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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
CRANBERRY SODA
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Soda14(R-side)  ジグザグ


 どこがいいかな。

 どの服を着れば祥大は喜んでくれるのかな。

 鞄はどれにしよう……サンダルは?

 小学生のおでかけみたいに、あたしったらうきうきがとまんない。夜になり布団にはいっても、いっこうに眠れないままで。早く眠らなきゃ。そう思えば思うほど目は冴えてきて、ほんとやばいよ。


 枕を小脇に抱えながら暗い廊下を歩き、そっとドアを開ける。規則正しい寝息が僅かに聞こえてくる。

 眠れないあたしは、暖かい祥大の温もりが広がるベッドの中へと、こっそり忍び込んだの。どうせ眠れないんだったら、一晩中でも大好きな祥大の寝顔をみていたい。

 少しずつ暗闇に目が慣れてくることで浮かび上がる祥大の寝顔。祥大の寝顔は普段のクールな振舞いとギャップがあって意外に可愛いんだ。だからあたしは好き、祥大の寝顔が好きなの。

 そっと睫毛に指を沿わせると、ぴくぴくって瞼が痙攣を起こした。祥大起きちゃったかな? どきどきしながら確認してみると、気づかず眠り続けていた。そんな祥大をみているうち無性に笑いが込み上げてきた。こんな夜更けに悪戯している自分にも可笑しくなってきて、どうにも笑いをがまんするのが厳しくなって。声を殺して笑うと肩が大きく揺れ腹筋が攣りそうに硬直する。

 ひとりでバカなことに陥ってる間に体力を消耗したのか、知らない間に眠りに就いていたらしい。






「待って、あたしまだ乗ってないって、祥大待ってよーー!!」

 必死に声をあげて訴えるのに、祥大は知らん顔してかまわず電車に乗り込んでしまった。一緒に遠出しようって約束だったのに、あたしのことを置いてっちゃうなんて。祥大がちゃんと確認してから電車に乗ってくれないからだよ。ちゃんと手を繋いでてくれないからだよ。

 ひとりホームに残されて、目には涙が溢れてきそうになる。これから電車に乗らなきゃならない。零れそうになる涙をぐっと堪えて、ホームの白線を睨みつけていた。

 5分ほどしてから、次の電車が駅に到着した。祥大に早く追いつきたくて、開くドアを逸る気持ちで待ち、勢いよく電車へと飛び乗ったの。この電車は快速だからすぐに追いつける。座席が空いていたけど、座らずにドアの前に立っていた。

 2駅が過ぎ、あと1駅で目的の場所に着く。祥大はベンチに座り、あたしを待っていてくれてるはずだ。気持ちが先走りするせいか、電車の速度が遅く感じて苛立った。

 途中、快速の止まらない駅のホームにさしかかり、ホームに立つ祥大の姿が目に入ってきた。

「あっ、祥大、なんでそんな駅で降りちゃったんだよ。あたしは快速に乗ってんだよ。次の駅で待っててくれなきゃ、またはぐれちゃうよ」

 ドアのガラスをどんどんと叩き続けた。まわりの人たちがあたしのことを白い目でみている。痛い視線を感じながらも、もうそんなことどうだっていいやって思いに至る。

 堪えていた涙は、もうこれ以上は無理。涙腺がギブアップすると、大粒の涙の雫が頬を滑り落ちていった。こんなにも淋しい思いばかりするデートなんて、最初から望まなければよかった。心の中が後悔で一杯になってった。

 祥大の姿がどんどん遠くに小さくなっていく。涙に滲んでもう誰なんだか判別付かないよ。

 祥大がこのままどこかへいっちゃいそうで、不安で不安で堪らないよ。祥大、あたしをひとりにしちゃやだよ。

 涙が次から次へ止めどなく流れ落ちていく。

 ――――。

「どうして泣いてんだよ? 瑠花、なあ瑠花って」

 あたしの頬に温かい感触が何度も何度も往復している。なんだろう、この感触は。

 そう思いながら、意識が鮮明になっていくと、あたしの目の前には見慣れた顔があった。

 上からあたしの顔を見下ろしながら、頬をつたう涙を拭ってくれている。優しい感触は祥大の指の感触だったんだ。

 そこでようやく状況が把握できてきた。

 あたしは夢をみていたんだ。さっきまでの悲しいデートはぜんぶ夢だったんだ。

 気づくと心底ほっとして、なんでかまた涙が溢れだしてきてとまんなくなって。ベッドに横たわるあたしの顔を困惑した顔でみつめる祥大。

「今ね、あたし夢をみてたの。祥大と出かける夢だったんだけど。祥大ったらあたしを置いたまま電車に乗り込んで、あたしは追いつきたくて次の快速に乗ったのに、快速の止まらない駅で祥大は降りていて、それでまたはぐれて。なかなか祥大に追いつけないから、悲しくなってきて泣いている夢、みてたんだ」

「ばかだな。俺が瑠花を置いてくわけないだろ」

 頬を擦りながら祥大の顔が近づいてくる。そのままあたしにキスを落とした。おはようのキスにしては、少しハードなキスだった。祥大があたしを思ってくれている強い気持ちがいっぱい含また、甘酸っぱい気持ちにさせられるようなキス。クランベリーソーダをストローから口に含む時のように、しゅわっとした甘酸っぱさが心に広がるそんな感じのキス。

「いつの間におまえここに来てたんだよ。起こしてくれりゃよかったのにさ」

「祥大すっごく気持ちよさそうに眠ってたから、そうはできなかったんだよ」

 昨夜、眠る祥大にしかけた悪戯を思いだし、つい可笑しくなってきて。

「なんだよ、さっき泣いてたかと思ったら今度は笑ってんのか。何笑ってんだよ。おまえ、俺になんかしたんだろ? まさか、意識のない俺のこと犯したりしてねーだろうな」

「ばーか、そんなことあたしがするわけないでしょ。女なんだよ、祥大ったら失礼すぎ」

 ほんと失礼だよ。でもよかった。こうして冗談言いながら朝を迎えることができて。

 あの淋しいデートが夢であってくれて本当によかった。




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