ライバル店からの嫌がらせ
こんにちは。アルーシャです。ギルド長会議から早くも二週間が経とうとしています。あの大変な会議から戻り、穏やかな日常に戻れるかと思いきややはりこの世の中甘くはありませんでした。行きとは違いスムーズに帰ることができたのですが、我が愛しの宿舎に入るとまず飛び込んできたのはミーシャと他の従業員たち。普段は連絡係に任せるのにここに来るとは珍しいわねとのんきに思っていました。その時は。
「アルーシャ様ああああ!!あいつらの店をぶっ壊す許可をおおおおおお!!!」
こんな物騒なことを言う従業員を見てこれはただ事ではないと疲れ切っている私でも察しましたとも。私はエリとアイサに従業員たちを落ち着かせるためのお茶とお菓子を用意させ、とりあえず無理矢理椅子に座らせました。すると興奮していた彼らも少し落ち着いてきたようです。
「私がいない間何かあったの?」
「料理に虫が!」
「嫌がらせが!」
「悪評が!」
「次々に引き抜かれて!」
「壊す壊す壊す壊す壊す…」
「落ち着きなさい。…エリ。」
私はエリに二杯目のお茶を注がせました。みんながみんな一度に言うのであまり聞き取れませんでしたが、確実に危ない子がいたことは確かです…。
「…ふしゅー。私から説明させていただきます。まず事の発端はアルーシャ様が不在となられて丸一日が経った時のことです。店に一通の手紙が届き、それには[店を閉めよ。さもなくば災いが降り注ぐであろう。]と赤い文字で書かれていました。そのような手紙は前からあったので私たちも笑って気にも留めていなかったのですが…。ふしゅー。開店してすぐにお出しした料理に虫が入っていたとか、商品に不備があるなどのクレームが何件もあり、まともに営業できませんでした。そして閉店後は石が店内に投げ込まれたりなどして窓が割れて…ふしゅー。我々は犯人を捜し、そしてそれがあの有名なバリー商店だと突き止めたのですがあいつら…ふしゅー!!ぶっ壊して吊し上げてやるうううううううう!!!!!!」
思い出して怒りが爆発したミーシャを慌てて押さえるワタルたち。
「…私たち直談判しに行ったんです。そうしたら証拠がない、そちらの問題で巻き込まないでほしいとまともに受け取ってもらえず、そして…」
そこで言葉に詰まる従業員たち。暴れているミーシャ以外俯いています。
「なーにがこちらへ来いよ!誰がお前たちのような卑劣な奴らの元で働くか!!」
なるほどね。大体状況がつかめてきたわ。…もともと気は強い子だと思っていましたがここまで荒れているミーシャは初めて見ましたわ。それほど腹が立つことでも言われたのかしら?
「アルーシャ様!俺たちはあなた様のおかげでまともに生活でき、人間として生きてこれました。商業ギルドで働くことこそ俺たちの生きがいであり、あなた様の恩返しであり、そして誇りでもあります。それを否定されることは俺たち自身侮辱されたのと同じです!どうか…あいつらに報復するチャンスを!!!!!」
商業ギルドの従業員のほとんどはこの都市の住人です。家もなく仕事もないので、家族を養うお金もない。できることは都市に入り浸る奴隷商人に自分を売ってお金にすることくらい。私はそんな環境を改善させるため、彼らに仕事を与えました。農業か商業ギルドで働くか選ばせ、徹底的に指導しました。時間もあまりなかったので同時進行でしたが、幸運にも頭や要領がいい子、手先が器用な子が多く、順調に彼らの生活は改善されていきました。…あぁ、言っておきますが私は利己的な人間ですから、彼らに同情して手を差し伸べたのではありませんよ?彼らが今幸せと言うならば、それは彼ら自身の努力の結果なのであって、決して私のおかげなどということはあり得ないのです。逆もまたしかりです。私のせいにされても困ります。
「もちろんそんなの許可できるわけないでしょう。ほら、甘いものを食べて落ち着きなさい。ミーシャもよ。これあなた好きでしょう?」
「……ふしゅー。ふしゅー。…………やはりこれは格別です。美味しいの一言につきますね。」
ふう。やっと暴走列車が落ち着きましたわね。さて、バリー商会ですか。ほかのところならわかりますが、まさかあそこから来られるとはすごく意外ですわね。…無視される覚悟で手紙でも出してみますか。果たして元気にしてるでしょうか。あの子とは学園以来ですから、久々ですわね。