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悪役令嬢の不安

 「ああ。確かにアラムのほうから依頼されたな。内容はまだ調査中だから言えないが、それがどうした?…あのアラムが!?」


すぐにアーベルに電話して事実の確認をしましたが、やはりそのようでした。しかし驚きすぎではありませんか?


「いや、驚きもするだろう。まずあいつが真面目に仕事をしているという時点で熱でもあるのかと疑ったくらいだ。それなのにあれほど憎んでいたお前に会いに行った?信じられん。」


…私ってあの方に憎まれていたのですか。


「あ、いや…その…違うんだ。あいつはグリアム様の側近の一人だしな。だから…」


ということは、同じく側近のあなたからも私は憎まれているのね。となると、二人が結託して私をはめようとして…


「違う! そんなことはしない! 俺は…」

「おっ兄様―! そんなに大きな声を出して誰とお喋りしてますの?せっかく久々に家にいらっしゃるっていうのに、仕事ばかりでつまらないですわ。セルティアとお遊びになってくださいませ!」


あら、やっぱり飛び込んできたわね。セルが来たとなるとそろそろ切り上げてあげなくちゃね。朝からアーベルを取り上げてしまっているんですもの。


「お姉様!? お兄様私もお姉様とお話ししたいですわーー!!おかわりくださいませ!」

「こ、こら! これは遊びではなくて…セル!! 馬鹿、やめろ! また妙な魔法覚えて…」

「おかわりくださらないならば、このままお兄様を使用人の浴槽まで飛ばしてしまいますわよ。今誰もいないことを願ってくださいまし。」

「やめっ…」


…ここの兄妹は相変わらずですわね。


「ハローですわ。お姉様! ご機嫌はいかかですか?」


…どうやら本当に飛ばしてしまったようです。アーベルに覗きの容疑がかからなければよいけれど。


「嫌ですわお姉様。こんな真っ昼間からお風呂に入る使用人なんていませんわよ。まあ、お湯は入っていましたが。そんなことよりお姉様! 今度はいつお会いできるのですか? 私お姉様に話したいことがたっくさんあって…」

「セェールー!!!お前なぁ!!!!」

「きゃあ!助けてくださいましお姉様!こんな真っ昼間にずぶ濡れの上半身裸の変態が!!」

「なんで湯が熱湯なんだ!お前最初っから狙ってやっただろう!!」

「せめてもの救いは下半身が露出していないことですわよ。感謝してほしいですわ。」

「おかげで顔を浴槽の底にぶつけたけどな」

「ふふふっ。送った先で体勢が変わるなんてそんな高度魔法できるのは私だけですわよ。」

「ただの才能の無駄遣いだ。無駄に魔力を使うなと言っているだろう。」

「いったーい!暴力反対ですわ!」

「さっき俺にしたことは暴力以外のなんなんだ。ほら、仕事の話と言っただろう。…これが終わったら休憩がてら買い物に付き合ってやるから。」

「わーいですわ! この間買った靴おろしますわ!」


セルの歓喜の声からバタンと扉が閉まる音が聞こえ静かになりました。電話の主が元に戻ったことが分かります。


「…すまない。最近熱が出て、おととい下がったばかりでな。暇しているのだ。…それで黒マントの男についてだが、詳細は使いのワタルとトウヤに伝えておいたから、聞いておいてくれ。また、なにかあったら連絡する。…ルクエアの件も引き続き捜索しておこう。無理するなよ。」


「感謝しますわ。そちらもあまり無理をするとセルに怒られますわよ。いくらあなたでも炎や吹雪にやられるのは嫌でしょう?」


「…肝に銘じておく」


受話器をおきますと、アイサがものほしそうな顔をしていました。おそらくセルの声を聞いてガーガー鳥の卵の味を思い出したのでしょう。ちょうどお昼時ですし、お昼にしてから報告を聞いても遅くはないでしょう。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




