Episode6 血の繋がらない兄妹
週明けの月曜日ってあたしは嫌い。いかにも「さあまた1週間がんばって」って背中を押されているみたいで。おまけに今日は雪まで降って道は渋滞しているし、バスもいっこうに前に進まない。
つり革を確保できなかったから、止まっては進んでのこの状態はかなりきついものがあった。
やっとのことで停留所に止まった。空気が入れ替えられるだけでもだいぶ助かる。そう思っていると、あたしの腕が後方へと引っ張られて倒れそうになった。
「ちょっとお、なにすんのよお」
怒鳴りそうになった時、わたしの手はつり革を握らされていた。そしてあたしの後ろには祥大が立っていた。
「ありがと」
口が素直に礼を言っている。朝のあたしのテンションの低さがそうさせてくれたんだ。
あたしの降りる停留所の3つ手前で祥大は降りていった。
「じゃあなっ」って、ごく普通に。
あたしはこの間の祥大とのキスのせいで、自分の理性と一生懸命に戦っているというのに。
あいつときたら、そんなことまったく関係のない蚊帳の外って顔をして。
あたしたちは仮にも戸籍上は兄妹なんだよ。恋愛の対象にしちゃいけないんだよ。
祥大にとっては暇つぶしのゲームのようにしか捉えてないのかもしれないけれど、あたしの気持ちは募っていくばかりなんだって。
どうしたらいいの!
考え込んでいるうちに下車する停留所に止まった。おかげで苦痛だった車内のことは忘れていたけど。だけど……。
もうとっくに授業が始まっていてもおかしくない時間に着いたにもかかわらず、教室は休み時間のような有様だった。先生もこの雪で登校できずに自習となっているようだ。
こんなことなら、もっと時間ずらしてくればよかったかな。ついついそんな考えが頭をもたげた。
どうやらそうもいかないらしく、有未香はあたしが登校してくるのを首を長くして待っていたようだった。慌てた様子でこちらへと駆け寄ってきた。
「瑠花ぁ、やっとアポとれたんだよー。今週の金曜日に遠海の男の子を紹介するからね。絶対にかっこいい男子連れてきてって、念押ししてあるから期待してていいよ」
どうしよう……気乗りがまったくしないんだけど。男子紹介されてもあたしの心にはあいつが。
今のうちに断っといたほうがいいのかな。だけどなんていい訳すれば……。
美弥ちゃんが結婚しておない年の兄妹ができたってことは、皆には内緒にしてあること。
だから有未香にだって言えない。年頃の男の子と一緒に暮らしてるってのがバレたら。ここは女子高なんだもん。えらい騒ぎになっちゃうよ。うわさの対象にはされたくはない、絶対に。
「瑠花? どうしたぁ? どんなイケメンがくるか想像してたぁ? うふふ。それはそうと聞いてくれる?」
有未香が空をみて反応の薄いあたしを促すように腕をゆさぶってくる。
「あたしね、彼氏ときのうキスしたんだ。初キスだよ」
思い出したのか有未香の頬がほんのり桜色に変化していった。
キス……。あたしもキスしたよ、祥大と。
喉元まででかかった言葉を噛み殺して、口をきつく結んでいった。
そうなんだ……これは人には言えない恋なんだ。わたしと祥大は兄妹だもの。
「有未香たちラブラブだね。あたしも負けてらんないよ。遠海のイケメンって、どんなルックスしてるのかな。ルチアのRIKUみたいだったらいいのになあ」
そうだよ。新しい恋を探そう。どうか祥大よりずっとずっとかっこいい人でありますように。
「そういえば、瑠花ってRIKUの大ファンだったね……あたしの彼って、少しRIKUに似てるかも……」
えっ!? そんな切なそうな顔しないでよ。有未香はわたしの大切な友達。幸せを奪ったりなんかしないから心配しないで。
「だいじょうだって。それよか紹介してくれる人とあたしが付き合うことになったら、ダブルデートができるんだよ。たのしいこと考えようよ」
なかば自分に言い聞かせるようにして、有未香をなぐさめていた。