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魔界の会議では

 そして、拾われてはや千年経ち、俺はすでに人間では灰となっている歳まで成長してしまった。その間、もちろん俺は幼馴染のあいつを世界中探し回ったが、手がかりは何も見つかることなく、俺はあちらで幸せになっていると思うことにした。


「そちらはそちらで勝手にやれといつも言っておる。現魔王がわざわざ引退した前々魔王の許可を貰いにくるのはいささかどうかと思うぞ。サラディーがどう言ったか知らぬが。わしにはもう関係のないこと…」


「ミリディア様!」


「お、ほれ。返答はしたぞ。うるさい部下が来たから、はよう帰れ。しっしっ。」


こっちにいる偉そうな赤毛の少女は俺の師匠で恩人のミリディア・キャッツ。こう見ても隠居した元魔王だ。それにしてもよくやると思う。こうまで邪険にされ、使者の魔物は可哀想だ。


「あんたはまたですか! どんなに気に入らなくても上手くやってくださいと言っているでしょうに! ただでさえこちらの立場はあまりよろしくないというのに。」


部下で苦労人のアルマさん。何年たっても仕事を嫌う主に振り回され、胃が痛いが口癖となってしまった。


「そーれにしても相変わらず仏頂面じゃの。久方ぶりの再会じゃぞ?もっと嬉しそうな顔をせんかい! クロード!!!」


俺はクロード・リヒトと名付けられ、この隠居の魔王の弟子となった。師匠にこの世で生きる力を、アルマさんにこの世で生きる術を学んだと言ってよい。二人には感謝している。俺が弟子の頃、師匠はまだ現役の魔王だった。師匠は歴代に見る圧倒的な力の持ち主で、俺は今でも師匠が地面に膝をついたところを見たことがない。普通は殉職など何らかの形で死去しなければ魔王交代はないのだが、師匠は例外だ。その時のことはあまりよく聞かされていないのだが。


「おい! 聞いておるのか!」


俺の頬を引っ張る師匠。これは弟子のころからよくされていた。


「まったく薄情な弟子め! 定期的にあっちの名酒を送って来いと言っておったのに師匠のいいつけもろくに守らん!」


「…最近飲みすぎだと、アルマさんにも言われていらっしゃるでしょう。」


「はぁ、小さき頃はあんなにも可愛いかったのに…。変わり果てたものじゃ。」


ふてくされてそっぽを向く師匠。アルマさんは聞いていなかったようだ。さすが師匠だ。


「ところで最近、極秘任務にあたっているそうですね。どうですか?」


アルマさんが俺にお茶をだしながら言う。本当にこのアルマジロは働き者だ。元魔王族の名参謀であったのに関わらず、給仕から掃除までやる方はそうそういない。小さいころ俺の母親代わりであったのは言うまでもなく、師匠にからかわれたとき彼はまんざらではなさそうな顔をしたのは忘れられない。


「はい。順調です。計画通りに進んでいます。」


「そうですか。くれぐれも無理だけはしないように。この人とは違い、あなたは少し無理するところがありますから。」


「くふふふ。そう褒めるでない。照れるではないか。」


「一体どこに褒めている要素があったのですか!?」


この二人も相変わらずだ。前魔王に譲ってから、この空間に住み始めた師匠。それに何人かの部下がついていき、完全に世代交代となってしまった。俺は魔王軍の中で第三師団団長という階級をもらい、今に至る。それから幾何か経ち、今度はその部下が魔王となった。前魔王は次の魔王に何かするときは必ずこの隠居の意見を聞くようにと言って死なれたので、現在でも師匠はご意見番として存在している。本人は嫌がっているが。


「師匠、そろそろお時間です。ご同行ください。」


俺は今回師匠を訪ねた目的。それはとある会議に師匠を連れていくことだ。最近魔族と敵対関係にある人間に妙な動きをするものがいるという報告がはいった。それに関してはまだ調査中なのだが、人間に関して新たな情報が手に入ったそうなので、ぜひ師匠にも意見を聞きたいそうなのだ。


