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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
PEACH SMOOTHIE
5/66

Episode5 なんだってあたしは


 あれからことあるごとに、祥大はあたしの反応を楽しむようにしてからかう。本気なのか嘘なのかわからないくらい悪趣味な態度で。

「瑠花ぁ、ごめんね、なかなか遠海の男子紹介できなくって」

「別にいいけど。有未香は彼氏とうまくいってんの?」

「いってるよ。彼氏がバイト始めちゃって、時間がうまくとれなくなっちゃったんだよ。だから瑠花にもなかなか男子会わせらんなくって。バレンタインまで、もう1ヶ月きっちゃったのにほんとごめん」

 そんなにあやまんなくていいよ、有未香。あたしは……なんていうか……あの、あれっ? ……楽しみに期待していたはずの紹介なのに、あんまりうれしくない!?

 気ノリしてないかもだよ!

 脳裏に浮かぶのはあいつの顔。祥大の存在……いつの間にあたしの心のスペースを独占してるの? 祥大はからかってるだけなのに。あたしってもしかしてドM?




 家に帰ったらテーブルの上にメモ書きが置いてあった。

「瑠花、祥大くんごめんなさい。今日もお父さんと出かけるから、またピザでも取って食べててください」

 美弥ちゃーん。瑠花をひとりにしないでよ。年頃の女の子と男の子をひとつ屋根の下に、ふたりっきりにするなんて間違いが起きたって知らないよ。

 あいつにからかわれてばっかのあたしは、この状況が不安でしかたない。

 美弥ちゃんとお父さんは青春を取り戻したかのように、頻繁に外でのデートを楽しんでいる。

 ふたりとも映画が好きみたいで、映画を見てそのあと食事してのデートを繰り返している。

「なんだ。またデートか」

 いつの間にそこに立っていたのか祥大が帰ってきていた。いつもより早いご着艦だ。

「どうする? またピザにするの? さすがに飽きてきたんだけど。中華とかにしてみる?」

 いくつかある出前のメニューをたぐっていると、祥大がそれをあたしの手から抜き取って

いった。

「おまえがなんか作れば? まさか料理できないってこともないよなあ」

 またバカにしたような視線を送ってくる。帰るなり宣戦布告かよ!

 自慢じゃないけど、あたしは母ひとり子ひとりで強く生きてきたんだよ。忙しい美弥ちゃんのかわりに今までは家事やってたんだからね。

「いいよ。別に。けどあるものでしか作れないんだから文句はなしだよ」

 応戦体制にはいったあたしは、美弥ちゃんのエプロンを借りるとキッチンへと向かった。冷蔵庫を確認してみると、定番のものは結構なんでもそろっていた。これならあいつの鼻をへし折ることができる。

 そう確信したら夢中になって調理していった。



 テーブルの上には定番中の定番の肉じゃがに、ほうれん草のおひたし、鶏のささ身の間に明太子を挟んでシソの葉で巻いた焼き物と、豆腐とわかめの味噌汁を並べていった。

 ちょうどいいタイミングで3階から降りてきた祥大は、当たり前のようにしてテーブルの前に座っていた。

「やればできんじゃん」

 当然よ。何年主婦みたいなことやってきたと思ってんの。所帯じみてるようでさすがにカッコ悪くて言葉にはしなかったけど、心の中でだけ叫んでいた。

 祥大の反応が気になるよ。おいしい? それともちょっと味うすかったかな? どっちよ。

 気になって食事の味なんて感じないあたしをよそに、祥大はだまって箸を運んでいく。

 ちょっとくらいなんとか言ったらいいのに。気の利かないやつ。だからもてないんだよ。

「うまかった。ごちそーさん」

「えっ!!」

 拍子抜けして肩の力がすっかり抜け落ちてしまった。

 祥大の去った食卓で、ひとりにやにやとしながら残りのご飯をかきこんでいった。



 祥大の鼻を明かすためにと気合い入れて作りすぎたおかげで、2人分とはいえ結構な量の食器と調理器具を洗うはめになっちゃった。

 昔から作るのは好きだったけれど、後片付けは嫌いだったんだよね。だからいつも後片付けは、美弥ちゃんがやってくれていた。

 スポンジにたっぷりと洗剤を含ませて、あわあわにして食器類をやっつけていった。

 カチャカチャと悪戦苦闘していたものだから、他の物音など気に掛けてる余裕なんてなかった。なかったものだから急に背後からまわってきた腕の主が、近づいてきていたことなど知る由もなく……。

 あたしの左肩の上に祥大の顎がのっかている。そういえばなんかの雑誌でみたことがある。女性がキッチンに立ってる後ろ姿って、男の人にとって妙にそそられる姿なんだって。祥大もそうなのかな? だからつい見境なく抱きついちゃったのかな。

「おまえ思ったよりいい女だな」

 そう言うと祥大は上体を前に乗りだしてきて、いとも簡単にあたしの唇を奪っていった。

 あまりの驚きに動けなくなっていたあたしだけど、不思議と悪い気はせず、祥大にされるがままになっていた。




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