弐
大きく深呼吸すると、じめじめとした空気が肺にはいる。
目当ての場所にはすぐについた。
予想どおり人だかりができてる。私も、後ろの方から人々の視線の先を見た。そこにあったのは死体だ。
一人の男が横たわっている。
男が着ている紺の着物は、赤黒く染まっていた。男の右肩からは腰まで刀傷がのびている。傷口には、乾いた血がべっとりとはりついていた。そして、二度と動く事の無い心臓の真上に、元は真っ白であっただろう紙が、血を滲ませて置いてあった。
「蓮鬽だ」
誰かがつぶやくと、それは伝染したかのように、周りの人々もざわめきだす。
「蓮鬽で間違いねぇ。あいつらが殺した奴のとこには白い紙切れが毎回置いてあるからな」
そういったのは、禿頭の同心だった。
童顔なのだろうか、若く見えるその顔には鋭い目がついており、腕利きなのを思わせた。
「剛さん。それは、本当ですか??」
彼の岡っ引であろう男が隣に立っている。背は私より3寸程高い、痩せた体つきをしていた。それに比べ、剛と呼ばれた方はまるで熊だ。
しばらく観察していると剛の方がこっちを睨んできた。
「おっと」
慌てて目線をずらし、人ごみの後ろに消える。どうやら剛は勘も熊並みに鋭いようだ。人を殺める者の気配を感じているかのようだった。
「豪さん、どうしたんですか?何かありましたかい?」
「いや、気配を感じた気がするんだ。獣の気配を」
別に私が殺したわけではないが、この男を殺したのは間違いなく私と同じ蓮魅の仕業だ。私の習慣は、同業者がどこぞで殺した者の死体を見に行き、その躯を血で染めらせ横たわる様をこうやって眺めることだった。そうやって死と向き合い、己の存在を改めて実感することは、あちらの世界から離れてもやめることはなかった。しかし、ここは殺人の起きた場であることから、剛のような同心や岡っ引きがいるから今日のように見つかる可能性も高い。もしあの時、目などがあっていたらやっかいなことになりかねない。
蓮鬽というのは見た目は普通の人間であるが、その目は普通と違い獣の目をしており、分かるものには人間でないとばれてしまう。
蓮鬽は人と違う。異質なのだ。その異様な雰囲気は、たとえ可愛く着飾ろうとも隠しきれない。
だから私は絶対に人と目を合わせない。
少しずつですが、更新してます。
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