「断る! 会議なんぞ肩が凝ってたまら…」


「師匠の好きな名酒取り揃えていますが」


「よしっ! 何をしておる! さっさと堅苦しい会議を終わらせて、朝まで飲むぞ!! ひゃっほい!!!」


…アルマさんも同行されるので朝までは無理だと思いますが。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 会議は重苦しい空気の中で行われた。会議開始ちょうどに、偵察に行っていた第五師団と連絡がつかないという報告があったからだ。


「…まさか…あの第五師団が…」


「ただテレパシーが届かない場所にいるのか、それとも…」


「静粛に! その件に関して、ひとまず保留ということにする。」


進行役の年老いたワニの大臣が場を落ち着かせた。確かに不確定な情報で会議が進まないのは困る。すでに師匠が飽きて、城のミニチュアを作り始めている。


「そうですな。これと無関係でないことですし。では、報告を。」


「はっ、人間どもに関して新たな情報が入りました。どうやら奴ら、我々の動きに感づいたようです。早々に各国守りを強化し、動き始めました。特に魔術に優れている国の動きが活発で、すでに偵察者も何人かやられています。」


「そうか。では、もうこそこそとする必要はないというわけか。」


魔王様がにやりと笑われ、それに一部の配下の者もつられて笑った。


「で、ですが、奴らの動きは予想をはるかに超えていると聞きます。まだ、一部の国だけですが、ある程度結託されてしまうと…」


「問題ない。そうなれば逆に好都合というもの。一気に惨殺できるわ。我が軍はそんなにやわではない。」


「さすが魔王様!」


「第五師団に関しても心配はいらん。あれを統率しておるのはわし自ら育て上げたやつ。もしもなんぞないわ。」


玉座で笑いをこぼす魔王様。第五師団団長ダルモシス・ルアー。力は全師団団長のなかでもトップクラスだが、かなり自信家で相手を甘く見る傾向がある。それで何度か失敗しそうになったこともあるが、本人は全く意に介さない。俺らの誰かがいたらそのような可能性がある前に潰せるのだが、今回は第五師団単体での任務なのでそれもできない。…こいつはもしもなこともあるかもしれないな。それは進行を進める大臣も考えていたようで、


「…キャッツ殿やシアトーゼ殿の意見も聞きたいですな。」


と師匠とアルマに意見を求めた。このワニはかなりの古株で、師匠の前の魔王から仕えていたと言われている。だから、さすがの師匠でもこの大臣には敵わないのだ。師匠は一瞬でアルマに発言権を譲った。


「…これまでの情報をまとめますと、人間側は我らに対して警戒はしているものの、完全には信じていないと思えます。そう考えるならば、すでに我らが南の大陸を制覇しているということは感づかれていないと考えてよいでしょう。しかし、油断は禁物。今の段階で我らが優勢と言えど、戦況がひっくり返ってしまう場合がございます。私の意見といたしましては、まだしばらく敵の様子を見ていた方がよろしいかと。…奴らの中にも妙な動きをしている者がいるようですし。」


「わしもシアトーゼ殿と同じ意見じゃ。」


同調しかしていないのに偉そうな師匠を横目に見て、ため息をつくアルマさん。彼も大変だ。


「フン。さすが魔王の座を放棄なさった方とその部下。言うことが違いますな。我ら魔王軍が優勢ならば、今の時点で奇襲をかければよいだけの話。様子をみるなど逃げの姿勢は我が魔王軍にそぐわん。なあ、左大臣。」


「まっことその通りでございます。」


「…それは止めておいた方がよろしいかと思います。兵たちの傷はまだ癒えておりません。無理して兵を酷使させますと、それこそ戦況が変わってしまうのでは?」


本当にそうしそうな雰囲気だったので一応釘は打っておく。すると普段から俺をあまりよく思っていない第四師団団長が


「兵の代わりなどいくらでもおるだろう。もう少し考えてから言うがいい!」


と言う。こいつはどんな時でも俺と張り合おうとするので少々面倒なのだが、しかしこれは譲ることはできない話だ。俺は再び口を開いた。


「それは訓練されていない捕虜のことだろう。捕虜と兵士は全くの別物。兵を育成するのに一体どのくらいの年月が必要だと? 兵の命を預かる師団長が、兵士をただの使い捨ての駒と言う方がよほど考えて物を言った方がいいと思うが」


