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フラグ立ってました

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



先日のグリアム様とエリザ様の婚約披露宴のことだ。


「この度はグリアム様とのご婚約おめでとうございます。エリザ様。」


「まあ!アーベル様!お久しぶりです!なかなかお見かけしませんでしたから、心配でしたのよ?お変わりないようで安心しましたわ」


濃いピンク色のドレスに身を包まれたエリザ様はこれまで以上に美しく、遠くから見惚れていた俺はやっとお声をかけることが出来た。エリザ様と二、三言お話し、今度は別の方へと挨拶しようと歩き出すが何やら周りが騒がしいことに気づいた。


「シャーロット家の皆様よ!」


……………なるほどと俺は納得した。貴族の頂点であるシャーロット家は反感を買うことが多いが、何かと目立つ方々なので憧れる者も多い。更に商業ギルドで発売されているという恋愛小説には前当主のグレゴリオ様とリリー様がモデルになっており、大変人気だ。妹のセルも全巻持っているという。


「あの方は誰なのでしょう?大変美しくていらっしゃいますわ」


すると突然騒ぎが大きくなり、うっとりとした声があちこちで聞こえる。俺は視線をたどり、話題の中心の人物を探した。


「アル、寒くないか?」


「大丈夫ですわ。ありがとうございます。キュリオスお兄様。」


グリアム様の友人の一人である、キュリオスが何故か今まで嫌悪していたはずのアルーシャを笑顔でエスコートをしていた。話題の中心の人物はアルーシャだった。


「キュリオス、挨拶に行くぞ」


アルーシャに断りをいれ、父親の後ろをキュリオスは付いていった。俺はあらかた終わったであろう時間にキュリオスに声をかけた。


「キュリオス。お前どうしたというのだ?散々アルーシャを嫌っておっただろう」


「………ああ。だがあれは誤解だ。アルーシャはそんなことしない。…………アーベル、お前聞いてないのか?一応お前の父親とアルーシャの父親は仲がいいだろうに」


怪訝そうか顔をするキュリオスに俺は何も言えなかった。何か俺が知らない事情でもあるのだろうか。


「…………俺はあいつを守るよ。今までしてきたことを償いたいんだ。」


何故かキュリオスは右頬を抑え、アルーシャを見る。そのキュリオスの顔は今までのグリアム様の後にくっついていたときの子爵としての顔ではなく、一人の当主の顔だった。


「お前も大変だろうが頑張れよ。」


キュリオスは俺の肩を叩いて、挨拶へと戻った。


「………………。」


俺は突然の友人の成長に戸惑いを隠せなかった。先程までキュリオスが見ていたアルーシャを見る。エリザ様とお話になっていた。そしてアルーシャに先日言われたことを思い出した。俺にはまだ何をどうしたらよいのかわからない。何が正しく、何が間違っていて、何を信じれば良いのか。


「アーベルじゃないか。久しいな。お前もこっちに来い。」


ルドルフ様の声掛けにより、俺はすっかり出来上がっている父、グレゴリオ様、ルドルフ様に混じった。正直脂汗ものだ。ルドルフ様とグレゴリオ様には休暇中、わざわざ俺が父にしごかれている訓練所まで訪れられ、散々負かされたという苦い思い出がある。その時のお二人の恐ろしさに未だに手汗が滲んだ。


「この間の会議以来だなアーベル」


ルドルフ様が父の手からグラスを取り上げて言った。


「………はい。その節はどうも申し訳ございませんでした。」


「その件はアルーシャが不問とした。気にするでない。」


アルーシャの名前に反応してしまう。


「……話が変わるが、アルーシャもいい年頃。そろそろ結婚も考えても良いかどうか。お前はどう思う?」


ふと、2歳の誕生日がきたアルーシャが俺に言った言葉が頭を過ぎる。


「私、アーベルのお嫁さんになる!」


………………なぜこんなこと、今思い出さねばならぬのだ!?


