Episode5 俺……らしくない
俺の今回の彼女である有未香は、今まで付き合ってきた元カノ達とは違って派手さがなく、ごく普通の高校生でそんでもって従順なタイプだ。
だから俺に対して今までの女の子のように我儘な態度をとってきたりなんかしない。
俺だって人並みに女の子には優しく接している。だけど我儘が過ぎるのはよくない。
女の子って奴はどこか勘違いしているようで、我儘を男は可愛いと感じると都合よく誤解をしているようだが、そんなことはない。俺に限っては度が過ぎるとウザく感じるだけだ。
我儘が過ぎてそっけなくされて拗ねた挙句、爆弾をしかけて自滅していく女の子達。計算では俺に慰めて優しくしてもらうつもりだったはずだろうが、俺は追わないよ、そんな都合よく。
だからその先には、さよならが待っているだけなんだって。
そんな元カノ達とはタイプの違う有未香が、唯一俺にお願い事をしてきたことがある。
「あたしの親友に友達を紹介してほしいの」って。
よくある頼み事の部類ではあったが、普段は俺を気遣いたまにしか言わない頼み事なんだから、聞いてやらなきゃなって思ったんだけどさ。
俺が紹介するのって晴哉なんだけどいいのかな?
かっこいい奴がいいって、一応は注文付きだったから、一番気心が知れていて顔のいい奴っていうと晴哉になるわけで。そういえばあいつはマジカノ見つけるって言っていた。有未香の親友ならよく似たタイプの子を連れてくるんだろうから、それなら晴哉もケバ系を卒業して、マジで付き合える女の子と知り合えるチャンスだ。だったら一石二鳥ってことか。
早速、晴哉に話しを持ちかけてみると、目の色変えて喰いついてきた。やっぱりな。
バイトを終えて家に帰ると、また親父たちは留守にしていた。
瑠花が出前のメニューを何種類か持ってどれにしようか手繰って迷っているようだったから、「おまえがなんか作れば?」って鎌かけて挑発してやった。
そしたらあいつ、俺に挑戦挑むような目付きになって。すっかりその気でさ、気合入れて作り始めてやんの。
だいじょうぶなのか? 腹こわさねーだろうな。ちゃんと食えるもん作ってくれよな。
とりあえず危なっかしい姿を見るのはごめんだから、自分の部屋で待つことにした。
態度はといえば生意気だが、瑠花が俺に料理を作る気持ちになるってことは、少しは効果が出始めたのかもしれない。
俺は最近あいつに思わせぶりなことをしたりしている。例えばテーブルに向かい合わすあいつの顔をじーっと見つめてみたり。するとあいつは「なによお」って頬を膨らませていく。
「あ、今、無意識におまえにみとれてた」そう返してやると、真っ赤になって席を立っていく。こんな具合に俺はあいつの反応がいちいちおもしろくて病み付きになっていたりする。
だってさ、よく考えてみればあいつだけなんだよな。俺に対してつっかかってきたり、挑戦的な顔をしたり、可愛げのない態度とってきたりする女は。女の子はみんな俺に対して友好的なものだと思っていたから、余計にあいつのことが鼻について仕方がない。
腹の虫が騒がしくなってきたことだし、そろそろ様子でも見にいってみるか。
下に降りてくと意外とうまそうな匂いが漂っている。なんだ瑠花のやつ、予想に反して手際よく料理してたみたいだな。
テーブルの上には肉じゃがとか和食の夕飯が並んでいる。
見た目はなんとかクリアしているが、肝心な味のほうはどうなんだか。
向かい合って座り、ぱくりと肉じゃがを口に含んでみたが……うん? 結構いけてるんじゃないのか。俺の食味に合っている。そんじゃあ、このしそで巻かれた鶏はどうだ? おいおい、中から明太子がでてきたぞ。やるじゃねえか瑠花。
おまえってちゃんと料理ができるやつだったんだな。俺は今までで最大に瑠花のこと見直したぞ。
前からちらちらと瑠花の視線を感じながらも、気づかないふりして箸を進めていった。
「うまかった。ごちそーさん」
そう言うと瑠花のやつ、茶碗を持ったまま拍子抜けしたような顔をしていた。
無理もないか。俺の反応を気にしているのは分かっていたが、わざと無反応に食ってたんだもんな。
こいつってば「なによ祥大ったら、何とか言いなさいよ」なーんて頭の中を沸騰させてたんだろうな。
俺もまったく、意地の悪いことしてるな。
部屋に戻ったはいいがどうも落ち着かない。
せっかく食事を用意してくれた瑠花に対して、さすがに俺も良心の呵責を感じてきた。瑠花ひとりを残してきたダイニングのことが気になってきたんだ。
階段を降りながら、どう声をかけるべきか、俺は言葉を必死になって探っていた。
まったく俺らしくない行動をとっているなと思いながら、引き返すことも考えちゃいなかった。
食事を食べ終えた瑠花がテーブルを片付けて、シンクに向かって食器を洗っている後姿がそこにはあった。
「俺が後片付けしてやるよ」そういう言葉を準備しながら来たのに、すでに瑠花がこなしているとは。それも予想外だった。そういや瑠花って、外で働く母親の手伝いとかちゃんとしてきた女の子だったんだって、今さらながら気がついた。
こいつってば――。言いようのない感情が込み上げてきた。
どんなに綺麗に着飾って自分を美しくみせようとしている女の子より、素敵な姿を見たような気がした。
そう思うとたまらなく今こいつが愛おしくてしょうがなくなった。
半ば衝動的に行動していく俺。本能が揺り動かされていくようだ。
俺が背後に近づいていることにも気づかず、一生懸命に食器を洗っている瑠花を後ろからきゅっと抱きしめた。驚いたのか、瑠花の身体が一瞬だけ、ぴくんっと僅かに跳ねた。
肩に顎を凭せると、髪からは仄かに甘い香りが漂ってきた。
たまらなくなった俺は瑠花の顔を覗き込むようにして、桜色のぷるんとした唇を掠め取っていった。
案の定、瑠花は硬直していて、それでも普段の憎まれ口は叩けない状態にある唇を逸らすことはしなかった。
俺はこの時キスを拒まれなかったことに内心ほっとしていた。




