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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
SPICY APPLE PIE
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Episode9 冷たい視線と暖かい手


 やだな、くじで敗北したとはいえ、風紀委員なんてやっぱ嫌だ。

 朝早くから連日に渡り風紀委員が担当となって、校門のところで生徒たちの制服のみだれのチェックをさせられている。今日までのこととはいえ、慣れない早起きでくたびれちゃったよ。

 3学期に入ってから新しく赴任してきた秋田が、体調不良で退職した白川先生に変わって風紀を引き継ぐことになった。それからというもの、頻繁に風紀委員会は開かれるし、『服装の乱れは非行のはじまりだ』なんてスローガンのように唱え、熱血ぶりを発揮する秋田にはほとほと参ってしまう。

 あたしたち3年生は、もうすぐ卒業するんだから今さらもう関係ないでしょって言いたくなっちゃう。


「おはよう。疲れた顔してるね」

「メグおはよう」

「毎朝たいへんだったね。今日で最終でしょ。やっと明日からは普通に登校できるね。おつかれー!」

「ほんとに秋田の熱血ぶりにはまいっちゃうよ。授業中居眠りしたってしらないんだから」

「瑠花らしくないよ。もし居眠りしてたらさ、携帯鳴らしたげようか。バイブの振動であたしが起こしてあげる。スカートのポケットにいれておくといいよ」

「ありがと、メグ」

 メグは気が利いてやさしい子だ。

 明日からはまた祥大と一緒のバスで通学できる。それに今日より1時間近く寝坊だってできる。いつもの朝に戻るだけなのに、それだけなのにこの解放された気分はなに? 嬉しくってしかたがないよ。






 昨日までの早起きの癖がついしまったのか、目覚まし時計をセットしている時間より少し早めに目が覚めてしまった。そのおかげもあって、今日はバスを待つ列の前のほうに並ぶことができた。この位置なら余裕で座席をゲットすることができる。あたしより5分遅くバス停に来た祥大はあたしに親指を立てて合図を送ってから、自分は後方の列にゆうゆうと並ぶ。

 自分の席もキープしておけって合図だ。

 お望みどおりに席をキープしてあげたのに祥大ったら「タイヤの上じゃ俺の長い足がつっかかる」だの「振動がダイレクトにくる」だのと、クレームばかりつけてくる。

「気に入らないんなら立ってればいいでしょ」

「やだね」

「だったら文句ばっか言うな! もうっ、勝手なんだから」

 けどね、1週間ぶりに祥大と一緒に通学できるのはやっぱ嬉しい。バスがカーブを曲がるその遠心力にまかせて祥大へと身をゆだねてみる。そのまんま、わざと長く密着した状態を保ったりして。

 祥大には気付かれていませんように。

 あたしより3つ手前の停留所で祥大はバスを降りていった。なんだか急に右腕のあたりが肌寒く感じる。そこから少しずつ祥大の温もりが消えていくのがわかった。


 昨夜の積もった雪のせいでバスは定刻よりおよそ15分遅れ。学校前でバスから降車すると、足早に校門を目指した。校庭に向けて設置してある大時計の長針に目をやった。最悪だよ、もうすぐ予鈴がなる頃だよ。朝っぱらから走るはめになるとは。

 なんとか予鈴より先に教室にはいることができ安堵したのも束の間。あたしは皆の不可解な視線を感じて、汗ばんでるにもかかわらず、ぶるって身が縮み上がるような感覚に襲われたの。これって悪寒ってやつ?

 なんだろうね、あたし遅刻してないはずなのに。

「おはようメグ、沙紀ちゃん、明穂!」

「……」

 あれ? 返事が返ってない。

 返事がないどころか3人は視線をあたしから外し、なんでもなかったかのように雑談をし始めた。これって無視されてるってこと? なんで、どうしてだよ。3人を怒らせるようなことしたかな? まったく覚えがないんだけど。

 考えながらとりあえず自分の席に向かう。そこであたしが目にしたものに、愕然として足が自分のものじゃないみたいに動かなくなってしまう。目の前に広がる信じられない事態。

 なに、これは? いったい……。


 黒板いっぱいに殴り書きされている文字を見て、あたしは瞬時に身体から血の気がひいていくような眩暈を感じた。目の前が暗くなって、そのあとじわじわとまた黒板の字が視界一面に広がり、ひとつひとつの言葉があたしを傷つけていく。

『R.Tさんは高校生のくせに男の子と同棲しているらしい』

『毎日やってるんだって、不潔』

『風紀委員のくせして風紀乱してサイテーなやつ!!』

 好き勝手に書かれた不埒な文字が、黒板を躍るように占拠している。ご丁寧にイニシャルまで書いてあるなんて。誰がみたってあたしのことだってわかるような書き方がしてある。

 ひどい……。誰がこんなことを。


「なんなんだよ、これ!! こんな卑劣なこと誰がやったの? 名乗りでなさいよ」


 当然名乗り出る人なんていない。誰もかれもが知らん顔している。

 消せないように黒板消しはどこかに隠されていて見当たらない。

 その消せない文字を鞄から取り出したハンドタオルで一生懸命に消し、そして立ち尽くすあたしの手を取った。

「瑠花、いいから行こう」




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