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VSバリー商店(2)

 「…馬鹿…令嬢…?」


 セナの叫びに呆気にとられてしまいました。それが何を意味するのかはすでに海にいるセナには聞けないのですが。


「…令嬢? …まさか…」


男には何か覚えがあるようで、少し動揺の姿が見えます。あの子が馬鹿と呼べる仲であり、かつ令嬢の身分なのは……。私の頭にふとあの藍色のきれいな少女の顔が浮かびました。


「そのまさかですわ。ごきげんよう皆さま。返事がありませんでしたので勝手にあがらせていただきましたわ。」


静かにドアが開いたかと思うと、外で見張っていただろう二人の男が倒れこんできました。そして場の雰囲気にそぐわない優雅な足取りで続いて入って来たのは


「…アルーシャ・シャロット商業ギルド会長殿。なぜこのような場所に…」


娘の学友であり、公爵令嬢のアルーシャ・シャーロット様でした。彼女は男の質問に落ち着いた様子で答えました。


「あら? 予定に入っておりませんでしたか? 私あなたの部下にきちんと知らせたつもりでしたのに。」


「…その予定は明日と伺っておりしたが…。 それに場所をアレスタに指定したのはそちらではありませんか。」


「ええ。しかし、あなたが急用で来れなくなったとお聞きしまして。それならばと馬車を走らせたのですが…今お取込み中でしたか?」


「…いいえ。問題ありませんよ。ちょうど会長とそのお話しをしていたところでして。」


…ギルド長に任命したのは息子のウィリアム様だと思っていましたが、まさかアルーシャ様だったとは。商業ギルドの製品は女性用が多いと聞いたので、それならば納得ですが…。


「それはよかった。では、失礼いたしますわ。」


まさかお供も連れずお一人でこの人数に挑もうというのですか?


「アルーシャ様…ぐっ」


男からすでに私を黙らせるような指示があったようです。私の抵抗もむなしく、ドアは無情にも閉められました。


「それでお話とはいったい何でしょう?」


男は勝ち誇った顔で問いかけます。


「ええ。バリー商店の今後について少々お話しがあって参りましたの。」


「ほう。それは我々の傘下に入っていただけるということですかな?」


待っていましたとばかりに微笑む男。しかしアルーシャ様はそれを鼻で笑われました。


「勘違いも甚だしいですわ。商業ギルドに今のバリー商店は必要ありません。会長交代があってからというもの、大して成績も残されていないというのに図々しいにもほどがあります。身の程をわきまえなさいな。」


「なっ!?」


これには私も驚きました。こうやって武器を持った敵に囲まれ、威圧されているというのにこの堂々とした姿。なるほど、父親のルドルフ様の血はきちんとこの方にも流れているということですか。そしてまったく表情を変えずに話を進めるアルーシャ様。


「これが商業を営む者同士のお話しではないということが、まだ分かっていらっしゃらないようね。私は今回ギルド長としてあなたのもとに訪れたのよ?」


アルーシャ様の物言いに一瞬顔が引きつる男。しかし、冷静さを取り戻すように眼鏡を持ち上げ、笑いかけました。


「何のお話でしょうか? 全く身に覚えがありませんが…」


「すでに証拠も裏付けも済んでありますわ。あなたはバリー前会長を責任者としての立場から引きずり落としただけでは飽き足らず、その妻や娘を違法な奴隷商人に売り渡そうとした。その奴隷商人はずいぶん前にすでに騎士団の手の中ですわ。時期に騎士団もかけつけてくるでしょう。」


それは男にとって予想外の事だったようで、明らかに動揺した様子でした。そのことは私も気づいていました。ですから、その前にセナたちを救出しようと思っていたのです。しかし…その奴隷商人とは昨日ほど電話していたはずですが…。男もそれに気づいたようです。にやっと笑いながら反撃しました。


「…違法などとは聞きずてなりませんな。あなた様のこの行為こそ違法ではありませんか。ギルドとは国の存続に関わる事態でない限り、自ら赴いてはならないと国王の名で決められているでしょう!」


…これがこの男の奥の手と言ったところでしょうか。確かにギルドとは国同士の争いや平和のために作られた組織でもあります。市民を守るのが騎士団で、国の平安を守るのがギルドといったように混乱と無駄な争いをさけるために線引きされているのです。これは…。


しかし、アルーシャ様は表情を全く変えることなく、口を開きました。


「いいえ。先ほども言った通り私はギルド長としてここにいるのよ。…察しが悪い方なのは分かりましたので、論より証拠を見せた方がよろしいかしら。」


 アルーシャ様が呆れたように指を鳴らされました。するとどこから出したのか大量の紙や写真が雪のように落ちてきました。私のもとに落ちてきたものをざっと見てみるとそれは…


「あなたの悪行の数々よ。こんなにありましたわ。他国への武器の輸出入に、多くの奴隷たちの違法な入手及び、輸送。まだ他にもありますわね。規定されている以上の武装集団の導入に売買、さらに王族ですら禁じ手とされるとある貴族の使用。これは国の平安を壊すような脅威とならず何になるのでしょう?」


「く…くそっ! 何をしている! さっさとこの女を殺してこれらをもや…」


もう言い逃れできないと知った男が、証拠隠滅を図ろうとしましたが無駄です。男がどう言い逃れをしようか気を取られている間に、すでに武装しているお仲間は静かに床で伸びているのですから。あの茶髪の少女の手によって。


「…なっ…何を…」


「あなたが私を監視させていたように私もあなたを監視していたのよ。お疲れさま。エリ」


「はい。この件が無事に済みましたら、帰って特上の紅茶をいれましょう。今まで未熟なアイサのもので我慢していただき申し訳ありませんでした。」


…一枚も二枚も各上な相手だったということですか。敵だけには回したくない相手です。


「ちょっと、今回の功労者は私でしょー。私には何もないわけ?」


ということは、緑髪の少女も一枚かんでいたのですか。長い仲のようでしたが、この男とはまあそんな薄っぺらい関係だったのでしょう。


「あなたもありがとうミキ。あなたがいなければ潜入は不可能だったもの。ちゃんとお礼は弾むわ。」


「いーえー。他ならぬお嬢様直々の頼みでしたからね。断る理由もありませんよ。」


男は完全に話について行けてないようです。そして気が狂ったように呟き始めました。。


「お、俺を誰だと…思って…。俺は選ばれし者だぞ。あのお方じきじきの使命を与えられたそれを…それを…おまえらごときに邪魔され…」


 アルーシャ様はうっとおしそうに男を見た後、私の方に顔を向けられました。


「お久しぶりですわ。バリー様。挨拶が遅れて申し訳ありません。」


「アルーシャ様。なぜ…」


「セナを心配する他国の姫様からのご依頼をお受けしたのです。それとあなたを慕う方々からも。皆様の協力でこんなに証拠が集まりました。あなた様の人望の勝利ですわ。」


「いえ、アルーシャ様が来てくださらなかったら今頃私は、自らの不始末を持って死ぬつもりでした。」


するとアルーシャ様はにっこりと微笑んでこうおっしゃいました。


「あら、それはもったいないことですわ。」


その表情はまるで今までのはただの世間話であり、ここからが本題とでもいう顔でした。


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