ダンジョンができましたわ
キュリオス様とリートゥ様が帰られ、一週間が経ちました。そろそろパーティの準備を本格的にしなければなりません。
「さて、どう致しましょう?」
私の前にエリが様々なドレスを並べてくれてますが、なかなかこれだというのがありませんね。
「…………………却下ですね。」
エリはそれを廊下いるメイドへと渡す。
「………早くないかしら?もう少しよく見て考えた方が……」
「いいえ。こういうのは直感だとリリー様やフラー様が仰っていました。」
…………それにしてもこれは………。部屋中に並べてあるドレスを呆然と眺めました。エリは徹底的過ぎるのです。
「………直感ねぇ。………はあ。無いものを探すより自分で作っちゃった方が早そうね。」
「………………!!お嬢様!!」
……………え?私が言った不用意な発言はエリのやる気をより一層upさせてしまうのでありました。
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「大変です!ダンジョンが現れましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
部屋中のドレスをやっと片付け一息ついていた時に、その一大事は現れましたわ。
「……それはどこに?」
「み、南に4キロ……我がアレストと王都の道の近くにある森でございます。」
………最悪の場所ね。
「規模は?」
「わ、分かりません!ダンジョンと思われる塔は上空10,000m以上でとてつもなく、また周りにはAランクの魔物達が続出しておりますので、騎士団も下手に動けない状況なのです。」
………騎士団がいるのですか。これは少し面倒くさそうね。先をこされてしまいました。
「分かりました。ギルド長の名のもとに許可なしの立ち入りはすべて禁止にし、それに背くものはたとえ王族であっても厳重に罰することを伝えなさい。」
「は、はい!」
「あと、戦闘長を呼んで「もう来てるぜー」くる必要はないわ。以上」
慌ただしく出ていく連絡係と入れ替わりにマリカ、ワタル、トウヤの戦闘長三人組が入ってきました。
「貴方たちから兵士達の日頃の訓練の成果は聞いております。その中からダンジョン捜索及び消滅へ推薦するものはいますか?」
「いないなぁ。」
「…いない」
「いませんわね。今連れていったところで死ぬのがオチでしょう。せっかくここまで育てたのに死なせてしまうのはおしいですわ。」
マリカに賛成です。
「推薦っていうなら俺だな。ダンジョンとか腕がなるな。」
「…俺らしかいないだろう。」
「ですわね。騎士団の連中が先に来てるらしいですが、あの方々程度だと足止めにもならないでしょう。」
目がギラギラの三人。………大した戦闘狂たちですこと。
「待ちなさい。騎士団が先に動いている以上、あまり勝手に動くことは許されません。ギルド長の名のもとで許可なしの立ち入りは禁じていますから、貴方たちはまず兵士と冒険者に大量発生した魔物の駆除を依頼して。あとの判断はお父様に任せます。」
「「「はい!」」」
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さて、ギルド長を任せている娘のアルーシャから至急の連絡が入った。ダンジョンが出現したのだという。
ダンジョンというのは普通3つの種類に分かれている。一つは急激に力をつけすぎた魔物が魔獣となりダンジョンを創るというもの。ダンジョン内の規模は小さいが、少々手強い。魔獣は魔物より力が大きく知恵も持つため、ダンジョン内の魔物は統率がとれるようになる。二つ目は中々力がある魔物が何匹か集まり、ダンジョンを創りだすというもの。ダンジョン内の規模は大きくなるが、これについては驚異はない。魔物というのは頭が弱く、何匹集まろうが所詮は烏合の衆。簡単に散らせる。そして三つ目は………これが一番驚異中の驚異なのだが…………魔王自ら作り出したというもの。これについては最悪中の最悪と言っておこう。統率もとれ、ダンジョンの規模も大きく、魔物の強さが上の二つと格段に違う。
ダンジョンは普通は洞窟といったものとして現れる。そしてそのダンジョンを作った源を壊せばダンジョンは消える。しかし、塔のダンジョンとは歴代のギルド長も経験したことのない代物だな。
私はアルーシャから連絡を受ける三日前にいち早くそれを知った。そして騎士団長にそれを伝えたのだ。それからの騎士団の動きは速く、恐らくその動きからアルーシャへと知らせがいったのだろうと思われる。
………ん?
娘より先に騎士団長になぜ伝えた?
娘は嫌がっていたぞ?
ふむ。そんなことは知っておる。騎士団とギルドは目的が違うのでな、ダンジョン時にはぶつかる事が多い。
……ん?
何を企んでおる?