「わ、私にはその質問の意味が分かりかねます」


俺は一体どうしてこんなに動揺しているのだろうか。


「ふむ。いやな、私としても知らぬ奴にアレを渡すのは少々惜しくてな。ならば誰か知り合いに嫁がせようかと考えておってな。」


アルーシャの隣で微笑むキュリオスの顔が思い浮かぶ。……まさか………


「だが当たり前だがな、既に婚約者がおるところが多いのだ。いないものは………そう言えばアーベルお前はまだいなかったな?」


「は、はい。父上が一人前になるまでは…と。」


「ふむ。そうか…………それは都合が良いな。」


…………な、何の話だ?ま、まさか………お、俺に…………!?ばっとルドルフ様の顔を見るとその顔は…………………


「ハッハハハハ!!!!!!どうしたお前顔が真っ赤だぞ?ハッハハハハ!!これは面白いもんが見れた。な?父上。」


グレゴリオ様を見るとルドルフ様と同じ顔されていた。


「そうじゃのー。これはいいもん見れたわい。」


………………ま、また遊ばれてしまった。この両方は父上や俺をすきあればからかおうとなさる。


「アーベル、お前のことだ。恥ずかしさのあまり話しかけることすらできないだろう。そんなお前に機会をやろうではないか。」


……………厄日だ。そう思った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ルドルフ様が俺に与えた機会とは、


「………ギルド……でございますか?」


「ああ。ルドのやつが是非お前にやって欲しいと言ってきてな。アルにはもう話が言っているらしいから、行ってこい。そして身の程を知ってこい」


アルーシャがギルド長を務めるギルドでの依頼活動だった。それは騎士団が前々から気にしていたギルドの視察のいい機会だった。そして送り出された俺を待ち受けていたのはいつぞやの男だった。


「……………アーベルだ。先日は世話になった。」


「…………。」


男は俺の差し出した手を無視し、アルーシャの元へと案内した。


「よくいらしてくださいました、アーベル様。では、さっそくですがこれが依頼内容ですわ。こちらが今回貴方様のパートナーのワタルです。」


男はワタルというらしい。あまり聞かない名だが。アルーシャはあの時と同じく俺と顔を合わせようとしなかった。口調も業務用だった。


「………あ、ああ。」


「なにか不明な点はありますか?細かいところは父がシューベル様に書類を渡してあるとお聞きしていますが。」


「………ああ。貰っている。不明な点は特になかった。」


「では、道中何かありましたら、ワタルへとお聞きください。」


そして俺は森へと入るため軽装な格好をして、オーガの森へと向かった。


「………………。」

「………………。」


ワタルは相変わらず俺と話をしなかった。まあ、俺も口下手なほうだからそっちの方がありがたいが。


今回の依頼は、ダンジョン出現の際に生態系が乱れて強くなった魔物を倒すというものだった。だが、いくら強くなったと言ってもBランクやCランク。既にSSランクを倒せる俺にとっては楽な依頼だった。


「………………。」

「………………。」


ワタルと俺のこの間に俺は飛び出てくるゴブリンどもを四匹倒した。ワタルは六匹だった。


「…………………。」

「…………………。」


この間にはスライムを五匹を倒した。ワタルは十匹だった。


「………ワタル、お前に戦いを教えたのは誰だ?どうやったらそんな太刀筋になれる」


あまりの剣さばきに俺はつい話しかけてしまった。


「……………。」


やはり俺の話を無視するワタル。見かけは軽そうな男なのだが、意外にも寡黙なのかもしれない。


しばらく森の奥へと進んでいくと、木がない広い場所へと出た。花が所々に咲いていてとても綺麗だった。


「…………罠だ」


ボソッと聞こえたワタルの声は俺の耳には届かなかった。前へ一歩踏み出そうとする。


「やめろ!」


ワタルがなぜ叫ぶのか分からなかったが、遅かった。俺は気がつくと地面に伏していた。どうやらワタルが俺を突き飛ばしたようだ。俺の足元には弓矢が三本落ちていた。トラップが仕掛けられていたらしい。迂闊だった。周りを見るとゴブリンたちが目をギラギラさせてこちらを見ている。


