二十六
昼間だというのに薄暗い道が家と家の間を縫うように通っている。
じめじめと湿った空気が肺を満たす。
廃れたこの辺の家はほとんどが空き家だった。
表と裏
この江戸では、それはとてもわかりやすかった。
蓮魅の住む場所は、いつもほの暗く血なまぐさい。
体に染み付いた匂いが取れないのだ。
表の世界はきらびやかで、いつも生気で溢れている。
いつも、夢で溢れている。
表と裏はすぐ近くにある。
なのに人間はそれには気づかない。
いつも血に飢えた獣が見ていることを。
いくつかの裏道を抜けると、活気のいい声が聞こえてきた。
大通りに出るとすぐに、用意しておいた菅笠を被り耳に神経を集中させる。
今日は町を歩きながら情報収集だ。
下手に動けば昨日みたいやられてしまうし、何より狼には会いたくなかった。
いずれ会うことになるだろうが。
親父のところに行けば情報がいくつかもらえそうだったが、行けば仕事を頼まれるに決まっている。
今は人を殺すような気分にはなれなかった。
狼と会ってから、何かと調子が狂う。
そんなことを考えているうちに、二人の男の会話が耳に入ってきた。
「昨日裏の店が何者かに襲われたって話だぜ」
きっと、私が飛び込んだ店だろう。
「あそこなら前から怪しい感じだったよな。役人が何人か出入りしてたって話しを聞いたことがあるぞ」
どうやら役人も御用達の店だったようだ。目的は護身用の武器か何かだろう。そんなもので狼から助かりはしないだろうが。
狼に殺される役人が増えてきて、奉行所も浮き足立っている。
いつか奉行所総出で狼狩りでも始まりそうだな。
二人の会話からはその後めぼしい情報は得られなかった。
こんなこと狼をすぐに殺してしまえば終わる話だが、あいつのことを考えるたび頭にちらつく影がその考えを打ち消してしまう。
少し歩くと、聞きなれた声が聞こえた。
花の声だ。
ここからはそんなに遠くない。今日は店番を休んでいるのだろうか。
それとも恋人ができて出かけているのか。
花ならおかしくない話だ。
人間だから普通の女の子として暮らせる。
なぜかそんな花のことがうらやましく思ったのは、狼のせいだろうか。




