お客様の見学会3
そしてそれから早く二週間が経とうとします。あれから何故かリートゥだけでなくキュリオス様までずっと執務室に留まり続けました。何事も吸収しようという心意気は素晴らしいものだと思うのですが……変わりすぎではございませんか!?私本当に怖いです。これは本当にバグータ様への言い訳を…………。
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そしてそれから早く二週間が経とうとする。あれから俺は必死にアルーシャから吸収できるものは吸収するように心がけた。6歳も年下のリートゥと張り合ってしまったこともあるが、それは今では少々恥ずかしい。
そして俺は今、
「わー!ここがアレスタ。初めてきました!」
「はしゃぎすぎて迷子になるなよ、エリザ。」
グリアム様方と一緒にアレスタを観光している。
「アーベル様は今日も来れないのですか?」
エリザ様が問う。
「ええ。腑抜けを鍛え直されるらしいですよ。あれ以上強くなってどうされるおつもりなんでしょう。」
グリアム様の側近のアラム・リュート様が答える。
「まあ。」
いつも以上に可愛らしく着こなすエリザ様を見つめていると、
「エリザ!見ろ!」
グリアム様が空を指さした。そこには季節外れの桜がひらひらと空の何も無いところから落ちてきていた。周りの人々がそれらしい歓声を上げた。
「まあ!桜が!!……………あら?」
エリザ様が花びらを手に載せようとしたが、花びらは手をするりと抜けて下へ落ちていく。
「………………幻術か。しかも子供だましだな。正直がっかりだ。」
「まあまあ、グリアム様。せっかく頑張っているのですから。」
『がっかり』『せっかく頑張っている』お二人のお言葉には何一つ喜の感情はなかった。周りを見ると必死で花びらを出している魔術学校の生徒達の姿が見えた。彼らは今、このお二人のために頑張っているはずなのに。お二人はそれをもうすでに見ようともなされない。
「………キュリオス?どうした?」
立ち止まった私に声をかけるグリアム様。
「いえ、なんでもございません」
あぁ。俺は今まで何を見てきたのだろうか。
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私はその光景を上から見ていて溜息をついていた。
「どうされました?」
リートゥのお世話係となったエリの代わりに私の紅茶を入れてくれるアイサ。
「………いえ、これが未来の国王なのかと考えると……。」
あぁ。ほらもう花のことなんて見てないあの2人。
「…………消します?」
私はアイサの言葉に紅茶を吹き出しそうになるのを堪らえる。
「消しません。人をそう簡単に消すとか言うものではないのよ。」
この子は元殺し屋。それなりに腕があったようですが、足を負傷してからは引退しました。日常的な運動は問題ないのですが、殺し屋としては到底致命傷なわけで。自暴自棄になって殺されようとし襲いかかってきたところを拾いました。………ん?いえ、私ではございませんよ?襲いかかられたのはトウヤであり、私にはそんな力はとてもとても。私はあくまでも公爵令嬢ですから。
「……ですがお嬢様。グリアム様は王族の権威を振りかざし、我が商業ギルドで好き勝手し放題。お嬢様にされた行為といい、王族管轄外のギルドでの権力行使といい万死に値します。」
「アイサ。口を慎みなさい。どこで誰が聞いてるとも分からないのよ。でも今のところいい宣伝には使わせてもらってるわね。どんな無茶ぶりにもちゃんと応えられる器量がうちにはありますってね。だけどそれももう潮時かしら?」
「そのようなお考えが合ったとは失礼しました。」
ニコッと笑うと、二ヤっと返すアイサ。
「し、失礼します!あの、グリアム様が………」
慌しく入ってきたのは入ったばかりの執事。
「なんですか!?アルーシャ様がやっとおやすみになられているというときに!」
アイサがきっとにらむ。アイサの機嫌が悪いのは………こんな時に慌ててくるんだもの。これは確実に…………
「も、申し訳ありません。し、至急だと……。グリアム様とそのお付きの方が値段を半額にしろと……。」
…………言ったそばから来たわね。
「丁重にお断りして頂戴。いくら王族でもここは王族管轄外。好き勝手させません。」
「は、はい!!」
ばたばたと出ていく執事を見てふうとため息をつく。
