ダンジョン攻略3
「んー、もうちょい歯ごたえがあるやつだと思ってたんだがな。」
二カッと笑うワタルはかすり傷一つありません。
「さて、んじゃ帰ろーぜ。」
「まだよ。マリカたちが戻ってきてないもの。」
私は扉の方をちらっと見ましたが、扉は閉ざされたままです。
「姉貴のやつおっせーな。じゃあ、おれ寝とくわ。」
部屋の真ん中で寝転がるワタルに苦笑して、私はダンジョンの主だったものを見ました。
ダンジョンの主の容貌については特別異常な点は見受けられませんでした。けれど、ダンジョンの主が魔法を操るだなんて異常聞いたことがありません。魔物には魔力は天敵。だから一般的に剣には魔力を込めて作られることが多く、それで冒険者たちは魔物を斬っていったり、また魔法を使って倒していきます。たまに魔力に抵抗がある魔物が生まれることがありますが、それは変異体として扱われますね。変異体は体のどこかに痣があるのが特徴なのですが、この主にはそれはありませんね。
「………………杞憂だといいけど。」
私は頭によぎった可能性を頭の隅に追いやりました。
「お嬢様。無事回収終わりましたわ。」
私が主の亡骸を収納していると、マリカたちが来たようです。実は三人には行方不明になった人を探してもらっていたのです。素人の冒険者によく起こりやすいことで、突破した部屋に負傷者を待たせて次の部屋に行くと、負傷者がその部屋に喰われてしまうという事態がおこってしまいます。何故かは未だに不明なのですが、恐らく部屋自体がダンジョンの主の一部なのだと思われます。
「お疲れ様。それで行方不明者の安否は?」
「二人とも無事ですわ。お嬢様がお気づきになられたおかげで、命拾いをしましたわね。」
ダンジョンが消えてしまうと、中にいたもの全て同じ運命となるのです。
「そう。よかった。では、戻りましょうか。」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「それでは今から先日消滅した塔のダンジョンについての報告会をはじめる。騎士団からの話は既に聞いておる。じゃから、初めに専門家の話を聞くというのが筋というものじゃろう。ギルド長、アルーシャ・シャーロット殿。前へ。」
王都への報告の呼び出しは思った以上に早かったです。それだけ塔という形でのダンジョン出現が異常だったのでしょうか。それとも……他になにか………。
「はい。ことの始まりは一週間前、王都からアレスタの中間地点であるオーガの森にダンジョンが出現したことが始まりでした。普通とかけ離れた塔という形から、我々は普通の冒険者では太刀打ちできないと思い、私自ら最精鋭部隊を連れ、ダンジョンを消滅させるに至りました。」
「初めに現場に到着したのはギルドではなく、騎士団だと聞いたが?ダンジョンの発見が遅れた件と言い、ちゃんとダンジョン出現を定期的に確認していたのかね?」
この方は確か、ギルドという組織に反発的な大臣様。こことぞばかりに茶々を入れてきますわね。
「見回りは普段から冒険者に依頼してやらせております。オーガの森は特に力が大きい魔物が生息しておりますので、特に強化してやらせていたところでございます。実際ダンジョンが現れた前日は異常なしと連絡を受けていますわ。」
「その冒険者が見回りを怠ってたということではありませんかな?」
………しつこいですね。ねちねちという男は女性に嫌われますわよ。
「ありえませんわ、大臣。王都からアレスタの道中そんな塔は見なかったと貴方様の奥方様から伺っておりますもの。それともそれは見間違いだともおっしゃるおつもりですか?」
にこっと笑いかけると引きつった顔をされました。あなた様のお家がかかあ天下だということはおばあ様から調べ済みですわ。
「そ、それはとんだ失言でしたな。」
「いえ。ダンジョンの出現に出遅れてしまったことは確か。私の力不足でした。」
深々とお辞儀をします。
「いやいや。ギルド長がいなければ塔の消滅はできませんでした。我々の方が力不足で。しかも余計なお手間を取らせてしまいまして。」
叔父様がちらっと私の後ろにいらっしゃるアーベル様を見られました。………その顔は鬼そのものでしたわ。
「人命救助は我らギルドの使命でもあり、目的でもありますわ。大事がなくてなによりでございました。」
「ふむ。それについて話を聞こうではないか。シューベル・シャンボルト騎士団団長のご子息、アーベル・シャンボルト殿。前へ。…………貴殿があの塔であったことを述べよ。」
アーベル様が片膝をつかれました。
「はっ!私はフリッシュ・カーストン以下五名を連れてダンジョン攻略を目指しました。目指す過程で一名が行方不明、巣窟の間で一名が負傷で戦闘離脱を余儀なくされ、私を含めた五名でダンジョンの主と戦闘致しました。」
その時、ほう。ダンジョンの主までという声がちらほらあがりました。
「しかしながら、ダンジョンの主の強さを前に全滅の危機に陥りました。そのところをギルド長御一行に救助されたというわけでございます。」
