伍
慣れない仕事にあたふたしてるうち、客の数は一層増していく。
初めて見る私への興味の視線が痛いほどにわかる。
なるべく意識しないよう、黙々と食べ終わったお皿を片づける試練をこなしてく私に更なる試練が・・・・・。
「すみれちゃん。このお団子あちらのお客さんまで運んでくれる?」
背筋が凍った。女将さんは、団子が二つ乗った皿を渡してくる。顔は、明らかに楽しんでいる様子だ。
口角がわずかだがあがっている。
「・・・・・はい」
しかたなく皿を手に取り、無駄の無い動きで運んでいく。
「どうぞ。団子です」
そう言うと、客の前に団子の乗った皿を置く。その場から早く逃げたいので、さっさと離れようとしたが、呼び止められた。
「あんた、見ない顔だな?新入りか?」
よく見ると、客はヤクザのようだった。体格のいい男が座っている。息には、わずかに酒の匂いが混じり、頬も赤くなっていた。
(朝から酒飲みとは呑気だな)
「いえ。今まで、厨房にいたんです」
心の声を押し殺して、なるべく愛想よく言葉を返す。あまり絡みたくない奴だったので、忙しいんでと言って逃げた。
それから10分程して事件は起きた。
慣れない接客にへとへとになって、厨房へ逃げようとした時だった。
「きゃ!」
小さい悲鳴とともにドサッっと何かが倒れる音。音のした方をみると、一緒に働いている花ちゃんという子が倒れていた。
そしてその子の前には、体格のいいヤクザが立っていた。
「てめぇ、酒くらいつげねぇのかよ?」
江戸っ子特有の巻き舌気味のしゃべりでまくしたて、睨みを利かせていた。
異様な空気に周りの客も気づきだす。さっきまで和やかだった店が、一気に静まり返った。
「すっ、すみません。ここは・・・茶屋でして・・・。お、お酒は、置いてないんです」
今にも消え入りそうな声で花はヤクザに向かって言うが、そんなことは気にも留めずヤクザは当たりに大声で叫び始める。
「おい。どうなってんだよ!ここは!」
酒がだいぶまわってるようだ。大方、朝まで飲み歩いていたのだろう。ここは止めたいところだが、ヘタな真似をすれば正体がばれる。そうなれば今までの苦労は水の泡だ。
「何か言えよ!おらぁ!!」
ヤクザは、机の上にあった湯呑を持つと、中のお茶を花に振りかけようとした。
が、その時。一人の青年がヤクザの前に立ちはだかった。と同時にお茶を全身に浴びる。
淹れたてだったらしく湯気が上がる。熱いはずなのに青年は微動だにしない。
「なんだ、てめぇ?」
凄みを利かせるヤクザに見向きもせず、倒れている花の元にしゃがみこむ。
「君、大丈夫?」
そう言って花の手を取り、抱き起そうとする。よく見る、一目ぼれさせちゃうシーンと言うやつだ。
青年にその気はない感じだが、花の目は白馬の王子を見つけたお姫様の目だ。
「おい!てめぇ、無視してんじゃねぇよ!」
完全に存在無視されたことに腹を立てたヤクザは、額に青い血管を浮き上がらせ怒鳴りつけた。
だが、周りの客達は謎の王子出現に好奇の目つきだ。
「怒鳴るのもそこまでにしろよ」
青年は立ち上がり、ヤクザと面と向かい合った。なかなか、肝が据わっている。
「これ以上暴れたら、分が悪いってわかってるだろ?ここは表の通りの茶屋だ。騒ぎが起こればすぐに同心たちが駆けつけてくるぞ」
「くそっ、青二才が!!」
さすがのヤクザもこれで引くだろうと思ったら、違った。
その顔から余裕はなくなったものの、ひそかに懐に手を忍ばせていた。
(やばい。そこには短刀が!)
そう思った時には飛び出していた。
すべてがスローモーションのように流れていく。
ヤクザがが短刀を取り出すよりも、私が奴の目の前に来るのが早かった。
素早く皿の上にあった団子の串を手に取り、ヤクザの眼球すれすれに突き出す。
恐ろしいものでも見る目で私を見てくる。それもそうだ。今まで視界にすら入ってなかった少女が、いきなり目の前にいる。それに、目には今にも刺さりそうな串が突き出されてる。
動きたいにも動けない状態を作ってやった。
「それを出してみろ。お前の目が一つになるぞ?」
ヤクザにしか聞こえない声でささやく。
「ここは、吉原じゃないんだ。女に酒をつがれたかったら、他に行ってくれ。それと・・・・・」
顔を近づける。ヤクザの目が多きく見開かれた。
「今度ここに来たら、容赦しない」
それだけ言うと、串を引いた。
ヤクザは一気に酔いが冷め、顔から血の気が引いていた。
(いい気味だ)
振り返ると、青年が立っていた。
「君は・・・・・?」
私はその問いには答えず、少しだけ青年の顔見た。
そして、すぐにその場を離れた。
登場シーンがベタですね~笑




