Episode4 気になるあいつ
有未香の口車に乗ってあんなこと言っちゃったけど、ホントにバレンタインデーまでに好きな人できるのかな。そんな簡単なもんじゃないよね、恋って……。
友達に彼氏ができると女の子ってがんばっちゃうんだよね。急に恋愛モードがオンになってつっぱしりたくなるっていうか。乙女心は繊細なのよ。
けど、あたしには過去に前例があって、中学の時の親友に彼氏が出来たときも今回とおんなじように恋愛モードに火がついて、好きかどうかもわかんない子と付き合っちゃったんだけど、その彼にキスを迫られそうになった時に気付いたんだよ。こんな男子好きでもなんでもないって。その時は無事にファーストキスってのを固守したんだけど。あぶなかったなあ、あの時。
だから今回は学習して、おんなじ過ちを繰り返しちゃだめなんだ。
始業式は手短に終わって、有未香と駅前あたりをほっつき歩いてから家へと帰った。
「瑠花おかえりなさい。お母さんね、もう少ししたら出かけるから。夕食は悪いけど祥大くんと一緒に、ピザを取って食べててくれないかな?」
「いいけど。美弥ちゃんこんな夕方からどこに出かけるの?」
美弥ちゃんをよく観察してみるとかなりめかしこんでるし、気合がはいっている。
「あれよ。ほら。あの人とね待ち合わせしてるのよ。外で食事しようかって、昼間にメールが届いたの」
美弥ちゃんったら、少女のように照れて浮かれちゃったりして。この女も恋してるんだなあって。ああ、なんか妬けちゃう!
外がすっかり暗くなってから、玄関のドアがパタンと音を立て階段を昇ってくる足音が聞こえてきた。祥大はリビングへのドアを開けると、キッチンにいるはずの美弥ちゃんの姿を探しているようだった。
「美弥ちゃんなら出かけて居ないよ。今日はお父さんと外でデートなんだって」
「ふうん」
どうでもいいような返事をして、祥大は冷蔵庫から牛乳を取り出すと口飲みをしている。
「ちょっと、それみんなで飲むものでしょ。コップにくらい移して飲めば」
「いいだろ。俺たち家族なんだからさ」
憎ったらしい顔で笑んで、かまわずそのまま口飲みを続けている。ほんっといちいち頭にくるやつ。
祥大が部屋に向かおうとしたから、すぐに制止した。
「祥大が帰ってくるのをずっと待っててあげたんだよ。あたし、もうおなかぺこぺこなんだから。部屋に行く前にどのピザを頼むか決めてってよね」
あたしも相変わらず、祥大に対して可愛げのない口の聞き方をしている。自分でもそう思うんだけど祥大を前にすると、なんかこうムカついてくるっていうか、こんな口の聞き方しかできなくなっているんだよね。
ソファに掛けてたあたしの後ろから覆いかぶさるような威圧を感じた。祥大があたし越しに手にしてるメニューを覗き込んできたのだ。
「オレ、これな。あとポテトとフライドチキン」
あたしのすぐそばに祥大の顔があった。ふたりして振り向けば、はずみでチューしちゃうようなそんな距離に。
祥大はそれだけ言うと、さっさとリビングを出て3階にあがっていく。なんであたし、どきどきしてんだろ。あいつだよ、あの憎ったらしい祥大だよ。なんでときめいてるんだろ。自分の気持ちを完全に持て余しているみたい。なんなんだよこの気持ち……。
祥大の頼んだペパロニとポテト&チキンのセットと、あたしの照り焼きチキンのピザとシーザーサラダが届いた。店員にお金を払っている間に、祥大が2階まで持ってってくれている。
へえー、あいつもたまには役に立つ時もあるんだ。ちょっと関心してしまった。
2階に上がると祥大はリビングのソファにいた。ピザをリビングテーブルの上に広げて、もう口にほお張っているらしい。
「なんでダイニングで食べないの?」
「こっちのが座りやすいからな」
そういえばいつもだるそうに座り崩しているもんね。
「まっいいけど。なに飲む?」
「コーラ」
「祥大って、コーラ好きだよね」
グラスふたつとペットボトルごと持ってリビングへと向かう。
3人掛けのソファのほうは祥大が座っていたから、あたしは1人掛けのほうに座った。
「そっちじゃテーブル狭くて食いづらいだろ。こっち来いよ」
そう言って祥大は自分の隣に空いているスペースを手でたたいていた。
また心臓がうるさくなっていくのがわかったけど、それを悟られると祥大に子供扱いをされるのは目にみえている! だからなんでもないような顔をして、祥大の横のスペースに腰をおろした。
祥大がテレビのリモコンに手をかけようとしたから、すぐにあたしはそれを取り上げた。
なぜって、今から歌の番組があって、あたしの大大大好きな『ルチア』が出演するからだ。『ルチア』というのはビジュアル系バンドのことで、今いちばん注目浴びてるバンドなのだ。
「ルチアが出るからチャンネル替えさせない!!」
「なんだ。あんなのが好きなのか」
いいじゃない。あんたには関係ないじゃない。あたしの勝手でしょ。
ピザを八つ裂くようにして歯で喰いちぎっていった。
ルチアが紹介されて画面にアップで映し出されてきた。とたんに今までの態度とは打って変わって、あたしの目はもうハートで埋め尽くされようとしている。
「おまえのお目当てはどいつだよ?」
ピザをほお張りながら、いかにも興味ありませんって顔で画面を見ていた祥大が、あたしに質問してくる。
「ギターのRIKU。めっちゃかっこいいじゃん」
「ふうーん。おまえって趣味わりーな」
こいつーっ! どこまでもあたしに盾突くつもりなんだね。いいよ、上等じゃん。
あたしも負けじと言ってやった。
「祥大はこんな子がタイプなんじゃないの。趣味わるぅ」
画面に映っているアイドルアイドルした未伊奈を指差して言ってやった。
ソファの背もたれにどっしりと背中をもたげた祥大は、あたしの背もたれの後ろにまで腕を伸ばしてくると、まじまじとあたしの顔を凝視してきた。
ちょっとやめてよね。また心臓が……。
「おまえのほうがタイプかもな。傍でみると結構かわいい顔してるじゃん」
鼻で笑ってから、祥大は席を立った。
「後片付けたのむわ」