ダンジョン攻略へ
「お嬢!やっときた!しまっちゃいますよ。」
私達がダンジョン内へと入るのと同時に塔の扉は閉ざされました。ダンジョンには出入りできる時間帯が決まっていて、それを逃すと次の時間まで入れないし出れないのです。
「さて、これで俺らの他に誰も入れなくなりましたね」
「逆を言えば、私達魔物の巣窟であるダンジョンに閉じ込められたってことでしょうけど。」
そんなこと承知の上だとみんな微笑む。
「じゃあ、ダンジョン攻略始めましょうか。」
私は杖を上に掲げます。塔の一階に天井はないのですが、代わりに長々と続く螺旋状の階段が見えます。そして私はある魔法呪文を唱えました。
「『亡失魔法』」
「お、お嬢様!?それは………」
マリカが何か言ったようですがもう遅いです。だって唱えてしまいましたもの。私達がいる一階は途端に真っ暗になり、一階は下へと沈んでいきます。それとは逆に私達は上の階へと進んでいきます。
「お、お嬢様!?これは………??」
マリカが驚いた様子で聞きました。
「消滅の呪文に生き物は含まないという条件と、繁殖作用を付加したの。だから、このまま最上階のその下の階まで一気にいけますよ。私も仕事残してますし。さっさと終わらせて帰りましょう。 」
簡単に状況を説明するならば、だるま落としみたいなものかしら。私たちをスルリ抜けて塔はどんどん高さがなくなっていくの。そして、そう言ったのが一時間前だったかしら。
「…………………………………………………………………………………………暇です…………………………………………」
…………死んだ目でこちらを見ないでくださいな。
戦闘もなく、ただエレベーターのように目的地へと目指すだけ。これは予想以上につまらないですわね。
「お嬢様、ここ何階まであるんでしょうか?」
「……とてつもないと聞いたわ。あぁ、そうだ。腹ごしらえしてくださいとお弁当貰ったのだった。食べましょうか。」
ダンジョン攻略に来て、戦闘もせず、お弁当を広げてピクニック気分を味わいました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから更に二時間後。
「…………………」
「…………………」
まだ着きません。これは呪文の選択、間違えたわね。みんなを見ると寝ていたり、本を見ていたりと普段とあまり様子は変わりませんでした。
「お嬢様。紅茶のおかわりは?」
とエリ。
「大丈夫よ。それにしてもみんな揃って付いてこなくてもよかったのに。」
「お嬢様がわざわざ敵地に赴きなさるのです。もしもことがあってはいけません。」
………そういえばこの子、ビックベアーは私一人で倒すという予定だったのに拘束呪文で動きを封じたり、風魔法で首に致命傷を負わせたりしてたわ………。おかげで首を切り落とさなきゃいけなかったじゃない。エリは心配性なのよねと溜息をつく。そしてもう一つ悩みの種が。お父様です。
お父様からの返信にはこう書かれていました。
『ギルド長であるお前自ら、ダンジョンへと赴き消滅させよ。』
それはお前がギルド長だということを公表しろと言っているのと同じことです。お父様は一体何をお考えなのでしょう。
「お嬢様、準備は整っております。」
「お嬢様。えっと……塔のダンジョンって実例がないんです。お役にたてるかわかりませんが………その………僕頑張ります!!」
「お嬢様お嬢様!これは消しても構わないんだよねー♪」
「よっしゃ!腕がなるぜ」
「……………」
「私、最近新しい魔法を習得しまして…………試すのが楽しみですわ」
私がそのことを告げると…………みんなついてくる気満々です。護衛のワタル、マリカ、トウヤはまだ分かりますが………普段戦いに関係の無いシュウまでもがやる気に満ち溢れておりました。
「お嬢様、最近溜息ばかりついておりますね。これが終わったら、パーティの準備に専念しましょうか。」
…………誰のせいですか誰の。ふぅ、でもまあそれもいいかもしれませんね。休みがなかったもの。
「あ、お嬢様ー!見えてきました!!巣窟の間です!!」
アイサの弾む声にみんな武器をもち、戦闘態勢に入ります。……顔が笑っているのが恐ろしいですね。
「では、これより魔物及び魔獣の駆除を行います。マリカ、最初はお願いしますね」
さあ、いよいよダンジョン攻略のはじまりです。