客人達の見学会
まずは案内役をエリに頼み、1階へ降りてギルドを見てもらいました。エリと一緒に部屋を出る時、
「お姉様は一緒じゃないの?」
とさみしそうに言うリートゥがとても愛らしかったです。リートゥがギルド見学をしている間、私はたった今届いた手紙を開ける。
「……………………お嬢。顔が引きつってるって。」
…………これはひきつりたくもなります。
「…………公務をかまけているキュリオス様にここでの仕事を見せて欲しいと頼まれました。」
「ああやっぱりね。その噂茶会でも持ち切りだったわ。」
通常モードでお怒り爆発のお母様。
「色恋に現を抜かすどころか、あれはキャンベル家の恥ね。あれはシャーロット家に災いをもたらしそうだわ。今のうちに切っておきましょうか。」
なんとも物騒なことを言うおばあ様でございます。
「……いえ。これはキュリオス様にとって最後の砦だそうです。この休日以後、自分の行いを改めない場合リートゥを当主にすると書かれています」
あとは、息子の非礼についての謝罪が書かれております。
「…………ふぅ、なんだか嫌な気分。お義理母様、買い物に出かけません?」
「あらそれはいいわね。アルーシャいってまいります。」
その場の雰囲気をガラリと変え、行ってしまわれたお二人。
「ふう。大変なことになったわ。それでワタルはどうしたの?」
なにか報告があって部屋から出ていかず待っていたのだろう。ワタルは渋い顔をして、
「今みたいなことがあってちょっと言いずらいんだけど……お嬢。ギルド会員についてなんだ。王族の1人が催促していて、もちろん順番ってお断りしたんだが、それが…………」
「グリアム様なのね。」
「ああ。それで、どうする?お断りしようか?」
恐らくエリザ様のための催促だろう。
「別に構わないわ。順番が来たら会員にさせて。」
のほほーんとした顔のエリザ様とそれをうっとりと見つめるグリアム様の顔が思い浮かび、ため息一つ。
「………お嬢、なんか思ったよりさばさばしてんな。いらつかないのか?」
ワタルの問いに微笑む。
「そんなわけないでしょ。聖人君子じゃないんだから。確かに私はあの場で自分がした行動を後悔したことはないわよ。でもね、あの場でされたことに関しては別よ。腹が煮えくり返ってしょうがないわ。でも、今はギルド長だから利益を優先させなきゃね。ただそれだけよ。」
☆☆☆☆☆☆☆
自分の部屋に案内され、俺はベッドに寝転んだ。あぁ、休暇はグリアム様方と一緒にスキーへ行ったり、映画を見に行ったりと予定が詰まっていた。なのにお父様の一言で楽しい休暇が最低の休暇となった。だけど、休暇の最後の週にグリアム様方がここを訪れるようだ。エリザ様に会えるかと思うと胸が高まる。
「……すみません。この雛鳥をあそこにある木箱に入れていただいてもよろしいですか?」
最初にかけられた言葉。なぜ俺がそんなことを……というその言葉は口からでる事は無かった。その時のエリザ様はまさに天使。俺はその微笑みとお優しさに今まで惹かれてきたのだ。だから許すことなどできなかった。あの女、アルーシャ。どこまでも卑劣な女だと思った。こんなのがシャーロット家のご令嬢だなんて、不似合いにも程がある。この女は罰されて当然なのだとそう確信していた。していたのだが、
「お前はなんてことしてくれたんだ!」
呼び出された父から発された言葉はそれだった。
「お前のせいで私の首は薄皮1枚だ! 今はルド殿のお情けのおかげで繋がっているが、このままではキャンベル家の存亡の危機だ!」
「で、ですが父上!! 私は私の信念を突き通したまで……」
「信念!? じゃあ聞くがお前の信念とはなんだ?」
「私の信念はこの家の当主として……」
「当主? 休暇には帰ってこない、当主の仕事を何一つこなしていないお前が当主? はっ! 笑わせるな!! もういい。お前、アルーシャ様のところへ休暇中お邪魔し、学ばせてもらえ。異論は許さん。今すぐ行け。リートゥも一緒に行きたいそうだから一緒にな。」
