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おない年の兄妹  作者: 沙悠那
LIMEMINT TABLET
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Episode4 来るものは拒まず


「なあ、冬休みの間になんかおもしれーことあったか?」

「はあ? おもしれーかどうかはわかんねーけど、この2週間は波乱万丈だったな」

 3学期の始業式が終わって講堂から教室へと戻るさなか俺と晴哉は、2週間におよぶお互いの知りえない空白を探り合うような会話をしながら歩いていた。

 晴哉に至っては人のことばっかで、正月に3年ぶりに会った従姉が見違えるほど色っぽくなってて驚いただとか、妹に彼氏ができたとか。おまけに勝手な想像を膨らませて興奮ぎみに話している。それを俺は話半分に聞いていたが、なあ晴哉、おまえに浮いた話はねえのかよ。

「祥大さっき言ってた波乱万丈っての、なにがあったか俺に教えろや」

 そのまま流してくれるのかと期待していたが、晴哉のやつがわざわざ蒸し返してきた。

 だからちまちまと説明すんのもめんどくせーから、ひとまとめにして答えてやった。

「新しい家族が増えて、ついでに新しい彼女ができた。それだけ」

「それだけっておまえっ、家族に彼女ってなんだよそれ?」

 必要以上に食いついてくる晴哉に俺も観念して面倒だったが、親父が再婚したことから、終業式の日に駅で女の子に声かけられて告られたことまで晴哉に説明していった。

 だが、さすがにおない年の兄妹ができたことは言わなかった。なんでだかわからないが、瑠花のことは晴哉には話せなかったんだ。

「祥大も俺も基本は来るものは拒まずタイプだよな。だからまあ彼女を切らさないわけなんだけどさ。おまえのいない歴って今回は2ヶ月ないくらいか。俺はな、今までの俺とはちと違うんだ。次はマジカノ見つけるつもりしてっから、そう簡単に誰かと付き合ったりしねーからよ」

 ほおぅ、晴哉。おまえ男に二言はないんだな? 今の言葉しっかりと脳にインプットしたぞ。おまえがいつまで女なしでガマンできるか見物だな。



 学校が終わったらそのまますぐに向かえるバイト先はないかと、家に帰るためのバス停を通り越して、私鉄の駅までの古めかしい商店の集まる通りをなんとなく歩いていた。

 引越す以前までは、いつも通学で前を通っていたレトロな喫茶店。木組みの枠の窓にバイト募集の手書きの紙が貼り付けてあるのを見つけた。考える間もなく衝動的にドアを開けていった。ドアベルがカランコロンと懐かしい音をさせると、静まり返った店内の厨房脇にある暖簾のようなものをくぐって、初老の口ひげを携えた味のある店主が姿を現した。

「いらっしゃい。あれ、きみはもしかしてバイト募集の張り紙を見て、きてくれたのかね?」

 この店主、なかなか勘が冴えてるようだ。そりゃそうか、こんな時代遅れな感じの店に高校生がひとりで珈琲を飲みにくるはずもないんだしさ。

「遠海学園の生徒さんか。あそこは進学校だし、それに君は見た感じも清潔感があっていい。わしは直感に頼るタイプでな。君さえよければうちでウエイターをしてくれないか?」

「偶然バイト募集の張り紙を見て飛び込みできたんです。だから履歴書も用意してません。それなのにそんなに簡単に決めてしまっていいんですか?」

 即決する店主に、逆にこっちが心配している始末だ。

「履歴書は後日持ってきてくれれば、それでいいさ」

 なんか俺、このおやじさん好きだな。小さいことにこだわらず自分の感性で生きてる感じがするあたりが妙にかっこいい気がする。

「田中祥大っていいます。ここでバイトさせてください。よろしくお願いします」

 深く頭を下げると肩を軽くぽんぽんと叩かれて、頭をあげるように促し満面の笑みを向けてくれた。

 深く刻まれた皺が渋い。そう思った。




 家に着く頃にはすっかり日も暮れていて、見上げると家の2階のリビングの照明が明々と灯っている。玄関のドアを開けるといつもする夕食の香りが漂ってこない。なんでだ?