「………なるほど。お主の活躍立派であった。しかし、塔のダンジョンの立ち入りはギルド長が禁じておったはず。貴殿は何故入られた?」
「………そ………それは………」
言葉にどもるアーベル様。
「恐らくご存知なかったのかと思われます。我らよりも騎士団の方が早く訪れられましたから。私の落ち度でございます。」
「………それではその方への罰は……」
「勿論、お咎めなしでございますわ。アーベル様にはこれからもその腕で国民の安全をお守り下さることをお願いいたします。」
「相わかった。それでは次にダンジョンの主についてじゃ。」
アーベル様が私を驚いた顔で見られておりましたが、軽く無視ですわ。
「ダンジョンの主の形状は、蜘蛛の魔物が魔獣へとなり巨大化したもの。しかし足は強化され十二本ありました。驚くべきことに主の体には変異体の特徴である痣がないばかりか、魔法を操っておりました。」
国を仕切る方々がざわっとなります。
「………フン。手柄を大きくしようとしているのですよ」
別のギルド反発派の貴族が口を歪ませましたので、私はBOXから収納した死骸を取り出しました。
「こちらがダンジョンの主でございますわ。近くに寄って見ますか?」
すると、その方はハンカチで口を抑え慌てて、
「い、いや。ここから充分分かった!」
と答えた。これぐらいで情けないですわ。
「魔法を操ったという証人はここにいらっしゃいます。」
後ろにいらっしゃるアーベル様が反応され、ますますざわざわとなりました。
「よろしいかな?」
その中お父様が発言の許可を求めました。
「塔という形でのダンジョンが出現、ダンジョンの外を守る生息しないはずの魔獣、魔法を使うダンジョンの主。以上の点から私はこう推測いたします。魔王がとうとう動き出したのだと。」
「なっ!?」
そんなきっぱり仰るとはお父様の中では確信に近いということでしょうか。
「………そうとなれば事態は一刻を争う!!至急各国にギルド長集会を要請するのだ!!アルーシャ・シャーロット。貴殿には後日連絡する。」
陛下が険しい顔でおっしゃいました。……ギルド長会議ですか。気が重いですわね。
「かしこまりました」
「これにて解散!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ダンジョンから救出された俺はまず父上に殴られた。それから王都で行われる報告会まで部屋に閉じ込められ、一度も父上と顔を合わせることは無かった。
俺がダンジョンへと行った理由は、正義感からではない。ただ単に自分の力を誇示したかったからだ。アルーシャが学園追放を受け、アルーシャの父ルドルフ様とライバル関係となる父上はお怒りになった。
「お前は今迄ワシのそばで何を学んでおったのだ!やはりあのような学園に行かせたことが間違いだった!休暇中、外へ出ることを禁じる!その腑抜け叩き直してやるわ!」
一方的にまくし立てられ反論することも許してもらえなかった。それが悔しかった。俺は崇高な騎士団の教えに背いたとでもいうのか!?俺は愛する女性のために戦ったのだというのに。
エリザ様は男爵令嬢。しかし、身分が低いといっても卑屈なことは決してなく、寧ろ分け隔てない笑顔を誰に対してもお向けになられる。グリアム様もエリザ様のそのようなところにお惹かれになったのだろう。エリザ様の微笑みは不思議な力がある。見るものを魅了するのだ。そして、争いを無くされる。
「…………貴方、変わったわね。」
突然母上に言われた言葉が頭をよぎる。
「私は私です。」
すると、母上は悲しそうに、
「いいえ。変わりました。昔のあなたはそんなこと言わなかったわ。」
とおっしゃられた。そのとき私は確か母上にアルーシャのことを聞かれ、何故あのようなことをしたのですと言われた。それに対しての私の答えは「我が義のためにしたこと。いくら母上といってもこれは揺るぎません」だった。それを言った時の母上の歪んだ顔は忘れられなかった。
俺は俺を認めてくれない両親に嫌気がさした。そして、今回のダンジョンに俺はチャンスだと思った。フリッシュと部下を連れ、ギルド長の禁じた立ち入りを無視してダンジョン内へと入ったのだ。
「………何故俺に罰を与えなかった。知っていたんだろう、俺がお前の禁じを無視したこと。それにお前ならあの場で俺達を見殺しにできたはずだ。なぜしなかった?」
報告会が終わり俺はアルーシャを捕まえ、そして尋ねた。近くにいた目つきの悪い側近の視線を感じながら。
「………ただ単にあの場で戦死者を出すのが嫌だっただけですわ。ギルド長の名に傷がついてしまいますもの。」
アルーシャは俺の顔を見ることもなく言う。
「お前は俺やフリッシュが憎くないのか?お前を学園追放に追い込んだのは紛れもなく俺達だぞ!」
アルーシャはため息をついた。