そう言われてきてみれば、学ぶこと?アルーシャから?この俺が?最初はこの休暇をだらだらと過ごす予定だった。幸運にもここはアレスタ。楽しいものは沢山ある。だが、俺は知ることとなった。俺がここによこされた意味を。
アルーシャと会い、適当に挨拶をして部屋を用意させた。だが、中々付いてこないリートゥに俺はいつものように怒鳴った。だが、リートゥは目をきらきらさせて、アルーシャに聞いた。
「あ、あの! アルーシャお姉様はいつもどこで寝ておられるのですか? 僕……あ、私お姉様にギルド長のことや商業ギルドのお話について聞きとうございます。なので、お姉様と同じ建物にいとうございます!」
俺は耳を疑った。だが、そのあとおばあ様がこいつはあの商業ギルドを立ち上げたギルド長なのだと言い、俺は驚愕した。父上が俺に学んでこいというのはこういうことか。そしてそのことをリートゥが知っていたということそれは……………
俺は慌ててその考えを頭から振り払ったが不安をぬぐい去ることは出来なかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
…………なんとまあ驚いたことでしょう。私が何故こんなに驚いているのかというと、リートゥがギルド見学をしにでかけて30分経ったとき、キュリオス様が私に学ばせて欲しいと仰られた。この人はあれから考えたのだろう、ご自分が知らない情報をリートゥが知っていたという意味を。
「………分かりました。しかし、私もこの通り忙しい身でありますので、アイサに案内を任せようと思います。アイサ、頼みました」
「かしこまりました」
私のこの頼みましたは、もちろんお願いしますよではなく、『余計なことをしないようにちゃんと見張っててね』という意味です。いらぬ部屋に入って、商品を盗まれてしまえば馬鹿なことこの上ないですから。
「失礼いたします。」
ふう。さて、私はこの仕事を終わらせなければ。
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「お姉様、ただいまです!」
「おかえりリートゥ。楽しかった?」
「はい! 僕冒険者というものになってみたいです!!」
「う、うーん。それは……バクータ様の反応しだいですわね。」
…………これはバクータ様、策士策に溺れるというやつですね。
「お姉様!! 今度はどちらへ?」
目をキラキラさせたリートゥ。んーそうねー。
「んー、じゃあリートゥは何が聞きたくてここに来たの?」
商業ギルドについて聞きたいというところでしょうか?さすがに商業ギルド内を見せることは出来ませんが……。んーそう言われたらどうしましょう。
「あ……………えっ…………………と…………その…………僕…………………」
…………?。俯くリートゥ。私何か言いましたか?
「ん? なんでもいいのよ? まあ、なんでもできるわけじゃないけれど。」
「……………あ………僕は…………お姉様に会いたくて…………ここに………。ごめんなさい」
嗚咽を上げて泣き出すリートゥ。
「リートゥ?どうして泣くの?」
「ぼ、僕は……………嘘つきです…………僕は……………商業ギルドが聞きたかったわけじゃないんです…………お姉様のことが聞きたかったんです…………」
「私のこと?」
………ああ!つまりは公爵令嬢の私が何故ギルドの長をして、それから商業ギルドまでも立ち上げたのかということを聞きたかったのね。
「最初からそう言えばいいのに。泣く必要はないのよ。男の子でしょ?」
ハンカチでリートゥの涙を拭く。
「それじゃあ、その話は夜にしましょうか。ね?」
「はい!」
笑顔になるリートゥ。
「じゃあ、それまでエリと一緒に………そうねお昼ご飯を食べにお店に行っておいで。お腹減ったでしょ?」
「……………お姉様は?」
「私はこの仕事が終わってからここで食べるわ」
「じゃあ、僕待ちます!!お姉様と一緒にお昼食べます!!」
にこにこと私に笑いかけるリートゥ。
「じゃあ早く終わらせるわ」
偶にはこんな日もいいかもしれない。そう思いました。