 リビングに入ると明るいはずのキッチンのあたりは暗くて、義母の姿が見当たらなかった。

「美弥ちゃんなら出かけて居ないよ。今日はお父さんと外でデートなんだって」

 ソファ越しに瑠花が俺にそう伝えてきた。

 あの親父、結婚してまでデートかよ。結婚前は俺に残業だと誤魔化してデート重ねてたくせして懲りないやつだぜ。

「ちょっと、それみんなで飲むものでしょ。コップにくらい移して飲めば」

 牛乳をラッパ飲みしてると小言を言ってくる瑠花。

 部屋に向かおうとするとピザがどうたらこうたらうるせーし、女と暮らすのって意外うざいもんなんだな。そんな思考が俺の脳裏を掠めた。

 こいつに俺のささやかな将来の甘い夢まで落胆させられそーでなんかむかつく。

 うるさい女を黙らせる為にメニューにさらっと目を通して適当に品をピックアップした。

 30分しない内に宅配が来て、こんなに食えんのかってほどの注文した品をリビングへと俺が運んでいった。

 リモコンでテレビをつけてソファに浅くかけ、ピザをひとかけ取り出し頬張っていく。精算を済ませた瑠花がようやく2階に戻ってきて、コーラを冷蔵庫から取り出してくると、俺の分もコップに注いでくれている。

 こういうところはやっぱ女の子だなって少し感心する。

 黙ってりゃこいつも見た目は可愛いんだけどな。どうも物言いが可愛くなかったりする。

 おいおい、なんでわざわざそんな狭いところに座ってんだよ。どうせドジそうなおまえのことだ。ピザ落としたり、肘でコップ倒したりして大騒ぎするんだろうが。

「そっちじゃテーブル狭くて食いづらいだろ。こっち来いよ」

 あれ、どした? またつっかかってくるのかと構えてたのに、しおらしく横にちょこんと座ってきたぜ。

 ぷっ、なんだかおまえ、微妙に硬くなってねーか?

 そういや昨晩風呂場で出くわした時のおまえって。「きゃっ」とかちっせー悲鳴あげて顔を隠してたよな。あれを今さら思い出した。

 てか瑠花ってマジ初心だよな。

 俺がそんな瑠花を可愛いなって思ったのも束の間、チャンネルを変えようとリモコンを手にしかけたら、思いっきりふんだくっていきやがった。しかもチャンネルを変えるなってムキになって怒っている。

 さっきのは撤回な! やっぱおまえは可愛げのない女だ。

 ルチアだって? RIKUって、あいつのどこがいいんだよ? まさかビジュアルじゃねえよな? 俺はあいつに似てるってしょっちゅう言われて気分が悪い。だからあいつは気に食わねーんだ。

 しらっとした態度でルチアもRIKUのこともけなしてやった。すると負けん気の強い顔をみせる瑠花が、画面を指さして萌えアイドルのことをタイプなんじゃないの? とか苦し紛れに言いながら抗戦してきた。何むきになってんだか。

 けど、けどさ、必死になって動かす桜色の唇が、やばいほど可愛くみえてくんだよな。

 これってもしかして、こいつのツボに俺ははまりかけてんじゃねえだろうな。冗談じゃない。それだけは勘弁してくれ。そんなこと、ありえねえよ。

 きっと身近にこいつが居すぎるから、錯覚に決まっている。そうだ錯覚だ。

 くそっ、俺にだってプライドが――あるんだ。

「おまえのほうがタイプかもな。傍でみると結構かわいい顔してるじゃん」

 瑠花の座るソファの背もたれのほうまで腕を伸ばして、至近距離でじっと目をみつめながらそう言ってやった。おまえは初心だから、きっとこういうシチュエーションには慣れてないはず。

 おまえが俺のツボにはまればいいんだ。そうだよ、おまえがはまればいいだろ。

 俺は来るものは拒んだりはしない。けれど、俺は追いかけたりもしない。

 あくまでもクールでありたい。それが俺の信条だからさ。




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