「…………ウルフゴブリンか。」


ウルフゴブリン。ゴブリンが魔獣になったもの。ランクはSランクだ。この間のダンジョンの影響がでているのか、その数はかなり多かった。まだ奥にもいる。


「ぎゃっぎゃっぎゃ!!エモノだエモノだ!」


どうやらこいつらは喋れるようだった。その口からは見える鋭い歯には血や毛、布切れが挟まっていた。


「んん?んんんん?オマエ、エモノカ?」


一匹のウルフゴブリンがワタルを指さして首を傾げた。


「っ!俺はエモノじゃねぇよ!」


ワタルは勢いよく飛び出し、その一匹を仕留めた。それを合図にウルフゴブリンたちはワタルへ突っ込んでいく。その数三十をゆうに超えている。


「お前は逃げろ!足でまといだ!」


すでに魔物たちに囲まれて姿が見えないワタルの声。どんどん斬られた魔物たちが上へと飛び、塵となる。だがしかし、いくら強いワタルでもこの数に一人では…………。俺は自分に襲いかかってくる魔物を倒しながら思った。そして見つけた。木の上で呪文を唱えている魔物を。そしてウルフゴブリンの数が半分をきったとき、魔法は放たれた。


「『融解魔法(シュメルツェン)』」


ドロドロした何かがウルフゴブリンごとワタルを襲った。


「くっ!」


俺はワタルのところへきたドロドロを寸前のところで剣で払う。それに当たった魔物は溶けて肉が溶け、骨が露わになっていた。


「お前………」


かく言う俺も払い損ねたところが服を溶かし皮膚も焼けただれたようになってしまった。


「足でまといかもしれないがお前は先ほど俺を助けてくれた。俺にも戦わせてくれ」


「…………………好きにしろ」


「ああ!」


そして、背中合わせで戦った俺たちが剣を鞘に収めたときには、太陽は真上にきていた。


「………これで全部か。怪我はないか?ワタル」


「………………。」


ワタルはそれに答えず、俺に小瓶を投げた。傷によく効くもののようだった。


「すまん。恩に着る。」


「お嬢の命令だからな。」


ワタルの答えに戸惑いながらも俺はそれを焼きただれていたところに塗った。するとすぐに焼きただれは消えいき、痛みも引いていった。かなり高価な薬のようだ。


「……ワタル、先ほどの魔物がお前を見て獲物かどうか聞いていたが、あれはどういう意味だ?」


俺はワタルに聞いた。それはごく普通の疑問だった。


「……………魔物の言うことにいちいち耳を傾けるのかよあんたは」


ワタルはいつものように俺の質問を無視するのだろうと思っていたので、少し驚いた。俺は少し嬉しくなり、話を続けた。


「いや、ただそれを聞いた時お前がやけに慌てているようだったからな。」


「…………………」


黙り込み立ち上がるワタル。


「なあ、ワタル…………」

「なぜ俺がそれに答えねぇといけないんだ?」


明らかに殺気を帯びた冷たい目だった。


「いや………答えたくないなら別にそれでいい……って、お前怪我してるじゃないか!?」


ワタルの腕から血が滴り落ちていた。ワタルの手を掴む。


「なっ!?離せ!これは怪我じゃない!それにこれぐらいすぐ治る!」


「魔獣じゃあるまいしすぐ治るわけないだろ!!」


どんなに強くともワタルとは体格差がある。嫌がるワタルを無理やり座らせ、出血が出ている肩の部分の服をめくると、俺は目を開いた。


「離せ!!!!!」


血で確かは分からないが、ワタルの肩には痣があった。それが何か俺は知っていた。


「…………お前………魔獣とのハーフか………」


「…………っ…………」


ワタルは肩を抑えてこちらを睨んだ。ワタルの殺気にダンジョンの主以上のものを感じ、身が震えた。だが、そのワタルの目からは憎悪とともに恐怖の色もあることに気づいた。


「俺はお前を殺さん!」


剣を捨て、俺は手を上に上げる。俺は何故かそう言い切れた。正直、なぜ変異体をアルーシャが雇っているのかは分からない。魔は嫌われる存在なのだ。アントワーヌ王女様が生まれる前までは黒目黒髪も嫌われていたほど、人々は悪に怯え憎悪していた。幼い頃の俺はその雰囲気を感じ取っていたのだろう。今でも、特に魔の者の血が入っている種族は嫌われ、差別される。


「俺はお前を傷つけたりしない!」


だが俺は悪を悪と断定しない騎士団長になると幼い俺に約束したのだ。魔がなんだ。ハーフがなんだ。それを否定する奴こそが悪ではないか!


