ダンジョン攻略へ2
「ほら、ワタル!早くこっちへ来なさい。」
「言われなくてもわかってるっつーの!」
待ってましたとばかりにうずうずしている弟を叱りつける姉の図。こういうやり取りをみているとワタルはマリカの弟なのだとしみじみとおもいます。
マリカには私たちの周りにバリアを張って貰います。いきなり敵のど真ん中は何が起こるか分かりませんから。最上階の一つ下の階は巣窟の間と呼ばれ、魔物たちにとってダンジョンの主を守る最後の砦。一斉に襲いかかってくるでしょう。最上階とその砦にはダンジョン全体にかかっている力より更に特別なものが施されており、消失の魔法がきかないのがすごく残念です。
みんなが目をギラギラさせて目的の階が来るのを待ちます。ですが、私は違和感を感じました。
「よっしゃぁぁぁ!…………あ?」
魔物の巣窟を前に興奮が収まらないワタルは大声を出して、そして首を傾げました。何故って魔物の巣窟だと思われていた階には……
「…………魔物が……………いない?」
一匹の魔物の姿も見えず、ただとても広い部屋があるだけでした。
「…………お嬢様。ここには私たち以外の反応はありません。バリアを消します。」
私が頷くと私たちを守っていたバリアが消えていく感じがしました。
「……………ここって魔物の巣窟じゃねぇのか?」
「…………………お嬢様。扉が出現しています。」
普通であればその階が突破されてから姿を現わす次の階に進める大きな扉。
考えられることは、この階は既に誰かが攻略済みだということ。魔物は死ぬと塵となるので、死体などは残らず、そして一度巣窟の間は攻略されるとそのまま。
「……人命を第一優先とします。みんなそのつもりでダンジョンの主と戦闘してちょうだい。」
騎士団がここを訪れたのは三日前。ダンジョン内の時間は外の時間に影響されない。こちらでの1日が外では一時間だったりします。三日という期間があり、かつそれなりの経験を持つ方ならば死ぬことなくここまで来れるでしょう。
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くそっ!どういうことだ!聞いてない!俺は目の前のダンジョン主に魔力を帯びた斬撃を当てる。
思えばこのダンジョンは入った時からおかしかった。統率が取れた、まるで兵士を相手しているかのような魔物に、まだ下の階であるのにも関わらず出てくる魔獣。それらを突破し、やっとたどり着いた巣窟の間は今までにないくらいの多さと強さを持った魔物どもが守っている。仲間は俺の他に六人いたが、今では四人となった。一人は巣窟の間での負傷により戦闘離脱。今は巣窟の間で待ってもらっている。
「アーベル!どうすんだ!この魔獣、刃が通らん!」
仲間のフリッシュが叫ぶ。その瞬間フリッシュは地面に叩きつけられそうになるが、俺は『身体強化』を使いフリッシュが叩きつけられるのを防ぐ。回復魔法が使える奴がパーティから離脱したため、負傷は死となる。
「………………アレを使う。」
「ア、アレか!?確かにアレならたとえこいつだろうとひとたまりもないだろうが……だがあれは………」
「わかってる。だが、怪我を治せる手段がない以上、長期戦はこちらが不利だ。ここら当たりで決着をつけなければ。あとは頼むぞ!」
俺は全魔力を体中に込めた。魔力が高まっていくのが分かる。これは我がシャンボルト家に伝わる技。身体強化の『制限解除』というものだ。身体強化というものは魔法で無理やり身体を強くするもの。だから魔力を加減しないとすぐに体が壊れる。体が異常に強いと言われる我がシャンボルト家だけにしかこの技は使えない。俺の場合、技の発動はできるのだが消耗が激しく、発動時間は短い。さらに発動後一定の時間動けなくなる難点がある。しかし、俺のわがままに付き合わせてしまった仲間のことを考えるとそんなことは言ってられない。
「うおおおおおおお!!!」
今でにないというくらいにの魔力を込め、俺は最大の一撃をダンジョンの主にくらわせた。
「大丈夫か!?」
俺はその衝撃で後ろに飛ばされたが、仲間の二人が俺を支えてくれる。だるい体を無理やり起こすと、ダンジョンの主は倒れていた。俺はやったようだ。
「さすがアーベル。あとは止めを………」
フリッシュがダンジョンの主の方へ歩き出した。これで帰れる。そして仲間の治療ができる。俺はほっとして身体を二人に預けたが、
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
その時フリッシュの叫び声が俺の耳を劈いたと思ったら、何かがこちらへ吹っ飛んできた。その吹っ飛んできた何かは………フリッシュだった。
「な、なんであいつ生きて………」
