お父様のご判断
部屋には執事長であるセバスチャンが呼びに来ました。
「アルーシャ様。旦那様がお呼びでございます。」
そして私はエリにコップを渡し、お父様の書斎へと向かいました。
「お父様、アルーシャです。」
ノックをして、お父様の入れという低い声を聞き扉を開けました。部屋に入ると、威厳たっぷりのお父様のお姿が。…相変わらずの眼光でいらっしゃいますね。
「…………今回の件聞いた。弁解はあるか?」
「いえ、ありませんわ。」
「グリアム様からの婚約破棄。お前が何をしたか分かっているのか?」
威圧的に私を見るお父様。しかし、私はお父様のそのような言葉に首を傾げました。
「はい、分かっております。ですが、お父様が何故そのようなことを言われるのかは分かりませんわ。」
「………どういう意味だ?」
「先ほどのお父様の言い方ですと、今回の件でシャーロット家が損害を負ったと表現なさっていますが、今回王族、もといアルデヒド王家はシャーロット家に借りができたと考えるのが妥当かと思います。その机の上の手紙にはそのような内容が書かれていたのではございませんか?」
「…………………………お前はそれを計算してやったと?」
「ええ。他国の王族がいる中で我が国の象徴である王族の痴態は晒したくないですから。」
「……………ふっ。まあいい。お前の考えはわかった。お前の言う通りこの手紙には国王からの謝罪と感謝の言葉が述べられていた。そしてこれからは身勝手な行動は慎しむよう言い聞かせるともな。」
「それはそれは。よろしゅうございました。」
「だが、これを知っておるのは一部の王族と我らだけ。結果、お前は社会から追放される身となった。後悔はしておらんか?」
「私はシャーロット公爵家令嬢アルーシャ・シャーロットでございます。貴族としての誇りとアルーシャ家の繁栄さえあればそれで十分ですわ。」
それを聞くとお父様は滅多に緩まない顔を私に向けました。その顔を見て、ふとこれが何年振りかの親子の会話であったことを今思い出しました。
「お前には立派なシャーロット家の血が流れておる。お前のような娘を持って私は鼻が高い。」
その言葉に私は溢れんばかり微笑みました。まさに家を重んじるお父様の最上級のお言葉です。
「…それに比べ、あの愚息のウィリアムは…」
私と対照的に、お父様は眉間にしわを寄せ怖い顔がさらに怖くなりました。
シャーロット家公爵子爵ウィリアム・シャーロット。通称ウィル。私の実の弟です。次期シャーロット家の家長となり、お父様の跡をつがなければならないのですが…………。
「あれはシャーロット家子爵としての自覚がまるでない。お灸を据えてやらんと気がすまんな。」
目がギラリと光るお父様。怖いです。彼は今、どこかの国へと留学中だと聞いております。今どこで何をしているのやら。
「それで、今後のお前の処分だが……。」
いよいよ来ました。さあなんでしょう?私は顔を引き締めました。婚約を破棄されたとはいえ、私は貴族の中の頂点であるシャーロット家令嬢。貰い手はいくらでもありますし、王族に貸しだってあります。これみよがしに婚約をとりつけても王族は断れないでしょう。さあ、お父様の判断はいかに!!
「お前をギルドの長にしようと思う。」
……………………………ん?