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人間界での不穏な動き

 「ぷっひゃー! 仕事をした後の酒ほどうまいものはないの!!」


先ほどと打って変わり、豪快に飲み始める師匠。だが俺は先ほどの魔王様とのやり取りが気になっていた。゛アレ゛のことは師匠に聞いてもおそらく答えてくれないだろう。師匠はいつもそうだ。だからこそ、アルマさんに聞いたのだが、アルマさんも素知らぬ顔で俺の質問を質問で返した。


「……それはあなたの任務に何か関係あるのですか?」


何とか言い返そうと思ったが、彼が俺の質問に曖昧にしたことなんてあまりないのでこれはよっぽどなんだろうと思い、止まった。彼らに聞かずとも知る手段なんていくらでもある。


「ほれぇ、我が弟子よ。なーに辛気臭く飲んでおる。若者ならばもっと豪快に飲め!」


おっさんのような絡み方の師匠をアルマさんが制した。


「クロ―ド君はあなたと違ってまだ仕事があるんですよ。」


「なにー! 仕事…ぶひゃひゃひゃ。えらいのーえらいのー。」


赤い顔をして、机をバンバン叩き始める師匠。


「なんでそんなによっぱら……あー!」


師匠が先ほどからがぶ飲みをしているのはかなり度数の強い酒。すでに一本目が無くなりそうになっている。


「ちょ…」


アルマさんがキッと鋭い目で俺を見る。俺は首を横に振った。俺が用意したものは度数低めの名酒ばかりだ。そんな、アルマさんを激怒させる勇気など、俺は持ち合わせていない。おそらく師匠が持ってきたのだろう。…どのルートかは知らないが。


「……私の詰めの甘さが原因ですか…」


がっくりと膝をつくアルマさん。


「うひゃひゃ。任務まで貰ってクロも偉くなったなぁ。わしは嬉しいぞー。」


しっかりしてくださいアルマさん。あなたが折れてしまっては誰がこの飲酒少女を止めるんですか。俺の髪はすでに壊滅的なぐちゃぐちゃ具合だ。


「うひゃひゃ。じゃがなー、わしは反対じゃったんじゃよ。お主が人間の中に混じること。」


俺の顔を両手で挟んで師匠は言った。少々悲しそうなのはお酒が入っているからか。


「お主が黒竜だっていうのも理由の一つじゃがなぁ。…しっかし、その頭おもしろいのー!!!」


「あんたがしたんでしょう!!!」


アルマさんが復活した。ふとみるとわきで倒れているのは師匠の飲み仲間。…なるほど、無事犯人を成敗したってことですか。


「うるへー! わしはクロと遊ぶんじゃー! アルマは黙ってろー」


俺のことを小さいころ呼んでいた名前で呼び始めたということはそうとう酔っているということだ。


「……すみません。クロード君。お水を汲んできてもらってよろしいですか?」


暴れ始めた師匠を押さえながら言うアルマさんに俺は頷いた。この魔王城は洞窟内にあるため、ところどころ水が湧いているところがあるのだ。


 ここで少し魔王軍について説明しようと思う。魔物の頂点に立つのはもちろん、魔王様であり、その下に大臣が三人ほど。そしてそれと同等な位置にいるのが俺ら師団団長なのだ。五つに分かれた師団はそれぞれ特徴を持っている。これはまた今後話すとして…。まあこんなかんじだ。会議に呼ばれるのは大体師団長までだ。


「……クロード…」


途中、俺をにらみつける面倒な奴と遭遇した。俺を見ては突っかかってくる第四師団団長レナード・グラン。俺はこいつをに会う前から知っていた。というのも、前世で俺はこいつのことをクラスメートから聞いていたのだ。とある恋愛ゲームに出てくる攻略対象の奴として…。そして俺は今となっては知りたくなかったのだが…。その友人によると俺は…こいつとくっつく未来があるらしいのだ。鳥肌ものだ。しかし、こいつにいまのところそういう前兆みたいなのはないが、近づかないに限る。だから俺はいつものように無視した。


「さすが、あのミリディア殿に気に入られた弟子だな。どんな時でもそのお面みたいな表情を崩さない。いつも余裕ぶった顔しやがって! 俺はそんなところが…」


なにに苛立っているのか知らないが、何か仕掛けてきそうな気配に俺も身構えた。


「止めなさい! 身内同士の争いはご法度よ!」


だが、それは奥から出てきたグレーの髪の女によって制された。それと共に青い髪の男もこちらに歩いてくる。


「…邪魔が入ったな」


踵を返して去るレナードを汚いものでも見るように女、第二師団団長リコ・アキュートは言った。


「あんな奴相手にする価値もないわよ。」


するとその隣の男、第一師団団シャウト・アクアリ―は笑って言う。


「くくく。そういうなよ。あいつも落ち込んでんだ。なにせ憧れの…あぁ、これを言ったら殺さちまうんだっけ。くははは!!」


こいつらと俺は相弟子であり、同じ師団団長の中でも気が置けない仲間だ。


「久しぶりだな。」


俺が二人に声をかけると、リコは不機嫌そうな顔をする。


「そうよ。それなのにそっけないのは相変わらずよね。」


「くくく。もうそれはこいつのアイデンティティーだろ。そういや、お前だけ集会に顔見せなかったな。また、あの極秘任務ってやつか?」


こいつが言っているのはおそらくこの間の満月の時の集まりのことだろう。


「ああ。飲む約束だったのに悪かった。」


正直その日は、予想外の出来事が起こりすぎていたのだ。すると気にすんなと笑うシャウト。


「東が私、北はダルモシス、西をレナード、南をシャウト。それであんたが真ん中の大陸。特殊任務にしてもあんたのは極秘扱いよね。私たちでもほんのかじりしか知らないんだもの。前の魔王様のアクバル様からだったわよね?」


