Bittersweet7 初めての合コンは
「家に帰って着替えたら現地集合だからね。遅れないで来てよ」
とうとう合コンの日がやってきた。
何着ていこうかな? 合コンなんて今まで参加することなかったし、どんな格好してけばいいのか、よくわかんない。
あーあ、こんなことなら、さっき幾美ちゃんにアドバイスもらっとけばよかったな。
だってね、幾美ちゃんってば合コンの達人なんだもん。
男の子たちより先に店の前で集合していたあたしたち4人は、予約の名を告げ席へと案内された。
ここはビュッフェスタイルのお店で、地元の高校生たちの合コンといえば大抵このお店が利用される。お小遣いに制限のあるあたしたちには、フリードリンク・フリーフードのこういうお店じゃないと安心して楽しめないというのも理由のひとつでもある。
「おお、来てる来てる……」
男の子たちの話し声が近づいてきた。
あたしに至っては初めての参加だから、死にそうなくらい緊張してきた。普段女の子としか接することがない女子高通い。うまく打ち解けられるだろうか心配で。
「よお、そっちも揃ってるようだね幾美ちゃん。メンツ連れてきたよ。」
幾美ちゃんと魁人くんと呼ばれる子は、合コンの仕切り役で何度も顔を合わせているせいか、仲がいいみたいだ。だからってふたりが付き合ってるとか、そういうのではないみたいなんだよね。すごく親しそうにみえるのにね。
ひととおり順番に自己紹介をしてから、魁人くんがおちゃらけキャラで場を和ませてくれていた。そのうち自然に隣り合う者同士で個々に話すようになっていったんだけど……。
「瑠花ちゃんって、どんな男がタイプ?」
唐突にそれ? 男の子ってストレートにそんな質問からはいるんだね。まあいいんだけど。
「あたしは優しい人がいいかな。それと自分だけをみてくれる人」
「やっぱそれだよなあ。どの子に聞いても優しい人ってのが、最初にでてくるんだよな。ねえ、俺って優しそうにみえない? 実際に優しいんだけど俺」
「へへへへっ」
そんなこと自分で言うか! あたしが苦笑いをしていたら、雅紀くんって子は、何を思ってかいきなりあたしの腕を掴みながら、強く訴えかけてきた。
「うそじゃないよ、ほんとなんだってば。瑠花ちゃんまったく俺のいうこと信じてないっしょ」
「そ、そんなことない。信じてるってば」
単純にもそう返しておくと彼は気が済んだようで、満足そうに頷いていた。ところがほっとしたのも束の間、今度はいきなり席を立つと、一緒に料理を取りに行こうと催促された。
初めからなんの期待もせずに、人数あわせのためにだけ参加するつもりだった合コン。お金を支払った分くらいは、元を取るつもりできたんだもんね。
よし、今からあたしは食い気に走っちゃおう。
「ほら、あっちにうまそうなのあるよ、いこっ」
またも強引に腕を掴まれ、彼の目的とする料理のある場所まで引っぱっていこうとする。
かなりのマイペースくんなんだよね、雅紀くんって子は。
そんなに引っ張ったら腕痛いんだけど、そういうことにもちゃんと気づいてよね。
「ちょっとごめんよ」
大皿の前の人を掻き分けようとしている。そこまでしなくってもいいんじゃない? 待ってれば済むことなんだし。
…………うそ!
「祥大っ」
なんで祥大がここにいるの!? 瞬間頭が真っ白になった。
「あいつ知り合い? 前の合コンの相手とか? まさか瑠花ちゃんの彼氏じゃないよね?」
雅紀くんの声など耳を掠めて流れていくだけで、あたしは祥大から目が離せないでいた。ところが……。
「あれえ、祥大くんの妹ちゃんも来てるんだあ。もしかして合コン中?」
祥大の腕にべったりと腕を絡ませながらあたしに話しかけてきたのは、この間の女の子、美鶴ちゃんだった。
祥大あの時、この子のことは相手にしないって言ってなかったっけ?
あたしは祥大の言葉にまんまと騙されていたことを自覚した。なんで嘘つくんだよ。
この女たらしのバカ祥大っ!
「おまえの言ってた合コンって今日だったの。あどうも。俺は彼氏じゃなくてこいつの兄なんですよ。こいつって跳ね返りなやつですけど根はいいやつなんで、仲良くしてやってください」
そういうとあたしにはそっけなく、美鶴ちゃんと別の場所に移動していった。
この現状にあたしは微妙に凹んでいく。いや、そうとう凹んでいった。
祥大はやっぱり、あたしなんかもうどうでもいいんだってこと、今わかった気がした。
キスまでしてきたくせに。
もういいよ、もういい。……もういいや、祥大なんて。
「びっくりしたー。あんなかっこいい奴のこと呼び捨てすっからさ、瑠花ちゃんマジで彼氏持ちだったのかって疑っちまったよ。ごめんね」
謝るのはあたしのほうだよ。一生懸命話しかけてくれてるのに、言葉がすんなりと耳に入ってこなくて。頭の中は騒がしくって、今は自分の心の声しか響かないんだよ。
どんどんおしゃべりになっていくあたしの頭の中……、祥大のことでいっぱいで。
これ以上考えてもしかたがない。現実は消せないのだから。
空元気でも、合コンを楽しんでいるふり続けなきゃ。
壁にもたれかかる美鶴ちゃんと向かい合う祥大が、壁に手をついて何か話しているみたいだ。
見なければいいのに、どうしてもふたりのことが気になってしまい視界に入れてしまう。
「ね、今度ふたりだけで会おっか。携番交換しよ」
雅紀くんは携帯を握りしめ、期待を含んだ目でそう告げてきた。
「あ、あのあたし。なんだか熱っぽくなってきたみたい。風邪かもしんない。だから今日はこれで帰ります!」
唐突に席を立ち、そんなことを言うあたしをみんなが不思議そうな顔をしてみている。幾美ちゃんが駆け寄ってきてくれて、なんとか怪しまれずに場を離れることができた。
もうどうしても耐えられなかったんだ。ここには居たくなかったの。
美鶴ちゃんとツーショットの祥大がいるこの空間に、一緒にいるのはイヤ。
場の雰囲気を壊してKYなのもわかってた。でももう限界だった。




