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お客様がお帰りです

さて、キュリオス様とリートゥ様がお帰りになる日が近づいて参りました。ふぅ、色々ありましたわね。今日は滞在する最後の夜ということで、揃って食事をすることになりました。今日の分の仕事を早めに終わらせて準備をいたしましょうか。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「うわぁぁぁーーー!!!」


メイドたちが持ってくる料理に興味津々なリートゥ。運ばれてくる度に感嘆の声を上げた。運ばれてくる料理は商業ギルドしか販売されないものばかりで、リートゥほどでないにしても心は踊る。


「お姉様!これは何でございますか?」


「それはカレーというものです。」


かれえ?確かエリザ様が辛いと言われて食べられなかったものだ。リートゥにはとてもじゃないが………。


「…………美味しいです!!」


え!?


「よかった。リートゥが食べたいと言っていたからこの日のために辛さを控えめにしたの。これまだギルドでは出してないからリートゥが甘口カレー第一号ね。」


「本当ですか!?嬉しいです!!」


「…………?………キュリオス様、お口に合いませんでしたか?」


……………俺はおそらくアホ面をしていただろう。


「いや、アルーシャの敏腕ぶりに驚かされていただけだ。この休暇はとても意義があるものだった。感謝する。」


「お役に立ててよかったですわ。どうぞ学園でキュリオス様のその優秀さが発揮されることをお祈りしております。」


その言葉は俺の心に刺さった。


「……………あ…………ああ。」


それからは黙々と食べ続けた。美味しいはずの食事は味がしなかった。


「……………アルーシャ」


リートゥが部屋へと戻り俺はアルーシャとテラスで二人立っていた。


「キュリオス様。」


恭しくお辞儀をする姿がやけによそよそしい。


「………………………」


いざ声をかけてはみたが、何を言ったらいいか分からず沈黙が流れる。


「……………そういえばお礼を言いそびれておりましたね。」


そんな俺を察してかアルーシャが口を開ける。


「………お礼?」


お礼を言わねばならないのはこちらであり、お礼を言われることはしていない。


「はい。グリアム様がお訪ねになられた時、フォローをして下さったと従業員が申しておりました。お客様であるキュリオス様にそのようなことをさせてしまい申し訳ないと同時に、また大変感謝しております。」


深々とお辞儀をするアルーシャ。


「い、いや!そんなこと………元はといえばこちらが言い出したこと。頭を上げてください。…………それに謝るのはこちらの方だ。」


「?」


「今までの貴方への非礼や無礼、誠に申し訳なかった!許してくれとは言わん。一生かけて償おうと思う。そしていつかまた貴方に………アルにお兄様と呼ばれるに相応しい高貴な者へとなってみせます。」


深々とお辞儀をする。初めての経験だった。相手に感謝を伝えたのも、自分がしたことを後悔するのも、反省するしたことも、相手に謝罪をしたことも。


「…………お顔をお上げください、キュリオス様。」


アルーシャの声にゆっくりと顔を上げる。アルーシャは微笑んでいた。そして思いっきり俺の頬を叩いた。乾いた音が響く。


「私はあの学園でのことについて、あなた様を恨んでなどおりません。怒りはありましたが、これですべてなしとしましょう。これからも我がシャーロット家と良き関係を築いていってくださいまし。お兄様。」


叩かれた頬に熱を帯び、突然のことに頭が追いつかなかったが、優しく微笑むアルーシャに俺は嗚咽をもらしていた。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



目の前で涙を流されるキュリオス様にこの方は何日も悩み続けたのだろうと思いました。この方がされたことは、シャーロット家の恩恵を受けている自分の家を捨てたことと同じこと。キュリオス様自身その時はそんなこと考えてはおられなかったのでしょうが。ただグリアム様への忠誠とエリザ様への好意があってこそだったのだと思います。それが全部崩れてしまい、悩み苦しんだことでしょう。


「………す…………すまな…………い………なんでもないのだ。私は………弱いな………」


慌てて泣き顔を隠すようにそっぽを向かれました。こんなにも反省されている方にこれ以上何も言えないでしょう。私はキュリオスお兄様を抱きしめました。


「キュリオス様は弱くなどございません。人は自分の愚かさに気付いた時、初めて一人前になれるのだと聞いたことがありますわ。これからも次期キャンベル家当主として切磋琢磨して頑張って下さい。」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



綺麗な藍色の髪に、優しくも厳しい二つの美しい銀色の瞳で見守るその姿、大切な人のためならたとえ自分の評判が落ちようが守り抜くその姿勢、そして暖かく包んでくれるこの笑顔。愚かな者に許しを与える姿はまるで聖女様のようだ。


俺はその時思った。聖女にも守る人が必要なのだと。それだったら俺がこの人を守っていこうと。強くも優しく、儚げなこの人を。



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