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VSバリー商店(3)

 アルーシャ様は微笑み、そして言葉を続けました。


「バリー様。この後、どうなさるおつもりなのでしょうか?」


「どう…とは? バリー商店の今後について聞かれているのでしょうか? そうでしたら、元のバリー商店に一刻も早く戻るように最善を尽くすつもりです。時間はかかると思いますが、セナをあの学園に戻してあげたいので。」


すると彼女はくすくすと笑い始めました。その笑い声は控えめながらも部屋に響き渡り、狂ったように呟いていた男もこれには身を震わせます。


「残念ながらそれは不可能ですわ。」


先ほどとがらりと様子が変わられたアルーシャ様に少し戸惑いながらも私は問いました。


「………その理由をお聞かせ願います。」


彼女は微笑みながら、茶髪の少女に何かを渡しました。茶髪の少女が私の方にそれを見せるように持ちました。


「そ、それは…!?」


「ええ。これは大臣からお借りした大事な書類のコピーですわ。ここにあなた様のお名前があります。…これが意味することは分かりますか?」


 会社を経営するときには、経済大臣の名の元で行わなければならず、必ず大臣の目の前で署名をする必要があります。その書類にはもちろん私の名前が書かれてあります。しかし、現会長とではなく前代会長(・・・・)として。


「バリー商店の会長となるには大臣の前で署名することが第一条件。だからこそこの男はあなた様を始末できなかったのです。大臣の前で自分が会長になることを他でもないあなた様に認めてもらわなければならなかったから。もちろんこの男はまだ署名はしておりませんわよ。」


「……す、すると…まさか…」


「ご理解が早くて助かりますわ。」


茶髪の少女がもう一枚の紙を私に見せました。一枚目の紙と同じものですが、唯一違うものは現会長のところに書かれてある名前。そこに書かれていた名前は<アルーシャ・シャーロット>。


「なっ…」


「バリー商店の犯した悪事の数々を大臣に一部報告いたしましたの。いくら乗っ取られていたとは言いましても、この書類での正式な責任者はバリー・ルクエア様です。このまま見過ごすわけにはいかない、しかし生活用品を受け持っているバリー商店を潰すとなると市民に混乱が生じる。ですから、バリー商店の次に信頼がおける商業ギルドに任せようとこう考えられたのです。」


…なんと…いうこと…。それでは、私はこの責任を取って罪人として獄中生活を強いられるか、悪ければ一家全員国外に追放…。バリー商店で働いていた私の部下は商業ギルドに迎えられればよいですが、もしかしたら全員クビで路頭に迷うことにも…。


「そこで提案ですわ、バリー様。私からこれを買い取られませんか?」


…え? 


「この書類から見るに、バリー商店は商業ギルドの傘下となったわけですが、正直商業ギルドはアレスタで手がいっぱいなのですわ。首都にも店を出せという要望が多くて困っていたのですが…。」


「…つまり…私を…雇いたいと?」


「ええ。首都での商業ギルドの店であなたにはそこの責任者となっていただきたいのです。この契約書を手に入れるために私結構な出費をしてしまいましたの。それをその店の利益として、全金返していただければそのあとは独立なりご自由になさってください。どうでしょう? 一度お捨てになられたそのお命を私が拾ったのです。私のために使っていただいてもよろしいのではないですか? 悪い条件でもないと思いますし。」


…確かに、私にとってかなりいい話ですが…しかし…なぜ…そこに商業ギルドにとって利点はない…はず…。


「あぁ、もちろん私からも監視役として何人か出させていただきますが、従業員はお好きなだけ連れて行ってくださいな。…さらに付け加えるとするならば、セナの学園の再手続はもう済ませてありますわ。」


…そこまで言われてしまうならば、私に断る理由などありません。


「…私ごときそのような大役務まるかわかりませんが、精いっぱいやらせていただきます。…この御恩決して忘れません。」


…まったく、セナもやっかいな子と友達になったものです。若いからといって侮ってはいけませんね。大したものです。これならば、しばらくこの方の元で働くのも悪くはないかもしれませんね。


「…う…ひゃひゃひゃ!! なーに一件落着みたいな顔をしているんだよ!! まだだ! まだ終わってねぇぞ! 今から慌てたってもう遅いんだよ!」


…そういえばこの男の存在をすっかり忘れていました。男は両手両足を縛られていますが、そんなこと気にせずに叫びました。


「時間だ。仕事に疲れた令嬢様はそろそろお休みになるころだ。お嬢様が寝静まると使用人の仕事も無くなり、お屋敷は静寂に包まれる。だが、お前が急いで帰ったときにはもう誰もいないんだよ。何故って? それはな…」


男はそこで言葉を切り、アルーシャ様の様子を伺う。しかし、何も反応もなく表情も変わらないので、イライラとしながら男は言葉を続けました。


「みんな死んでるからだよ! 辺り一面血の海だ。生きている奴はあの屋敷にはもういやしないんだよ。なぜこの状況下であいつらの動きがないと思う? それはな…お前の屋敷に向かわせたからなんだよ!! お前の周りの奴らを全員ぶっ殺し、そしてアルーシャ・シャーロット! お前の身柄をあの方にお渡しするためだ!!!」


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