おおっ!何か企んでおるように見えるか!?そうかそうか。では、お前さんにだけ教えてやろう。
………………内緒に決まっておろう!ワハハハ!さてさて、どんな展開になるのか楽しみだな。
そして私はアルーシャにある命令をして席を立ち、王宮へと向かった。
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お父様から返信が来ました。思っていたよりも速かったので、お父様の耳にも既に入っていたのだと思います。だけど、それに書かれていたことは私を驚かせるばかりでした。
「…お嬢様。準備が整いました。」
…とにかくあとのことは移動中にでも考えましょうか。
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私は、騎士団団長でシャンボルト家の当主、シューベル・シャンボルトだ。我が生涯のライバルでもあるルドルフからダンジョンが出現したと知らさせ、わしは真っ先に騎士団を連れてダンジョンへと向かった。ライバルでもあるルドルフはギルド長の責務をほっぽり出して何もせず家へ篭っておる。あんな奴を今までライバルと思っていたのかと情けなくなる。そして早くダンジョンを消滅させ、ルドルフの腑抜けを直そうと意気込んでいたのだが……
「団長!!Sランクのグリゴリーが現れました!突破できません!」
「団長!!怪我人が!」
「団長ご指示を!」
我々はダンジョンにすら入れていないのだ。だがおかしい。グレゴリーは寒いところを好む習性があるはず。このあたりに生息したいたとは初耳だが…。
「団長!!」
だがしかし、それよりも……だ。
「お前らSランクごときで足止めをくらっていてどうするのだ!もうよい!私のあとに続け!帰ったら鍛え直してやる!この腑抜け共が!!」
「お待ちください。」
前線で戦おうと意気揚々と剣を取る私を制したのは、突然現れたフードを被る女である。後ろに護衛を6人従えた若き女は言葉を続ける。
「このダンジョンに立ち入ることはギルド長の名の元において禁じられているはずです。」
「はっ!ギルド長?我先へと逃げよった腰抜けのことか?ここにおらぬのがその証拠。そんな奴よりも我々騎士団には国民の安全を守る義務がある!そんなのに従っている暇などない!」
すると女はクスクスと笑い始めた。
「ご冗談を。ギルド長ならここへと参ってるではございませんか。」
「どこにギルド長がいるというのか!?冗談を言うのもほどほどにしたまえ!名を名乗れ女!」
すると女は
「それは失礼いたしました。シューベル騎士団団長様。」
と、被っていたフードを下ろす。俺はその顔を見て驚愕した。その子はここにいるはずの無い……もしくはいるべき人ではないという人物だったからだ。藍色の髪に銀色の目、そしてどこか我がライバルとフラー殿の面影を残す顔立ち。そうこの子は…………
「なっ!?なぜ君がここにいるのかね!?アルーシャ!」
二人の愛娘であり、今は謹慎中のアルーシャ・シャーロット令嬢その人だったのだ。
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騎士団団長でシャンボルト家の当主であられるシューベル・シャンボルト様はお父様のご友人であられます。剣の達人と言われているお父様とよく手合わせをしていたとお聞きました。なので、幼少の頃からシューベル様とは顔見知りでした。
「お久しぶりでございます。叔父様。」
その叔父様は酷く混乱されているようです。お父様から聞いておられないのでしょうか?
「ア、アル!ルドからお前はシャーロット家領地のどこか辺境の地で謹慎させていると聞いていたのだが………」
「はい。させられていました。辺境の地アレスタで。」
「…………あいつめ!また私に適当なことを教えよったな!アレスタが辺境の地など!!」
「いいえ。アレスタは辺境の地でございましたわ。私がアレスタへと行くまでは。」
私の言葉にきょとんとなさる叔父様。
「お嬢。無駄話はそれくらいにしとかねぇと、時間が来ちまう。」
隣のワタルが私を急かします。早く暴れたいようです。後ろにいるみんなもうずうずしております。私は溜息をついて
「………では、私が騎士団団長殿にご説明している間、塔の周りの魔物や魔獣を駆除しておきなさい。」
と言うと、エリ以外のみんな音もたてずその場から立ち去りました。………ハメを外しすぎないといいのですが……。
「なっ!?たった5人だけでSランクは無理です!!」
「心配ご無用です。ここからはギルドの管轄。騎士団はどうか国民の安全だけを考えて、王都へお戻り下さい。」
「……残念だがそれは無理な相談だ。なぜ君がここにいるのか分からないが、君こそ帰りなさい。ギルド長のルドルフ・シャーロットがこの場にいない限り、ギルドが我々に命令することなど叶わんのだよ」
「いやですわ叔父様。先程から言っているじゃありませんか。ギルド長はここにいますわ。」
エリが私にある紙切れを手渡し、私はそれを叔父様に渡した。
「私がギルド長本人、アルーシャ・シャーロットでございますわ」
「なっ!?ななな、ななな!?!?!?」
周りは騒然とし、叔父様は私と紙切れを交互に見て信じられないとばかりに叫ばれました。
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アルから渡された紙は、ギルド長委任の証明書だった。確かにそこにはアル本人の名前と前ギルド長のアルの名前が書かれてある。
「…………お、お前が………ギルド長!?そんな馬鹿なことが………」
私は衝撃を受けすぎて頭が追いついてきてきなかった。だから気づかなかったのだろう。一匹のビックベアー(SSランク)が飛び出してきたのだ。
「………『・・・』」
その場にいる私を含めた騎士団が呆然とする中、アルは冷静そのもので魔法呪文を唱えたかと思うと、ビックベアーが怯んだスキを見て、自分より三倍以上の巨体を持つビックベアーを剣で首をはねた。そこまでの動き…無駄がなかった。私でも見惚れてしまうほどの綺麗な動きだった。
「お嬢様ー!エリー!こっちは終わったわよー!早くしないと扉が閉じかけてるー!はーやーくー!」
アルの護衛5人の内の一人の声が森から聞こえた。それはさらに私を驚かせた。最初に言っておくが、わが騎士団は弱いということは無い。王国一強き者共が集まっておる組織だ。その騎士団であっても切り抜けられなかったことを……………。
「叔父様。ここはギルドにお任せ下さい。では失礼しますわ」
剣からほとんどついていないビックベアーの血を拭き取ったアルは、月日がたっても変わらぬ無邪気な笑顔を私に向け、塔へと歩き出した。