お嬢様に昼食を届けて私たちもお昼休憩をもらいました。あー!やっぱり久々の給仕は肩がこる!!なんでエリがいないときに客が来るんですかねぇ。


「お疲れさま。でも、お客様って結局どなただったの?」


マリカがお茶を渡しながら聞く。あいつのことを思い出すと嫌悪感が。


「大臣の息子。で、あの天然キャラの伯爵令嬢を取り巻く馬鹿軍団の一人。」


「…そんな奴をやすやすとお嬢様に会わせたの?」


調査から帰ってきたエリが途端に不機嫌そうな顔をする。


「仕方ないでしょー急に来たんだから。それにワタルもトウヤもいないから止める人もいないし。お嬢様の性格から考えて追い返すなんてことはしないだろうしさ。」


「お前ばっかだなー。だからお嬢に会う前にそういう奴らは俺らが追い返すんだろーが」


ワタルの言葉に少なからずかっちーんときた私は当然言い返す。


「あのさー聞いてなかったの? 私はエリの代わりに給仕してたんだってば。気づくわけないじゃん。その前に私ぐーすか寝てたあんたと違って、徹夜してたわけ。分かる? あんたらが王都で遊んでた間にこっちは大変だったんだから。お嬢様なんかあいつにキスされたし…」


「「はあ!?」」


…あ、やば。口が滑った。あーしまった。こいつらに言うとまず身近にいて止められなかった私がキレられるし、なにより当のお嬢様は全然気にしていないから黙っておこうと思っていたのに。


「…それ、どういうことアイサ。お嬢様にき、きす!?」


「あ、いや…その…ほっぺに…」


「お嬢もとうとう大人の階段を上ったんだよ姉貴。みんなで祝福してあげ…ひっ」

「黙りなさいワタル。これは立派なセクハラよ。死に値するわ。」


「マリカの言う通りよ。いくら大臣の息子だろうがやっていいことと悪いことがあるわ。軽い気持ちでお嬢様に近づいたこと後悔させてあげましょう。」


やはり真っ先に反応したのは、過保護の最前線にいるマリカとエリ。さっそく殺気丸出しで、武器を手に戦闘準備おっけー。


「お、落ち着けって。もしかしたら未遂だったかもしれないだろ? ト、トウヤ! シュウ! お前らも何か…」


「…き、きす……俺が王都にいる間に…」


あら、珍しい。いつもは冷静沈着で寡黙なトウヤが動揺している。椅子から落ちている姿は面白いものねぇ。


「その罪深い口をその薄汚い顔から引きはがして、懺悔させましょう。それか毒で苦しめてから懺悔の方がいいかしら?」


エリがなんとまあ物騒なことをつぶやく。


「…毒の調合ならこの間読んだからまかせてよ。より苦しめたいけど意識は保たせなきゃいけないよね。」


…シュウは可愛いから許せる!


「あ、アイサ! もう最後の砦は俺たちだけだ! みんな正気を失っていやがる!!」


「……何を言っているの? 私も罪滅ぼしとして、一発ドカンと打ち上げるわよ!! はーい! 私は顔の皮を剥ぐのに一票―♪」


「面白がってんじゃねー!!」


 まあ言うまでもなく、この後大騒ぎをして、お嬢様にこってりと怒られてしまいましたけど。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




「それで、アーベルはなんて?」


何をそんなに興奮していたのかは分かりませんが、とりあえず落ち着いたようなので話を聞きましょうか。


「……」


「…あーえっと、まあ、これを見てくれよ」


いつもならこのような報告をするのが苦手なワタルに代わりトウヤがするのですが、先ほどからトウヤは放心状態。顔が下を向いていて見えません。…怒りすぎたのでしょうか。


「これは…?」



ワタルが出してきたのは布きれでした。布自体は普通のもののようですが、しかしそれに描かれているものは決して普通のマークではありません。ライオンの頭に巻き付く骨だけの蛇。見ただけで不吉なものだということが分かります。


