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新たな転生者

今から千五百年ほど前、気が付くと俺はこの世界にいた。あたりを見渡しても暗い闇に一人だけ。不思議と怖くはなかったが、ただ生という生の気配が感じられなかったので少し寂しかった。声を出してみたが、耳に聞こえたのは言葉になっていないうめき声だった。どうしたのか自分の状況が分からず途方に暮れていると、ふと真っ暗なのは俺の目が見えなくなっているからなのではないかという不安に駆られた。


「なんじゃ珍しい。生きた黒竜ではないか。ヒック。そうじゃ、これを土産に持って帰るとするか。」


泣きたくなってきたその時、闇の中なのに赤いものが見えたかと思うと、俺は酒臭い未成年に抱えられた。そしてそのまま暗い穴に落ちていくような感覚に陥るとともに俺の意識も落ちていった。

 

「おお、起きたか。」


目が覚めると赤い髪の少女の顔が目の前にあった。俺の鼻につきそうなほど近かったので驚いて少女を引き離そうとしたが、なぜだかできない。見ると俺の腕は俺が記憶していたものより短く、手は小さかった。


「闇の深淵で産まれるなんてそれはまた運が悪かったの。じゃが、不幸中の幸いともいえるな。なんせわしに見つけてもらったのじゃからな。」


 どうやら命の恩人らしいこの酒臭い未成年は俺を見て微笑んだ。テレビの中でも見ないような赤い髪と金色の目が目立つ。この少女くらいの年代で流行っているのだろうか?まあ、とりあえず失明はしていないようなのでほっとする。だが、言葉は話せないようで、ここはどこか聞こうとしても相変わらずうめき声しかでなかった。少女はそんな俺を見て、満足そうに近くの椅子に座った。…椅子があるなら最初っから座っておけよ。さっきのところを周りの奴らに見られたらなんて言われるか…。想像しただけでも身の毛がよだつ。


 「みーつーけーましたよ!! あんた昨日からどこほっつき歩いて…って酒くっっさ!!」


突然扉が開き、飛び込んできた小さな生物。見た目アルマジロっぽいが、なにより喋っているし、服も帽子も身に着けている。こんな未知の生物見たことも聞いたこともない。唯一救いの少女はそれを見て慌てることもなく頭を押さえていた。


「…あまり大きな声を出すな。うっ頭が…。」


「当たり前です!だいたいあなたは下の者を引っ張っていくお覚悟がないんです!頭がいたいのはこちらですよ。毎度毎度あなたの勝手な行動のせいでみんな苦労しているのが分からないのですか!」


アルマジロに怒られる少女の図。……だめだ!本来なら微笑ましいはずのこの図に俺はついて行けそうもない。夢なら覚めてくれ頼む!そして目が覚めたらこの変な話をあいつにするんだ。あいつは笑って俺の頭を心配するだろう。そして俺はそこから、たまには別のところでテスト勉強をしてみないかと提案する。そうだ!思春期真っ只中の俺が求めているのはそういう日常であり、非日常なのだ!頼む早くこんな夢からさめ……うおっ!?


「……って聞いていらっしゃいますか! …ん? なんですかこれは?」


どうやら混乱しすぎてベットから落ちてしまったようだ。俺の世界は今ひっくり返っている。


「あー、昨日拾ってきたのじゃよ。いやー驚いた驚いた。近道に闇道を通っていたらまさかわし以外にあそこにいるとはな。」


「…あそこを近道に使うなんて馬鹿な事、あなた以外にする人なんていませんよ。しかし、黒竜とは。私初めて見ました。」


「黒龍は欲にまみれた者どものせいで絶滅してしまったからの。ふっふっ。わしの飲み歩きも案外役に立つもんじゃ…」


「それとこれとは話は別です!」


なんか俺の話をしているようだが、正直ついていけん。そろそろ苦しくなったので体制を戻そうとするがなかなかうまくいかない。俺の体は一体どうしたというんだろう。これでも一応サッカーで鍛えているつもりなんだが…。


「はあ!? 私のせいだとおっしゃるのですか!」


「あんな書類の量を一人で、しかも連日徹夜はいくらわしといっても無理…」


「それはあんたがずっとさぼってほったらかしにしていたからでしょう!言わせてもらいますが、あんたの倍以上の量私たちが肩代わりしたんですよ!」


「それはそれは。いつも助かっておる…」


「今後はもう手伝いませんが」


「すみませんでしたもうしません。」


「あんたいつもそれでしょ」


 体が…重い。なんだこれ。病気か何かか?ふらつきながらなんとか大きな鏡の前に立つ。そして俺は俺の姿を見て驚愕することとなる。


「…ん?変な鳴き声をあげてどうしたというのじゃ。」


「自分の姿を初めて見たのでしょう。それにしてもこれ、どうされるのですか?」


「弟子にするのじゃよ」


「あんた弟子は取らない主義って今まで断ってきたじゃないですか。どう周りに言うつもりで…」


 なにやら後ろはさらに騒がしくなったが、俺は聞いちゃいなかった。自分の信じられない姿を見て、ここが俺の知っている世界ではないことが分かったからだ。やっと伸びてきたはずの身長は子供サイズに縮んでしまい、最近ついてきたはずの腹の腹筋はもはや皆無。なにより柔らかい顔や二の腕にはなかったはずの黒い鱗がまばらについている。これはまさか…俺は魚だったのか!?嘘だろおい!


「…ん?今度は何を喚いておるのじゃ」


「おそらく無事五体満足に産まれたことに感動しているのでしょう。さあ! そんなことより手を動かしてくださいませ。まだあとこのくらい残っておりますので。休まず頑張れば昼までには終わりますよ。」


「む、無理じゃ。おい、喚いていないでこの仕事の鬼からわしを救い出してくれ。なーに簡単じゃ。わしの代わりにこの判を押してくれるだけでいいのじゃよ。…おい、聞いておるのか?…お?そういえば名を決めていなかったな。」


「名などあとでで…」


「だめじゃ。己の人生を導く大切なものだからな。さーて、あいつらにも聞いてみるか。」


 思い出せ。俺は普通の高校生で、サッカー部に入っていて、勉強は幼馴染のあいつにいつも教えてもらっていたから大体中の上ぐらいで…。だから体にこんな鱗ついていなかったはずだし、少なくとも周りに変な喋るアルマジロなんていなかったはずだ。最後に記憶にあるのは…あいつと普通に喋っていて…あ!なんか変な光を浴びたような気がする…。ということは、これはもしかしてよくゲームでよくあるありがちなパターンか?だが、ふつうこういうのって説明するやつがいるんじゃねえの?「おお!勇者よ!よくぞまいられた!」みたいにさ。…だが、おれは勇者じゃなくて魚みたいだし…。魚勇者の冒険ってことか??……なんか弱そうで面白さのかけらもないタイトルだな。


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