ギルド長国際会議へ
ギルド長国際会議とは、各国のギルド長が定期的に集まって開催される会議のこと。それは国同士の腹の探り合いだったり、国の発展を促すものだったりととても重要なもの。…………なのですが……。
魔王との戦争が終わって数百年。正直魔物はいますが世界は平和そのもの。そんな中、ギルドという組織に必要性が感じられなくなった国々は、ギルド長会議での出席の義務を無くし、ついにはその会議そのものがなくなりました。表向きはちゃんとしてることにしているので、私も最近まで知りませんでしたが。ギルド長会議に使われる経費が集まる場所によりとてつもなくなるので、平和になりお金にがめつくなった人々にとって、それは無駄な出費であったのです。
「お嬢様。」
「どうしたの? エリ」
今私達はその道中であり、隣の国へと向かっている最中。隣の国は勇者発祥の地でもあります。勇者には一生に一度お会いしてみたいですわね。今はどこかで静かに暮らしていると聞いていますが、魔王が再び動き出したとなればそれこそ出番です。………そうなる前に倒しておいて欲しかったというのが本音ですが。勇者には勇者なりの事情があるのでしょう。嫌々ながら戦っていたのかも知れませんし。
「…………お嬢様。何者かの襲撃をうけています。」
…………いきなり緊急事態のようです。勇者や魔王がどうこうの前にまずは我が身です。
「今護衛組が戦闘を行なっております。」
馬車は普通に走っていてかつ何も雑音が聞こえないことから、マリカが魔法障壁でも施していたのかしら。普通の魔法障壁にはそのような作用はないのだけれど、マリカが新しく創った付与魔法を使えばそれが可能なはず。
「マリカがいればワタルも無茶はしないでしょうし……そこらへんの野盗には負ける子達ではないですが……」
何でしょう。この言いようのない不安は。あの子達の強さは他でもない私が知っているはずなのですが……
「お嬢様………御者が殺られたようです。今シュウが馬をなだめて止めさせています。」
ということは、一枚目のバリアは破られたか、どこか壊れてしまったようですね。マリカのバリアはここだけ二重になっていたようで、こちらは全く衝撃がありませんが。
「……………強すぎるというのも不便ね。 全く外の状況が分からないわ。」
調べようにも魔力が弾かれてしまいます。
「あとでマリカに言っておきます。」
「………」
外での様子は分かりませんが、かすかに魔力を感じます。誰かが近くで魔法を使っているようです。あぁ。不安がますますおおきくなるばかり。
「………エリ。外は…………」
そのとき何か身の毛がよだつような重い魔力がこの馬車を攻撃しようとするのを感じました。
「エリ!」
私はエリの手を掴んで、外へと飛び出しました。走っている馬車から飛び降りるというスリリングは初めて経験しましたわ。その途端、馬車はぺちゃんこに潰れてしまいました。そして外の光景は私を驚かせるものでした。
「マリカ! ワタル!」
「……お、お嬢………すみません……逃げてくださ……」
ワタルはかろうじて意識があるようでした。マリカはワタルの方への防御を意識してしたようで、マリカの方が火傷が酷く、普段回復に回るシュウを探しました。
「……シュウ! アイサ!」
後方支援のアイサは大きな穴の中心に倒れており、シュウはその穴の横に同じく倒れていました。傷も汚れもないシュウは神経的な何かをされたようです。これは早く見てあげないと。
「………お嬢様。 あの男………」
エリが前を睨み、警戒した声で言いました。
「ええ。」
唯一残っているトウヤは黒いマントに身を包んだ男と交戦中。けれど男はトウヤの攻撃を軽々と避け、そして唱えました。
「『圧迫魔法』」
「『無効化魔法』!!」
私はトウヤの身の危険を感じ魔法を唱えていました。二つの強い力がぶつかり合いその衝撃でトウヤは後ろへと飛ばされます。エリがトウヤを受け止めた時、トウヤはか細い声で言います。
「………お嬢様……………」
「ええ、わかってるわ。 後は任せておきなさい。」
何が言いたいのか理解し、私は安心させるように微笑みました。
「……お嬢様!!」
マントの男が動き出したのを目の端で捉えました。次に動いたのはエリです。
「………っ!」
エリの拳をやすやすと受け止め、男はエリを投げ飛ばしました。華麗に着地するエリ。男は私を指さしました。
