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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
CARAMEL MACCHIATO
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Bittersweet5 あたしの知らない祥大


 ばんばんばんっと、個室のドアにある羽目殺しのガラス窓を激しく叩きながら、数人の女の子たちの満面の笑顔が写りこんでくる。

 祥大がソファから立ち上がってその子たちのほうへと向かっていった。

 うそ? 祥大の知り合いの子たちなの?

 祥大がドアを開けると、遠慮なくずかずかと入り込んでくる女の子たち。

 みんな揃ってマイクロミニのスカートにショーパン、細い脚をして、髪の毛はクルックルとみごとなまでの縦巻きにしてある。

 上手に化粧しているけれど、たぶんあたしと変わらない年の子たち。

「祥大くんも来てたんだ。ねーえ、あたしたちもこっち混ぜてよお」

「あいつらどうする?」

「いいじゃんほっとけば。祥大くんと一緒のがたのしいって」

「その子だあれ?」

「うっそだあ。新しい彼女できたんじゃないよねー?」

「今はフリーだって聞いてたのに、やだあ」

 あたしにはできないよ。この女の子たちのように鼻にかけたアニメのように甘くて可愛らしいしゃべり方は。あまりにも人種が違いすぎてる。

 てか、祥大はいつもこういう種の女の子たちと遊んでるんだね。そんなの知らなかったよ。

 なぜだか祥大を急に遠くに感じてしまう――。

「ああ! 未来わかったって。さっき綾菜からメールきてたじゃん。この子ってあれっしょ。祥大くんの妹だよね? ねっ、祥大くんそうなんでしょ?」

 小首をかしげるようにして祥大に同意を求めている。

 あんなこともできないって。……この子たちを前にすると、まるであたしは女の子として劣っているようで凹む。それに居心地だって超悪いし、帰りたくなってきた。

 祥大はこの子たちとこのまま合流する気でいるの? やだよ……あたし。

「バレてた? そうこいつ妹なんだよ。わりい、今日んとこは退散してくれるかな? こいつさ、人見知り激しいからさ。ごめんね、また今度」

「そうなの? なんだつまんない」

「ねえ、今度絶対だよ。一緒にカラオケだからね。祥大くんあたしの携番知ってるよね? 連絡してよ。待ってっから」

「おじゃまさまー」

「またね、祥大くんっ」


 なんだったの? 今の嵐みたいな光景は。

 呆然となりフォークを握り締めたままだったあたしの手から、祥大がそっと抜き取っていった。ようやくあたしは金縛りのような状態から解き放たれたように身動きすることができた。

「賑やかだっただろ、あいつら。いっつもああなんだ。俺はまあ、慣れてっからいいけど、瑠花はびっくりしただろ? ごめんな」

 珍しく祥大が謝ってくる。

 それなのにあたしの苛立ちはどんどんつのっていくばかりだった。

「祥大ってあたしが思ってるタイプとは、まるで違うんだね」

 あたしったら何ちんぷんかんぷんなことを言っているんだろうか。不自然だとわかっていても腹が立って、虚しくて、言わずにはいられなかったの。

「だったらさ、瑠花には俺がどういうタイプに映ってるか教えて?」

 祥大はあたしの座る座面すぐ側に手をつき超接近したかと思うと、あたしの瞳孔の揺らぎを探るようにして、そんな風に質問を返してきた。

 堪らずあたしは顔を下に向けようとした。

 祥大に嫉妬心を丸出しにしているのが自分でもわかる。だから今ものすごく恥ずかしい状態にあるんだもん。

 それなのに祥大の遊んでいるもう片方の手で顎を掴まれてしまって、下へは向かせてはもらえず。

 接近していた顔が更に近づいてくると、そのまま祥大の唇がふわりと重なってきた。

 気が動転して、目を見開いたままのあたしは、祥大の瞼が閉じられているのをみて、初めてそこでこれじゃいけないんだと気付き、ぎこちなく瞼を伏せていった。瞼を閉じると余計自分じゃない唇の感触に意識がいってしまう。

 緊張しているせいで、意識とは関係のないところで睫毛が小刻みに痙攣し瞬いているのが自分でわかった。

 祥大とのセカンドキス。あたしには前よりも甘く感じるキスだった。

 ねえ祥大、あたしはあなたの心の中のどの部分に属しているの?

 このキスも祥大にとってみれば、ほんの気まぐれでしかない?


 祥大はあたしの隣に座りなおすと、何事もなかったかのようにして、リモコンチェンジャーの画面を操作し曲を検索している。

 あたしはどう反応を示していいのかもわからずに、ソファの背もたれに身体を預けたまま固まっていた。

「おまえさ、ぼやっとしてる間あったら、大量にオーダーしたんだろ。責任持って食っちまえよ」

 祥大はどうしてそんなにも平然としてられるの?

 あたしのことなんて特別視してないから?

 こんなにどきどき、どきどき、ときめいていく気持ちを一体どこへ格納しておけばいいのか、あたしに教えてよ。

 曲のイントロ部分が流れ始めた。

 心臓がきゅんと跳ねる。イントロだけでその曲が何なのか、すぐに分かった。

 隣に座る祥大の顔を見たあたしの反応に気づいたのか、こっちに顔は向けないままで、口角だけを少しあげる表情をみせている。

 マイクを斜に構えるようにして口許に近づけ歌い始めた。

 骨格が似ていると声質まで似てくるんだろうか?

 その声はRIKUにとてもよく似ていた。音を伸ばすとき少しハスキーな感じにしゃがれる声、細かく刻むようなビブラートが入る歌い方まで。

 この曲はルチアのセカンドアルバムに収録されているギタリストRIKUがソロで歌うマニアックな曲。そしてテレビでは絶対歌わない曲だ。

 間奏に入り、RUKUのギターはミュートを効かせながら激しく鳴いている。

「ルチア嫌いの祥大が、どうしてこの曲のこと知ってたの?」

 大音量に混じるあたしの声を聞きとりづらそうに目を細める祥大は、あたしのほうへと耳を近づけると、そのまま肩に腕をまわしてきた。

 間奏が終わり、ふたたび歌い始める。

 目を閉じればRIKUの声がする。

 横を向けばRIKUのような祥大の顔がすぐ傍にある。

 頭が混乱してくる。テンポのいいこの曲に合わすように心臓も跳ねていく。

「去年の文化祭で野郎どもに無理矢理この曲コピらされた」

 フェイドアウトしていくエンディングに被るようにして、ぶっきらぼうに祥大が呟いた。

 だからこんなに完璧に歌えるんだね。

 あたしの大好きなRIKUの唄を大好きな祥大が歌ってくれるなんて、夢のようだった。

 さっきまでの嫌な気分が全部吹っ飛んじゃうくらい気分が盛り返した。

 そしてまた、新たな祥大の一面をみつけることができた。

 ひとつ屋根の下だからと、他の女の子たちよりも祥大のことを知っているつもりでいたけど、すべて思い違いだと気づかされた。

 だって、まだまだ知らないことだらけなんだもの。




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