「……勘違いなさらないで下さい。私は" 自ら学園を立ち去ったのです。いくら王族であるグリアム様といえどそう簡単に生徒を……しかも公爵令嬢を…学園追放などできはしませんわ。」
淡々とした言葉に俺はたじろいだ。
「で、では………なぜ……」
「ご自分で考えようとなさらず、他人に答えを求めてばかり。そんなことですからご自分の力を過信しすぎて、仲間を危険に晒すのです。」
メイドが俺を睨む。俺は心の中を読まれたような気がし、何も言えなかった。暫く沈黙が流れ、アルーシャが口を開いた。
「アーベル様。私は恨むなどという愚かな感情は持ち合わせてなどおりませんわ。しかし、貴方様に対して失望しているということは事実。貴方様は大変弱くなられましたわ。力ばかり示すただの弱者。小さい頃の貴方とはまるで大違い。残念ですわ。」
お前が俺の何を知っている!俺こそお前には失望しているのだ!権力を振りかざし、エリザ様になんて卑劣なことを!そう思ったが、アルーシャの顔を見て何も言えなかった。
「私まだ用がありますの。ごきげんよう。」
アルーシャはそんな俺を置いて、去っていった。俺は呆然と立ち尽くしていた。幼なじみのそんな顔は見たことがない。見損なったとばかりに俺を見る。…どうしてこうなったのだろう。俺達は小さい頃はもっと仲が良かったはず。互いに夢を語り合ったりなどして………
「アーベル!貴方すごいわ!そんな国とても理想的よ!」
幼い頃のアルーシャの言葉に俺はハッとした。そうだ……あれは…………俺の8歳の誕生日だった。
「お誕生日おめでとう、アーベル。それで、あなたはどんな騎士団団長になりたいの?叔父様みたいな騎士団団長?」
「ううん!僕はね、悪をただ悪と決めつけない騎士団団長になりたいんだ!」
「悪を………悪と決めつけない?」
「善と悪の区別は人それぞれ。物を盗むことはいけないことだけれど、盗まなければ飢えてしまう人にとってはそれは仕方ないことだろ?僕はそんな人に寄り添えるような騎士団団長になりたいんだ!罪人をただ罪人として処理しない。僕は善人も悪人と呼ばれる人も守りたい。」
この頃は力の強さなど追い求めていなかった。父上以上の良き騎士団団長になりたかった。自分の意見だけでなく、人の意見も聞けるそんな騎士団団長に。アルーシャにああ言ったが、生死に関係する善と悪すらも無くしてしまえるような騎士団団長にもなりたかった。
「俺は…………いつから………こんな………」
アルーシャや母上の俺に失望した顔が頭に残り続けた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「アーベルと話せたのか?」
やっと探していた人物を見つけました。その方は私とアーベルを盗み見していたようで、建物の影から出てきながらおっしゃられました。
「今のあの方と話すことなど何もありませんわ。それよりもお父様。説明して下さらない?今回の件について。」
「ん?ああ。お前に命令した内容のことか?そのままの意味だ。俺もそろそろお前の仕事っぷりを自分がやったことにするのは心が痛んできてな。」
…………………嘘っぽいですわ。
「………それもありますが、私が一番聞きたいのは今回の件で貴方様が何を企んでいらっしゃったのかってことですわ。ダンジョン出現のこと、叔父様の方に知らせたのでしょう?」
「娘を使って企むなどせぬわ。だが、まあ言うとするなら…………」
…………言うとするなら??
「お前があまりにもギルドを繁栄させたから、悔しくてな。このままじゃ父としての面目が立たないから、お前の父は私だということを示したかったのだ。」
……………………………………はあ!?なんですかその理由!!!!!!!!!!
「ワハハハハ!!その顔が見たかったのだ!いつもはすました顔のお前のその顔がな!!それに最近暇しておって、久々にシューベルの奴をからかうことができたし。いやー満足満足。」
本当に楽しそうにするお父様。…………お父様、今迄猫かぶっておりましたわね。
「あとは、お前のギルド長委任の宣伝だな。いやー陛下にはさすがに嘘はいえんから良かったが、ほかの奴らに言う時は困ったものよ。私は農業のほうはさっぱりでな。商業ギルドなんぞ作るから困ったぞ。まあ、おかげで収益は格段に上がったがな。」
「………ですが、本当に公表してよかったのですか?私は婚約破棄での謹慎中の身ですよ?そんな私がギルド長でしかも商業ギルドで名を売ってしまけば、貴族の一部が黙ってはおかないのでは?」
「気にすることは無い。陛下にたてつく勇気があるものなどおりはせん。それにギルド長会議が近々開かれることは分かっておったしの。」
「…お父様が普通に出ればよろしいのでは?」
「国と国との正式なものだぞ?偽りのギルド長など出せるものか。首がとぶ。」
………………つまりは前から考えていたお父様の計画だったと。とんだ狸ですわね。
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