「………お前………俺が怖く………ないのかよ」


殺気が消え、ワタルがかぼそい声で俺に聞いた。


「お前は俺の戦友であり、恩人だ。恩人に感謝することはあっても恐怖に怯えるなどいうことはない。話してくれないか?お前の過去を。知りたいんだ。」


「……………」


だが、ワタルは俺に今度は嫌悪の目を向けた。


「ワタル?」


「……お前は無抵抗なお嬢を床に押さえつけた卑劣なやつだ。そんなやつに話すことなんてない。」


そこで馬鹿な俺はようやく分かった。ワタルはアルーシャに雇われているのではなく、忠誠心を持って従っているのだと。そんなアルーシャの尊厳を踏みにじった俺は、ワタルにとって敵なのだということを。


「お嬢は誰よりも強くて、誰よりも優しい方だ。正直俺はお前を殺してやりてえが、お嬢に釘を刺されている。だから殺らないだけだ。調子に乗るな。」


「なぜお前はアルーシャに従う。俺が知ってるあいつは卑劣なことをして学園追放された奴だぞ!?そんな奴にお前はなぜ……」

「おまえごときがお嬢の何を知ってる!卑劣なことをした?それをお前は見たのか?調べたのか?ちげぇよな?お前はただ他人が言ったことを鵜呑みにしてお嬢を悪者扱いしたんだよな?全部知ってんだよ!お前がいかに馬鹿で愚かなやつだってこともな!!!」


……………………そうだ。俺は………アルーシャのことを何も知らない。あのメイドの言ったとおり、自分で何も考えてはいなかった。そうか………悪は………


「……………………悪は………俺自身だったのか。………先日のダンジョンは俺の軽はずみな行動で皆を巻き込んでしまった。お前たちが来てくれなかったら俺は……皆を殺すところだった。」


「そうだな。」


「自分の力を過信して、仲間を危険に晒してしまうなど………父上が私を信用して下さらないわけだ。」


「そうだな。」


「自分の意義に拘り、ほかの意見など聞きもしなかった俺に誰がついてくるというのだろうか………俺には騎士団団長になる資格などないな。…………済まなかった。お前の主を私という小者が馬鹿をやって傷をつけてしまった。きっと許してはもらえないだろうが誠意を尽くして謝ろうと思う。」


なんということだろう。俺はなんて愚かで小さい男だったのだろう。ワタルに言われるまで思いもしなかった。俺自身が『正される側』なのだということに。いつも自分は『正す側』なのだと思ってた。なんて思い違いも甚だしい。自嘲の笑いがこみ上げてくる。


「…………はぁ。」


ため息をついて石の上に座るワタル。ため息をつかれて当然だ。当然のことを俺はしてしまったのだ。


「………あのよ。俺はお嬢はお前を許すと思うぜ。あの人は根本的に甘いんだよ。キュリオスの野郎にもあんなに失礼なこと言われてたのにビンタ一発で許しやがったくらいだ。お前のことも許すと思うぜ。ビンタ一発ですまないとは思うが。」


頭をかくワタル。もしかして……


「………慰めてくれてるのか?」

「なっ!?ち、ちげぇよ!ただお前があまりにも泣きそうな面してっからだ!」


「………すまないな。つくづく世話をかける。」


そういう俺にワタルは照れたように俯いて、言った。


「…………俺らは戦友なんだろ?世話かかってとうぜんなんだよ」


「………俺と戦友に…………なってくれるのか?」


「お前がそういったんだろ!!」


ついにそっぽを向いてしまった。


「ワタル…………ありがとう。」


「……こちらこそ………ありがとな。」


ワタルが俺にお礼をいう意味がわからない。


「なぜお礼を言ったのだ?」

「わ、分かんねぇならいいんだよ!」


そうか、いいのか。ならいいか。


この日、俺に初めての戦友ができた。

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