Episode2 友達に彼氏ができた
「瑠花、ヒマしてたらあそぼーよ。あたし……瑠花に話したいこともあるんだ。いつものバーガーショップで待ってるよ」
有未香から携帯に電話がはいって特にやることもなかったし、誘われるままに学校の最寄の駅前にあったバーガーショップに向かうことにした。よりによってなんで冬休みなのにわざわざ学校の近くなの? って感じだけど、有未香はあのお店のパイナップルの挟まったトロピカルバーガーが、大のお気に入りであることは知っていたから、特にもっと不便のない店にしようとも提案せずにいた。だけど、あたしはどうもあのトロピカルバーガーってのは口に合わないってか、ムリな感じ。
「トロピカルバーガーのセットで、アイスティーにしてくださいっ」
あっ、やっぱりそれね。
「あたしはジューシーバーガーセットで、アイスティーでお願いします」
窓際の席に座ると真冬とは思えないほどの太陽光が射しこんできて、暖房のきいた室内にいるとじんわりと額が汗ばんでくるような感じになる。
「ブラインドを降ろしましょうか?」
機転のきく店員さんがブラインドを降ろしてくれた。
バーガーを完食してポテトをついばんでいると、有未香が色素の薄い目で、あたしの視線をひこうとして直視してくるのが分かった。
「で、さっき電話で言ってた話たいことってのは?」
先にあたしが口火を切ってあげた。
その言葉を待っていましたとばかりに、有未香は座ったままで身体を上下に何度も弾ませて高揚しているようすだ。
「とうとう、あたし告っちゃったんだよね!」
「えーっ!! 告ったって、もしかして例の彼に?」
「そうそう、その例の彼に」
有未香の言う『例の彼』というのは、通学の電車の車内でいつもみかけるらしい遠海学園の生徒のことを指している。有未香がその彼の存在に気付いて片思いを始めてから、かれこれ1年半以上が経っている。けっこう彼女は一途さんなのだ。
「それで結果はどうだったの?」
「それがまだ聞いてないんだ。終業式の日の朝にうちらの学校よりふたつ手前の駅で、彼の後について一緒に電車を降りたんだよ。で、思い切って声かけて告ったんだけど。朝のラッシュで駅は混んでたし、赤外線でピピッとメアドと番号交換したんだよ。『また連絡する』って、それだけ言って階段降りてっちゃった」
「そうなんだ……今日でちょうど4日かあ。有未香、連絡くるまで待ってんだ。メールしちゃえばいいのに」
有未香は大きく首を横に振っている。彼女は大胆に告白はしたものの、相手に対して忠実だから、健気にも言われたとおりに彼からの連絡を待っているんだよね。
そういうタイプの子だもん、有未香は。
だけどちょっと心配だったりして。だいいちその彼は朝の電車の中で、有未香の存在に気付いていたんだろうか。そこんとこがひっかかるんだけど。
女所帯に男2匹が転がり込んできてから1週間。おごそかに新年を迎えていた。
美弥ちゃんお手製の重箱3段重ねのおせち料理をテーブルの中央に置いたら、まるで花が咲いたような鮮やかな食卓になった。
美弥ちゃんも小紋の着物で新妻らしい楚々とした雰囲気を漂わせている。あたしの母親って、こんなに可愛い人だったんだなあって、気付かせてくれたお父さんにほんのちょっと感謝している。
「はい、瑠花ちゃんお年玉。今年もいい年になるといいね」
一家の主らしく新年の挨拶を仕切ったお父さんからお年玉をもらった。このぽち袋の厚みの具合からすると5千円か1万円。新しい家族に贈る初めてのお年玉なんだから、きっと奮発しているに決まってる。はやる気持ちを抑えて着物の胸元の合わせに挟んでおいた。
祥大はというと、あいかわらずの無愛想ぶりでお礼の一言も言っていない。
こんな奴には千円で充分だよ、お父さん!
おせち料理にお雑煮に……結構おなかが膨れてくる。おせち料理に縁のなかったあたしには意外なことだった。
「なんだ。もうでかけるのか?」
たいして料理にも手をつけていない祥大はそっけなく席を立って、ソファの上に用意していたらしいダウンジャケットを羽織ると、さっさと部屋をでて行った。
昼にさしかかる頃になって、食卓から腰をあげたお父さんが初詣に行こうと提案してきた。
なにも考えずに付いてきてしまったけれど、新婚のラブラブの美弥ちゃんとお父さんに混じったのは、間違いだったって直ぐに気付かされてしまった。家でぐーたらと新春かくし芸大会でも見てればよかったって後悔だよ。
夜になって有未香からメールが届いた。
『例の彼からメールがきて、一緒に初詣行ってきたよー。それでね、めでたく付き合うことになりましたあ』
喜びいっぱいのデコメだ。
1年半の片思いに終止符を打ててよかったね、有未香!




