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蓮鬽  作者: 夏月晴
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見物を終えた私は、いつものように表の通りにある茶屋に足を運んだ。


「甘味処」と書かれた看板が立てかけてある、小さな店だが、客は多い。

人気は、店一番の団子だ。それ以外にも、愛嬌のある女将さんが好きで訪れる人も多い。客のほとんどが常連さんで、そのほとんどが女将のファンといったところ。

まだ、朝が早いというのにほとんど満席だ。にぎやかな声が、店の戸口から聞こえてくる。


私は裏口に回った。


「鈴さん、おはようございます」


鈴というのは、女将さんの名前だ。中に入り声をかけると奥から女将さんが、柔らかな笑顔で出迎えてくれた。


「おはよう。すみれちゃん」


柔らかい響きを持つ声と女将さんの笑顔を見ると、不思議と心が和らぐ。ここにきて2年が経つのにまだ慣れなかった。


私は、ここで働かせてもらっている。普通、年ごろの女の子というと接客が多いのだが、頼み込んで皿洗いをさせてもらっている。接客をすれば、私が蓮鬽だとバレテしまうからだ。もちろん、女将さんにも蓮鬽だということは言っていない。

どうして、そこまでしてこっちで働いてるかというと、正直わからない。一応、世間の偵察ということで私は納得している。

茶屋といい、様々な人が集まる。だから、情報収集にはうってつけだった。狩る方は、獲物をきちんと知らなくてはいけない。といっても、今の私は狩る仕事はやっていないのだが。


今日も、会話に聞き耳を立てながら皿洗いをする。はずだった。

前掛けをして、仕事をしようと気合を入れた時、女将さんに呼び止められた。


「すみれちゃん、ちょっといいかしら?」


「なんですか?」


「今日、いつもの店番の子が休んじゃって足りないのよ。変わりにやってくれないかしら?」


「…それは、つまりお客さんと接触するという事ですか?」


「接触??よくわからないけど、少しの間だけでいいのよ。ダメかしら?」


「いやっ、その…えーと」


蓮鬽だから、無理ですなんて言えない。女将さんのお願いを断るなんて…。


「わかりました。やりますよ」


出来なかった。


「ありがとう!助かるわ」


そんな事言われてしまうと、素直に嬉しく思えてしまう。我ながら、アホだ。

なるべく、顔を合わせないようにしなければ。


「それじゃ、注文は取らなくていいから、お皿を運んでちょうだい」


そういうと、女将さんは私の背中を押して店の中に入れた。


薄暗い厨房にいたので、一気に視界が明るくなる。今まで、ろくに入った事のなかった店の中は、甘い香りが広がっていた。そして、沢山の客。

少し、緊張する。バレる事より、初めての事に。

人が多い所は、今まで避けて生きてきた。小さな店と言ったが、これほどの人の中にいることは初めてだ。

そんな私を見て女将さんは笑っている。笑い事じゃありませんよ…。


「すみれちゃん。空いたお皿を運んで」


女将さんはそういうと、奥に行ってしまった。

私は、言われたまま皿を運ぶ。何だか、不思議な気持ちだった。

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