俺は頷いた。アクバル前魔王様はまるで先のことが分かるかのように、先手を打っていかれていた。様々な戦略を編み出され、それをもとにしたものは今でも使われる。南の大陸もそれで制圧できたと言っても過言ではない。そんな方が何故俺なんかにそんな任務を与えられたか分からないが、何か意図するものがあるのだろう。


「しっかし、俺は暇になるぜ。あっちは美女が多かったのによ。お前にも紹介したかったぜ。」


「クロードに変な事教えるの止めてよね。」


「ご執心なことで。そういや、お前の任務かなりの美女が関係してるって聞いたが…。」


「はあ!? 何それ! 私聞いてないわよ…ってクロード!!!」


そう言えばアルマさんから水を頼まれていた。ここで世間話をしている暇はなかったのだということを思い出した。


「アルマさんを待たせている。じゃあな。」


後ろでリコが怒鳴っていたがいつもの事なので気にしないことにした。


「クロード君…」


水を汲んで戻ってみると予想していたとおり大変なことになっていた。


「…すみません」


本当に申し訳ないと思った。師匠はすでに備え付けのベッドで寝ていた。アルマさんはげっそりしていた。いつもと違うのはその頭についてあるウサギの耳だろう。


「……やはり思った以上に反応しませんね。」


アルマさんが耳を隠すように帽子を被った。アルマさんの話によるとこれは師匠がやらかしたものだという。アルマさん曰く、これは亜人を元にした師匠の悪戯術なので、師匠しか解くことができないのだ。…これは師匠、起きたときは覚悟しておかないと。


「……ふー。飲みなおしますか。君もまだ飲み足りないでしょう。任務に支障が出ない程度に嗜みなさい。」


アルマさんが俺にコップを渡す。俺はアルマさんのコップに酒を注いだ。


「…任務の内容はあまり知りませんが、最近君の様子が穏やかになったことは分かりますよ。」


酒を飲みながらアルマさんは俺に言った。


「良い人間に巡り合えたようですね。大丈夫ですか?」


おそらく情に流されないかということだろう。俺は頷いた。アルマさんが酒を飲むとは珍しいな。


「……君はずっと何かを探し求めていたようですが、ある時を境に探さなくなりましたね。探し物は意外に近くにあることもありますから。よくよく探してみなさい。」


ふと、俺が今監視対象として見ている人間を思い出した。藍色の髪をした強い眼をした少女。…なんで今出てきたのだろう。ありえない。あまりにも時間差がありすぎる。…しかし、時間のズレというのはゲームやファンタジーものではありがちなものだ。そうだ。なぜ今まで気づかな…


「…これだけは忠告しておきます。」


はっと俺は自分の世界から戻った。アルマさんは俺の様子に気づいていないようだった。


「不穏な動きをする者に気をつけなさい。…今の魔王軍は不安定な要素がたくさんあります。それがこの先の戦争に吉となるか凶とするか分かりませんが、何か起こるでしょう。それは人間側も同じ。人間側にも魔王軍側にも存在する君たち師団団長は特に警戒しておきなさい。」


警戒と注意は違う。警戒は危険な事が起こる際に未然に防ぐように用心することであり、ただ気を付けるという意味の注意とは違う。わざわざ注意ではなく警戒という言葉を使ったのは…


「…何か気がかりなことでもあるんですか?」


それは俺がついている任務に関係があるということなのか?


「…確証はありません。ただの杞憂であってほしいと思います。ただ、今回第五師団が音信不通になった件。確か彼らは北の大陸についていましたよね?」


ダルモシスのことだ。魔王様は取るに足らないことと考えていらっしゃるようだが、アルマさんは違うようだ。


「はい。確か大臣のほうから直接。」


「それはダイル大臣から?」


「ええ」


あのワニ大臣しか師団団長に任務を与えるなどということはできないだろう。すると、アルマさんは少々考え込みそして俺に言った。


「…あの大陸は戦闘能力が高い民族が昔から支配していましてね。魔族もめったに近づかないんですよ。それはダイル殿も分かっておられます。そんな場所に偵察にいかせるということはそれ以上に気がかりなことがあるということでしょう。…まあ、君は今の任務のことを考えていなさい。このことは頭にとどめておくくらいでいいですから。」


その発言から察するに、彼ももうただのご隠居のお供であるわけにはいかなくなったようだ。この件についてはいずれ誰かを派遣せねばならないのだし、任せておこう。


「…おや? 行くんですか?」


「はい。少々確かめなければならないことができました。師匠によろしく言っておいてください。」


そう。1000年前にすでに諦めていた探し物がもしかしたら見つかるかもしれないのだ。そのための準備を入念に行わなくては。




魔王軍についてのお話はここでいったん終わりとします。次話からは悪役令嬢in他国となります。ここまで読んでくださった方に感謝感激のあられです!

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