「………アルーシャ・シャーロット。 お前を排除す…………」
「黙りなさい。」
正直我慢の限界です。私は目の前の男を睨みつけます。
「賊ごときが高貴な我が名を口にすることは許しませんわ。 貴方には少々仕置きが必要なようです。 覚悟しなさい」
自分自身の魔力がどんどん上がっていくのが分かります。今まで抑えていた魔力を手に込め、そして私は一言唱えました。
「『破壊魔法』」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
お嬢が各国ギルド長の会議に呼ばれた。使者が来た時、敵かと思ったぜ。気配もなく侵入してきたからそう思うのは当たり前だろ?紛らわしいことすんなぁ。おかげて姉貴に怒られちまったじゃねぇかよ。その使者は言った。
「例の件の日程が決まりました。 明後日、 隣の国でございます。 詳しいことはこれに。 あと………これは小耳に挟んだことなのですが……最近黒いマントを着た男が野盗を引き連れて道中の貴族を襲っているとかなんとか。 くれぐれもお気をつけを。」
そしてまた気配を消して屋敷から出ていった。お嬢は渡された封筒の中身を見て、
「すぐ支度を。」
と一言。そしていつものように俺達六人はそれに警護として付いていくと言い張った。
「貴方達六人全員が来たら、仕事はどうするのよ。 訓練は? 新しい作物は? 管理は? 書類の作成は?」
俺達一人一人を指し、そう反論するお嬢にみんなにやりとして言った。
「もう下の者に指示はしてあります。 ご心配ありません」
そして俺らは乗馬し、お嬢とエリは馬車に乗り出発した。
「なあ、どう思う?」
俺は斜め前のトウヤに問う。
「…………何がだ」
「あの使者が言ってたマントの男だよ。 なんか覚えねぇか?」
「………いや。 お前はあるのか?」
「んーちとな。 引っかかってて……何だっけなぁ。」
黒いマントの男。何かは分からないがそれを聞いた時からずっと引っかかってていた。なんだ?…………まあ、そのうち思いだすだろ。
「…………おい、噂をすれば影あり、だぞ。」
「んあ?」
トウヤが顎で前をさした。そこには馬に乗った野盗らが待ち構えていた。情報が正しければその後ろには黒いマントの男がいるはずだ。
「気になるなら本人に聞いてみればいいだろう。」
「違いねぇ!」
エリに報告は御者がすんだろ!俺らはいつものフォーメーションで野盗を迎え撃った。
まず姉貴が魔法で半分倒し、馬を混乱させ、それを俺らが薙ぎ払う。軽いもんだった。野盗を全滅させるまでは。野盗を全滅させたとき、一人の男が姿を現した。そいつは黒いマントに身を包んでいた。そして、お嬢たちがのっている馬車に手をかざす。
「『圧迫魔法』」
姉貴が前もって張っていたバリアでそれは跳ね返ったが、衝撃で御者の頭が吹っ飛んだ。そしてそのバリアにはヒビが入っていた。……ここから遠距離であるはずの姉貴のバリアにヒビいれさせるなんてあいつ何者だよ………。俺はその男に向かって飛び、勢いよく剣を振り下ろした。
「スキだらけなんだよ!」
「『突風魔法』」
男は慌てもせずに俺を姉貴の方まで飛ばす。好都合だ!このまま姉貴といつものタッグで攻撃といくか。勝利を確信し姉貴を見たが、姉貴は何故か真っ青な顔をした。
「ワタルッ!」
「『灼熱魔法』」
飛ばされている俺に炎が迫ってくる。剣で払える規模じゃない。下には姉貴がいる。くそっ、これが狙いだったのか。空中じゃ身動きが……。
「『魔法障壁』」
………無理だ。バリアの効果範囲に入るよりも炎が俺を焼き尽くす方が早い。くそっ。こんなところで………。だが、燃えるような熱さの代わりにひどい衝撃が俺を襲い、俺は地面にそのまま落下した。
「………あ………ねき………」
姉貴は自分の範囲にバリアを張ったわけじゃなく、俺自身に張っていた。そのため、俺は火傷を負うことはなかったが、バリアが破られた時の衝撃でまともに動けそうになかった。姉貴は炎をほとんどまともにくらってしまい、火傷が酷い。意識もないようだ。姉貴の元に向かおうとするが、体は言うことを聞かなかった。トウヤは何かと戦闘中のようで、男はお嬢の馬車へゆっくりと歩いていく。
「…………ま………て」
馬車の方にはアイサ、シュウが待機していた。馬車は進行方向から逸れて止まろうとしている。………くそ。これじゃ格好の的じゃねぇか!