「黒マントの属性と同じものを先日騎士団が察知したらしくて、急いで駆けつけた結果、ここから少し離れたところで貴族の死体やらと一緒にこれが見つかったそうだ。助けてやれなかったってアーベルの奴は結構気にしてたみたいだぜ。で、調べた結果、このマークはとある宗教集団の印らしい。そいつらが何を目的にしているのか分からないが、よくないことなのは確からしいって。どっかの国ではこの紋様は不吉が訪れる前触れらしいからな。王者の死を意味し、国の滅亡を意味するんだってさ。確かに気味悪いぜ。俺も最初見たとき趣味悪いと思ったもんな。」


とまあ、まとめるとこのような感じでした。絶対中盤のセルとのやりとりはいらなかったと思いますが。あの時、黒いマントの男の二度目の襲撃で怪我こそなかったもののセルが巻き込まれ、シューベル・シャンボルト様は目の色を変えて黒いマント男の捜索を始めました。それは私の黒いマントの男の特徴や能力の報告は蛇足であったほど。あの方のセルに対する溺愛は素晴らしいものです。


「…状況は分かったわ。これからは道中警戒を怠らないようにしましょう。この集団については引き続き調査して頂戴。…あと、トウヤ。」


「…………………………………………はい」


…いつもよりだいぶ間がありましたわよ。この分じゃ今の話聞いてはいなかったわね。まあ、ワタルと一緒にアーベルの話を聞いていたので警戒の必要は分かっているとは思うけれど。


「人の話はちゃんと聞きなさい。いいわね。」


「…………はい。すみませんでした。」


さらに怒られて頭が下がるトウヤ。


「大目に見るのは今回だけよ。」


…まあ、王都往復の疲れもあるのでしょう。それにしても、いつもは見えないトウヤのつむじが見えるのってなんだか新鮮ね。


「……!?」


「どうしたの?」


縁起担ぎではないけれどいつもは見られないつむじをつい触っていると、いきなり顔を上げたトウヤ。


「…………これからはこのようなことがないようにします。失礼します。」


慌ただしく部屋から出て行くトウヤ。


「お嬢、すっげー。途端に元気になったぜ。」


「長年一緒にいますがトウヤのあんなところ初めて見ましたわよ。ねえ、エリ」


「………ええ。」


「あいつも男だったってことだよねぇ。」


「……………………お嬢様。今の僕にもしてください」


今の?


「……………えへへ」


にこっと満足そうに笑うシュウ。あまりにも可愛かったので、何度もしてしまいました。


「…そろそろ仕事に戻りなさい。まだ今日のノルマ達成できてないでしょ?」


「げっ、やばい!! トウヤ!! 昨日の書類片づけてなかった!! 手伝ってくれ!!! どこに行ったー!?」


エリの言葉で慌ただしく部屋を出ていくあの子たち。


「…紅茶入れ替えますね」


「帰って来たばかりでしょう? 部屋で休んでいいのよ?」


本当に働き者です。


「…いえ。成果を何もあげられず申し訳ありませんでした。」


「そんなことないわ。アラム様のことも追加で調べてもらっちゃって悪かったわね。…おかげであの情報が正しいことが分かったのよ。」


「……ですが、それでお嬢様がずっとご心配なさっていることが現実味を増してしまいました。」

 

「……曖昧よりましよ。」


「……皆も薄々感じ取っています。明らかにおかしい状況ですから。」


「……ええ。」


おそらくアラム様もその<おかしい状況>に気づいたからこそ私にこの情報を知らせたのでしょう。


「……まあ、それはこの件が無事片付いたら分かるのでしょうけど。その時は、エリ頼んだわよ。今以上に大変になるわよ。」


「承知しております。…ところでお嬢様、失礼ながらお願いがあるのですが…」


!?いつも自分の事なんか二の次のエリが私にお願い!?これは珍しいですわ。


「どうしたの?なんでも言ってちょうだい。」


「私にもトウヤやシュウにしたことと同じことをしてください。」


あんな満面の笑みのエリ、久々見ましたわ。


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