Episode8 どうして……
祥大は腕時計を覗くと「これからバイトがあるんだ」と言って席を立とうとする。
あたしは晴哉くんからたくさんの質問を浴びせられ、それに答えるので精一杯だった。
うっかり珍答とかしたら家に帰ってから、おもいっきり祥大にバカにされるのが分かっていたから。慎重に言葉を選んで答えていた。
晴哉くんがあせったように、あたしに携帯の番号とメアドの交換を要求してきた。
「とりあえず晴哉おまえのを教えとけば? 彼女にも選択の権利はあるわけだし」
そんな風に祥大が助言している。助け舟のつもり? 晴哉くんは確かにイケメンだったけど、強引につっぱしりそうなタイプだったし、メールや電話攻撃されそうなのはなんとなく予想がつく感じだった。
駅までの道、あたしは有未香と、祥大は晴哉くんと並んで歩いていた。
「切符買わねーと。あれっ? もしかしてみんなプリカ? だっせ俺だけかよ切符買うのって。ちょー待ってて」
そういいながら晴哉くんは券売機のほうへ走っていった。
改札を入るとあたしだけが、有未香たちとは反対側のホームだった。祥大は有未香を送るだろうし。
「晴哉がいちばん先の駅だったよな。有未香わりい。俺バイト遅れっからこっちいくわ。晴哉、途中まで有未香のことを頼むな」
そういうと祥大は、あたしとおんなじ階段のほうに歩き出そうとしている。
「じゃあ、瑠花、また来週」
「うん、バイバイ」
晴哉くんにも手を振って祥大の後に続いた。
有未香と晴哉くんを乗せた電車は、あたしたちと反対方向へと進んでいく。こっちのホームにも電車がまもなく到着しますとアナウンスが流れた。
なのにどうしてか祥大はあたしの手を掴んで、もと来た階段のほうへと引き返そうとする。
「ちょっと、どこ連れてくのよ。電車くるじゃん、乗れなくなっちゃうよ」
無視して強引にひっぱっていく。祥大なに考えてんの? あんたバイトはどうすんの?
言葉を口にさせてもらえないほどにひっぱっていかれる。手痛いよ、祥大。
ぐいぐいと強引な祥大がやっと足を止めた場所は、さっきまで居たカフェだった。どういうこと!?
「この、季節のミルフィーユショコラフォンデュ添えってのを4つ持ち帰りで」
入口のレジ横にあるケーキのショーケースを指して祥大が注文していた。これからバイトあるくせに何してんの。だけどあたし……。
「はいっ、おまえが持てよ」
ぶっきらぼうに祥大があたしにケーキのはいった紙袋を手渡してきた。
「なんで……わかったの?」
「おまえドリンク頼むときに、ドリンクのメニュー見ずにあのケーキの写真ばっかみてただろ。バイト代はいったしおごってやるよ」
「4つも食べていいの?」
「ばーか。家族4人分だろ」
あたしの頭は祥大のおっきな手で覆われてた。
「祥大バイトは? 遅れちゃうよ」
「今日はバイト、はいってない」
「え? うそついたの」
「うそついた。晴哉必死だったし、ああでも言わねーとおまえも疲れるだろ」
祥大、あたしに優しくしちゃだめだよ。いつもみたいにムカつかせてよ。
「晴哉のやつさ、おまえのこと超可愛いってさ。ぜってー彼女にするんだって言ってたぜ。おまえはどうすんの?」
「どうしよっか。祥大どう思う? メールしたほうがいいのかな?」
祥大が決めてよ。あたしは決められないから。
「おまえがどうしたいかだろ。俺に聞かれてもわかるか」
冷たいんだね。
「じゃあ、メールしてみようかな」
そうだよね、祥大には有未香がいるし、わたしたち兄妹なんだもんね。
「メールすんの。晴哉のこと気にいったんだ」
じゃあどうすればいいのか教えてよ!
「だって……」
「俺は瑠花のこと好きだよ」
「またぁ、からかおうとして!! 兄妹としてでしょ」
「俺は瑠花が好きだ。兄妹としてじゃなく」
「だめでしょ。あたしたち戸籍上の兄妹なんだよ。だめに決まってるじゃん」
祥大が息を噴出して笑っている。なにがおかしいっての!
「おまえ本気でそう思ってんの? 俺の戸籍はおまえとは違うよ。苗字を変えただけだって。それに血縁ないんだから結婚だってできるんだぜ。知らなかったの?」
そんなの知らないし、なによその過激な発言。
祥大にこんな風に告白されて、あたしたちこれからどうなってくのかな。
有未香はあたしの大切な友達。傷つけるわけにはいかない。
どうして、あたしたち出逢ってしまったんだろう。
どうせならもっと別の出逢いかた……したかったよね。
*** PEACH SMOOTHIE * end ***