは体が丈夫なことで有名なシャングボルト家の跡取りを超えるものとなりましたわね。


「怪我!? なにそれ!! どういうことよ!? …何してるの! さっさと戻るわよ!!」


しかし当の本人は忘れているようです。慌てて私たちを引き連れてお城へと戻っていきました。




「全く慌ただしいにもほどがあるわ! まだ何も買っていないのに!」


マリカはご立腹のようです。セナはお城に入るとすぐに自分の客室に走り去ってしまいましたし、これからどうしましょうか。


「マリーヌ、もう帰って来たのか?」


すると向こうから大勢のおつきの方々を引き連れたノッテ王国ギルド長ルーカス様が笑いながらやって来られました。マリーヌは不機嫌そうな顔から一変し、ルーカス様に抱き付きました。


「おじ様! ええそうなの。でもおじ様にこうしてお会いできたのですから、よしとしますわ。」


…久しぶりに見ましたが、これは強烈ですわね。マリーヌのこの豹変ぶりはいつ見ても慣れませんわ。隣にいるジルと顔を見合わせて同時に苦笑いしました。


「私もお前に会えて嬉しいぞマリーヌ。疲れが吹き飛ぶ。」


すっかり姪っ子にでれでれのご様子のルーカス様。そして私たちの視線に気づかれるとマリーヌを降ろし、こちらに歩いてこられました。


「これはこれは。アルデヒドのギルド長様ではございませんか。ご挨拶が遅くなってもうしわけない。ごきげん麗しゅう。まさか我が姪のご友人だったとは驚きでしたな。言って下さればよろしかったのに水臭い。…少々お時間よろしいかな? 可憐なお嬢さん、ご友人を少しの間お借りいたしますぞ。」


ルーカス様は私の返事も聞かず、早足で近くの部屋に入られました。お供の方々は外で待機されています。私はすでにギルド長から退いた身です。そんな私に一体何の御用があるというのでしょう?


「……失礼致しますわ」


部屋に入るとそこはどうやらルーカス様の書斎のようで、あちらこちらに書類が積まれてありました。


「散らかっていてすまない。そこに座ってくれ。」


唯一書類が乗っていない椅子に腰かけ私はルーカス様の言葉を待ちました。


「休暇中なのに申し訳ない。しかし君の耳にも入れておこうと思ってね。アルデヒドで発生した塔のダンジョンを攻略した君に。」


ルーカス様は私の顔をじっと見つめました。私は彼の自慢の髭や髪がいつもより張りがないことに気づきました。それにどこか疲れていらっしゃるご様子です。そう言えばマリーヌが最近忙しくて相手にしてくれないとこぼしていたことを思い出しました。


「…それは最近あなた様が寝る間もなく忙しくされていらっしゃったことと何か関係があるのでしょうか?」


「……実は私のところにも現れたのだよ。アルデヒドのように塔という形ではなく、ごく一般的な洞窟という形でだがね。それが発生したのは五日前。王都から二キロほど離れた村にでき、大人一人やっと入れるほどの形となっているが、毎日そこから中級くらいの魔物たちが出てきておる。私はSランクの冒険者や信頼できる部下たちを何度も派遣したが、攻略者はおらず音信不通となっている。」


確かに最近、ノッテの騎士団も慌ただしく動いておりましたが、まさかダンジョンが出現していたとは思っていませんでした。ダンジョン出現から時間も経っていることから、もうそろそろギルド長自ら出陣しなければなりません。このタイミングで私に話したとすれば……


「同盟を結んでいるとはいえ、休暇中のそなたにこのようなことを頼むのは心苦しいが…」


…ふう、面倒な展開になってきましたわ。私は今謹慎中の身ですから、他国で目立つわけにはいかないのですが…


「どうか私が不在の明日だけでいい、ここ王都を気にかけていただきたいのだ。」


…あら?


「どうなされた?」


「いえ、私に攻略して欲しいと依頼でもされるのかと思いましたわ。」


すると、ルーカス様は一瞬驚いたような顔をされ、そして大笑いされました。


「こんなまたとない機会を誰が譲るものか! ダンジョンの攻略など血が騒ぐわ。それにそなたは我が姪の客人、そんな危ないことはさせられぬ。時間を取らせてしまいすまなかった。どうかマリーヌをよろしく頼む。」


…セナのお父様と同じことを言われてしまいましたわ。なんだか私、お預かり保母さんのような立ち位置な気がしていました。


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