「はあああ!!」
アイサが短剣で攻撃を仕掛けたが、男はアイサを俺の時と同じく突風で払い除けた。飛ばされたアイサはシュウとぶつかり、ともに飛ばされてしまった。やべえ…
「シュウ!」
「『圧力魔法』」
いち早く危険を察知したアイサがシュウの胸ぐらをつかみ投げ飛ばした。その途端アイサの体は見えなくなった。
「アイサ!」
アイサの名前を呼ぶシュウの後ろにはマントの男。
「『幻覚魔法』」
シュウがそのまま倒れた。そして、男が馬車へと近づき、ヒビの入ったバリアへと手を触れた。
「っ!? ………『防衛魔法』か」
男は何かによって弾かれるように後方に飛んだ。そして男は煩わしそうに手をかざした。魔力が上がっているのが俺でも分かった。
「………ちっ。」
それをトウヤが邪魔をするが、魔法は唱えられた。
「『圧迫魔法』」
最初にかけたものとは格段に違う規模の魔法がお嬢の馬車を襲った。押しつぶされる馬車。お、……お嬢……
「マリカ! ワタル!」
二人は馬車から抜け出していたようだ。その声にほっとする。
「……お、お嬢………すみません……逃げてくださ……」
トウヤと互角に戦える身体能力を持ち、姉貴と同格かそれ以上の魔術師の男。だが、解せねぇ。あいつは最初に俺と姉貴を警戒していたようだった。それに加え、接近を得意とするトウヤを封じ、俺と姉貴を抑えての馬車の攻撃。まるで俺達用に立てられた作戦のようだ。ただの野盗の仲間じゃねぇ!直に間近で戦ったトウヤは何か気づいたようだった。お嬢もそれを察していた。
「………アルーシャ・シャーロット。 」
男がお嬢に話しかける。気のせいか笑っているようだ。
「お前を排除す…………」
「黙りなさい。」
お嬢の今まで聞いたことのないくらい冷たい声に俺は震えた。
「賊ごときが高貴な我が名を口にすることは許しませんわ。 貴方には少々仕置きが必要なようです。 覚悟しなさい」
………まさかお嬢戦う気か!?お嬢の魔力が上がっていく。それはとても禍々しくお嬢を包んでいった。そしてお嬢はその冷酷な目で男を見て呟いた。
「『破壊魔法』」
凄まじい音と凄まじい熱風を感じながら耐えきれず目を閉じた。そして恐る恐る目を開けると………木も草も男も消え失せ、ただ広いむき出しの大地が広がっていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「…………逃がしましたわね。」
私は呟きました。殺すつもりだったのだけれど、相手もまだ力を隠し持っていたようで寸前のところで逃げられてしまいましたわ。
「………お嬢様?…あれ?僕……」
シュウは元から幻術関係に耐性が強いようです。特にその他に影響はなく、すぐに目を覚ましました。アイサも気絶していただけのようです。
「……お嬢……姉貴は………」
「大丈夫よ。 火傷は酷いけど、命に別状はないわ。 あなたも時期に動けるようになる。」
「………ごめんお嬢」
多分これが初めての敗北。みんなそれぞれ自分の腕に自信があっただけにその顔は暗い。そんなみんなに私は話しかけました。
「貴方達の任務はなに?」
「……お嬢様に害する輩の処分です。」
アイサが答える。しかし、私は首を振りました。
「違うわ。私を守ることでしょう?普通の戦闘とは違うわ。護衛対象の私には傷一つついていないのに何故そんな顔しているの?」
「………ですが、私達は貴方を戦いに出させてしまった。護衛失格です。」
「そうね。でもそれは貴方たちより強い者が襲いかかってきた時の対策を考えていなかった私のミス。戦い方を十分に指示していなかったわ。貴方たちが気に止むことはない。私は無意識に貴方たちの強さに甘えていたみたい。………でも今度はそうならないわ。そうでしょう?」
「「「「「はい!!」」」」」
「よし。それじゃあマリカが目を覚ましたら移動しましょうか。馬があることだし、久々に馬での移動ね。楽しみだわ。」
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