「なにっ!?」


「二人とも止め! …クロード、貴様口が過ぎるぞ。神聖な会議でのその不届きな発言はペナルティーとする。よいな。」


……この方の俺嫌いは変わらずだ。魔王様と師匠にはただならぬ因縁があるのだという。簡単に言えば俺はそのとばっちりを食らっているのである。


「…は…」


「ふむ。お前の馬鹿さ加減にほとほと呆れるわい。今のはどう考えてもレナードの思慮の浅さを諭した我が弟子を褒めるべきであろう? 逆などあり得ぬ」


普段どんなに嫌味を言われても平気な師匠なのだが、機嫌が悪かったのだろう。珍しく言い返した。


「なにっ! 口を慎め! 魔王様に向かって何を…」


「…なに。年寄りの意見は聞くもんだ。クロード、よかったな。弟子思いの師匠がいて」


どうやら魔王様は事前にくぎを刺されていたらしく、師匠の態度に落ち着いていらっしゃる。


「…魔王様の寛大なお心と師匠に感謝します。」


以前、魔王様に(以下略)感謝します。と言ったら、師匠からその場で、わしに感謝しろ!と言われたのを思い出したので、同じ失敗を繰り返さないようにする。


「…話を戻しますぞ。私も個人の意見を申すならば、キャッツ殿やシアトーゼ殿の言う通り、敵の戦力などが分からぬまま攻め込むのは危険極まりない。それにリヒト殿の言う通り我が兵の傷も癒えておらぬ上、このまま監視というのが一番適しているかと。」


これにはさすがの魔王様もうんと言わざるを言えなくなった。そして会議がおひらきとなる前に、


「皆の衆! 貴様らの王を言え!」


「「偉大なる魔王様あなた様でございます!」」


「そうだ。わしだ。わしが予言の貴様らを導く王だ。人間どもが我らの道を遮ろうが関係あるまい。我らの力で蹴散らしてくれよう! 我らの後ろに敵はなし! 何も恐れることはない! 会議はこれにて終了とする」


と、恒例の締めくくりで皆席を立つ。俺は特に大事にはならなかったことを、アルマさんと共にホッとする。そしてすでに大きな城を作って新たな遊びを見出している師匠を、外へとどう連れて行こうか考えた。


「お疲れさまでした魔王様。いやーしかしいつもながら魔王様のお言葉には感動感激であります。」


左右大臣がゴマを擦りながら、魔王様を褒めちぎるといういつもの会話がふと耳に入った。


「フン。こんな会議しなくても、"アレを使えば人間どもなど一瞬に…」


「ならぬ」


魔王様がやけに意味深な言葉を口にすると、その遊んでいた手を止め師匠は言った。俺は今まで見たことがない師匠に驚き、それを止めず見守っていた。…アレ…とは?


「"アレ"は禁忌と定めておるはず。それを破ることはわしが許さん。」


「…今の魔王はわしだ。すでにお前の時代では…」


「お前がなにをしようと構わん。じゃが、それを使うことに関しては話は別じゃよ。どうしても使うのじゃというなら…わしはお主を殺してでも止めるが?」


威圧的な金色の目にひるむ魔王様。実質魔界のナンバーワンは師匠。見かけは可愛らしい少女でも、体格で魔王様と大きな差があろうとも、それはゆるぎない事実だ。


「…ちっ」


だからこそ、彼女はこの会議に呼ばれたのである。本来ならば呼ばれることのない魔界の重役たちが集まるこの会議に。もうすでに魔界とは縁をきったはずの彼女を。


「何をぼさっとしておるのじゃ、我が弟子! 酒盛りじゃ! ひゃっほい!!!」


…本当にそうは見えないが。


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