二人のうちの一人が呟く。ダンジョンの主は俺の渾身の一撃を受けたのにも関わらず何も無かったかのように立ち上がり、雄叫びを上げた。そして、こちらを睨んだ。フリッシュを見ると仰向けのままぴくりともしていなかった。
「……だ、駄目だ。終わりだ………」
どちらかは狂ったように泣き、どちらかは誰かの名前を呟いている。
「お………俺がおとりに………なる。その隙に……フリッシュを連れて逃げろ。」
俺は無理やり身体を起こし、剣を掴んで立ち上がった。
「無茶です!その体では………」
「俺なら大丈夫だ。早くしろ!!このまま全滅するわけにはいかないだろ!」
俺はまだ残っている魔力でダンジョンの主を遠距離から攻撃し、引きつける。予想通りこちらへ向かってきた。
「こっちだ!そうだ!こっちにこい!」
ダンジョンの主は12本の足で俺を襲う。そのひとつひとつの攻撃は重く、俺の体力と魔力を削っていったが、俺は諦めずその足を切り続けていった。だが、12本目の足を切り落としたとき、限界がきたようだ。足がもつれて地面に座り込んだ。今の俺は恰好の餌食。攻撃が来た時、俺は死を覚悟した。
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私たちが中へ入ると、四人の男達が既に戦闘中でした。四人中一人は意識不明、二人は恐怖のあまり震えており、一人はその三人のために戦っておりました。だけどそれも時間の問題。その証拠に体力も魔力も限界寸前のようで腰に力がはいっておりません。
「ワタル」
「はーいよっ」
私はワタルを救援に行かせ、怯えている二人に話しかけました。
「ギルドです。救援に参りました。大きな怪我をしているようでしたら、術者がおりますので申してください。」
「……わ、我らは大丈夫ですが………フ………フリッシュ様が………」
二人が倒れている男を見ました。私はその名前に聞き覚えがありましたので、その男の方へ行きました。そこには既にシュウを向かわせており、回復魔法が施されています。
「……き…気を失っているだけのようです………ただ頭の出血があるので……今止血をしているところです………」
「足も骨折しているみたい。怪我人をよろしくね。」
「はい。」
………この負傷者はフリッシュ・カーストン様。カーストン家は代々シャンボルト家に仕える貴族の家系でいらっしゃる。ついでに言うと、エリザ様の取り巻きのお一人。ということはあちらにいらっしゃる方は………。
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驚いた。俺は目の前の男を見上げた。再生した12本目の足が俺を串刺しにしようとしたとき、俺は死を覚悟した。しかし、その足はいつまでも俺を串刺しにすることはなく、俺の前に立っているこの男によって、防がれていた。
「よお。中々いい足持ってんじゃねぇか!俺にはかなわねぇけどな。」
男はダンジョンの主に話しかけた。
「……お前の足はたった二本。ワシの足は十二だ。その弱い足で何が出来る?」
くぐもった声が部屋に響いた。まさか今のが主の声か!?こいつ喋れたのか!?
「お前を倒すことが出来るさ。」
「たわけ!」
主は再生した12本の足で男を攻撃する。男はそれを全部すごい速さで切っていった。俺を守りながら。
「くそっ!こしゃくな!」
ダンジョンの主が遠くまで後退し、聞いたこともない言葉で呪文を唱えた。
「『焼討魔法』」
その途端、部屋中に炎が燃えあがり、俺達を燃え尽くそうとした。
「『魔法障壁』」
透き通るような女性の声が響き渡り、俺は透明な壁に守られた。仲間達の方を見ると同じようなものが施されていたのでこの女性がしたのだろう。
「救援に参りました。ギルドです。ご無事でしょうか?」
そして俺はその凛とした声には聞き覚えがあったので、俺は尋ねた。
「アルーシャ・シャーロット、なぜ貴様がここにいる!!」
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相変わらず私のことを毛嫌いなさっているアーベル様は、私に嫌悪の表情を向けますが、私は構わずあの呪文を唱えました。
「『亡失魔法』」
すると私たちの周りの炎はまるでそこになかったかのように音をたてて消えました。
「なっ!?き、貴様それは………………ぐっ!!」
どうやらワタルがアーベル様をシュウがいる方向へ吹っ飛ばしたようです。
「役に立たないお荷物は引っ込んでろ。」
という言葉も添えて。
「ありがとなお嬢。これで戦いやすくなったぜ!!」
そして一人で駆け出すワタル。それを見て、いつもだったらここはマリカの立ち位置だと気付き、マリカの苦悩が手に取るように分かる私でした。
「これで止めだ!!」
けれども腕は立つワタル。あっさりとダンジョンの主を倒してしまいました。