Episode1 これは罠かよ
世間はクリスマスイブだかなんだかしんねーけど妙に浮かれてやがる。
俺はそんなの正直あんま興味なんてない。だというのに、何なんだこいつらの浮かれた態度は。
これが親父が望んでいた家族の姿か。5年前に妻と死に別れて萎れていく親父の姿は、俺にとっても見るに耐え難い姿であったことは事実だが、それは俺にとったって同じこと。太陽のように明るい人が家の中から、突然いなくなったんだからしょうがない。俺なんてまだ小学生だったんだからな。
確かに俺の母ちゃんに比べたら、新しい親父の奥さんは見た目も若いし可愛い人だ、それは認めてやってもいい。
けどよ、さっきから俺の前に座って、ちらちらと視線を送ってくる女の子はいったい誰だ? こんなのが一緒だとは、俺は一言も聞いてねえし。
俺は完全にこのくそ親父にはめられたんだ。
上機嫌で俺たちのグラスに飲み物をついでまわっている今日の主役のひとり、新しい妻の様子を伺う振りをして、横からの俺の鋭い視線を自然にかわしているつもりの俺の親父。
くそっ。つまんねーこの宴に、まじめに付き合う気にもなれねえよ。自然と椅子に掛ける姿勢がだらしなく崩れていく。そんな様子に気づいてか、前の少女の片方の眉尻が、ぴくんっと一瞬持ち上がったのを見逃さなかった。やけにこの少女には、無垢な雰囲気がどことなく漂っている。
普段、俺にまとわりついてくる女たちとは、ちと性質が違うようだ。
考えようによっては、こんな雰囲気の妹ができることも悪くはないのかもしれない。可愛がってやれば「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と愛くるしく懐いてくるんだろう。
それはそれで有りかなと、俺は考えてみたりもした。
そんな思考を貪っている俺の視線が、自然と目の前の少女に注がれたままになっていたのか、徐に視線を下へと落として顔を赤らめているのが分かった。
ちっ、これから俺はこいつのお兄ちゃんになるのかよ。マジ悪くはないかもな。
「みんなグラス持って」
俺の視線が多少和らいだのを確認したのか、親父のやつが調子よく乾杯の音頭をとってやがる。
まあ、一応はささやかな結婚パーティーなのだから、乾杯くらいは付き合ってやらねえとな。
「親父、幸せになれよ。天国の母ちゃんもきっとそう願っているはずだしな」俺は心の中でだけそう親父に伝えておいた。
「瑠花ちゃん、これから僕たち親子のことをよろしくたのむね。おい、祥大も挨拶して」
おいおい、えらそーに。あんたは俺にこんなこぶが一緒だってこと、ひとことも告げずに再婚したんだぜ。卑怯だとは思わねーのかよ。
ご都合主義の親父に返事もなくやり過ごしていると、目の前の少女が先に口を開いてきた。
桜色のぷるんとした口唇が小さく動き出す。そこまでなら俺は許せたが――。
「あたし瑠花。昇華高校の2年生で17歳。今日からよろしくね」
えっ、おまえ今なんて言った?
嘘だろ、おい。そんなキラキラした笑顔振りまいてくるなよ。かったるい。
「ふんっ、おない年か、めんどくせーな」
そう返してやった。
俺のビジョンが一瞬にして崩れ去ったじゃねえか。
「お兄ちゃん」って愛らしくすがり付いてくる純情無垢な妹とじゃれあう姿がだな。
瑠花とやら、おまえは俺の一瞬でも湧いた貪欲をものの見事に砕き、切り刻みやがった。
中学生にしか見えねーおまえが悪いんだぜ。
これから覚悟しておけよ。これでも俺はプライドが高いほうの人間なんだよ。
俺からの予期せぬ言葉を貰ったせいか、目の前の少女の頬が不機嫌に膨らんでいったがシカトしてやった。