「貴方の懸念したとおりになったわね」
「はい。やはり消しときましょうか?」
「………やめて頂戴」
……頭が痛くなってきたわ。
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この騒ぎのことの始まりはエリザ様の一言から起こった。
「これもう少し安くならないかな」
そこからグリアム様はギルド員に「半額で買ってやっても良い」「エリザは次期王妃だぞ!」「エリザは会員になるのも順番を待ってやってる!」など喚き散らされた。いつもの光景。だけどいつもは感じるのことのない心境は、俺に居心地が悪いように感じさせる。
「申し訳ありません。ギルドではそのようなサービスは行っておりません」
ここの責任者が出てきて深々とお辞儀をする。確か………ミーシャとかいったか。見学中によく相手してくれた女だ。
「なんだと!?俺はこの国の国王になるのだぞ!エリザは王妃。お前の態度はなんだ!無礼な!」
そのお姿が以前の俺と被った。
「まことに申し訳ありませんグリアム様。」
ミーシャは深々とお辞儀をしたまま謝罪した。
「黙れ!お前じゃ話にならん!ギルド長を呼べ!お前などクビにしてやる!!」
憤慨した様子のグリアム様。
「………エリザ様。あちらはこの間欲しがられていたものでは?」
「まあ!!グリアム様!!ご覧になって!!」
俺の口からいつの間にかそんな言葉が出ていた。いつもであれば俺は迷いなくグリアム様側に立つ。ほかの奴らも実際に今そうしている。それが正しいと思っていたし、エリザ様のお役に立っているという達成感もあった。
「こちらギルド人気商品でございます。後残りはこれだけとなっております。」
ミーシャが丁寧に説明する。あんな騒ぎの中でも冷静に接待をする姿はすごいと素直に思った。ここの従業員はすごいやつばかりだ。どこでアルーシャは見つけてくるのだろう。
「これ欲しいわ!!私運がいいのね!ね、グリアム様」
天使のように微笑むエリザ様にみんな見とれてしまう。だが………俺は…………。
「さすがはキュリオス。お前よく覚えていたな。」
「………次期王となられる方が愛されるお方ですので」
いつもなら誇らしいはずのグリアム様のお言葉は俺の心を揺れ動かすのだった。
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「ええっ!?キュリオス様が!?」
「ええ。やはりギルド見学がいい刺激となったのかしら?」
なにやらメイドたちが騒がしいわね。
「お姉様?」
隣でリートゥがこてんと可愛らしく首を傾げた。
「ん?何でもないのよ。それでどこまで話したのだっけ?」
「お姉様がびにいるはうすという物を商業ギルドで売り出したというところまでです!」
リートゥは私の話を目をキラキラさせて聞いてくれます。すごい、さすがお姉様と尊敬の眼差しで見られると背中がむずむずしてしまうのと同時に、これは私が考えたのではないのだけれどと苦笑してしまいます。
「………お姉様?お姉様は…………その……ご結婚はなさらないのですか?」
思わず吹き出してしまいそうになりました。
「…………そうですわね。お父様からしろと言われたらその方と結婚するのでしょうけど。」
するとしょんぼりなされました。わ、私何かいらぬことを…………はっ!?そういえばリートゥは私が発案した本の1つ、「勇者様の冒険物語」の大ファンでございました。そこのヒロインは勇者様と身分違いの恋をするというもの。これは…………つまり………子供の夢を壊してしまったというものでしょうか!?私というものがなんということをっ!
「で、でも、その前に白馬の王子様でも現れて下されば私も永遠の愛を誓え、幸せへと導かれるというものですわね。」
…………わ、我ながら…………恥ずかしいことを言いましたわ。前世の記憶と合わせると私の歳は……にじゅ………いいえ!そんなことは考えませんわ。私は今十七です。そうですわ!前世など関係ありませんもの。
「そうですか!」
私の複雑な内面とは反対に笑顔になるリートゥ。本当に可愛らしいこと。私のショックなど些細なことですわ。
「お姉様!僕頑張りますね!」
「………?ええ。応援してますわよ。」
何をどう頑張るのかよく分からない私でしたが、そう答えるとリートゥの可愛らしい笑顔にまっいいかと思えるのでした。