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蓮鬽  作者: 夏月晴
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暗く淀み、湿った視界をうっすら開けると眩しすぎる朝日が目に飛び込んでくる。

痛みが走るほどだが今ではちょうどよい。


久しぶりに夢を見た。

心地の良いものではなかった。


赤い瞳。絶対に忘れることのないあの夢。幼い頃は、あれが何なのか分からなくてひどく怯えたが、今では平気だ。

もう、見ることはないだろうと思っていた・・・・・。

ま、さして気にすることでもない。小さく息を吐くと、薄い板のような布団を敷いた寝床から起き上がり、土間にある瓶から水をすくい飲んだ。ひんやりとした水は喉を潤し、火照った体を冷やしていった。

野放しの長い黒髪を一つにまとめると、さっそうと戸口から飛び出す。行きがけに、垂らしてあった布を手に取り。

静かに、しかし速く歩く。布を顔の下半分を覆うように巻いて、私自身を隠す。


「すみれ」


こっちでは、そう呼ばれている。


あっちでは、名は無い。おい、とかお前とか。名なんていらない。その一瞬を、ぎりぎりのところで生きているのだから。

毎日が死と隣合わせ。そんな生活も今では習慣になってしまった。今、朝焼けの薄暗い路地の中を歩いてることもそう。自分がしたいわけではなく、習慣としてやっている。それだけ。


しばらくすると、目前に小さく「豆腐屋」と書かれた看板が見えた。戸を開けると乾いた音とともに、大豆のにおいが鼻をつく。


「おはよう」


小さく、はっきり言うと土間をあがりいつもの部屋に向かう。


小ざっぱりとした小さな部屋には、すみれになるための服が置いてある。

手早く着替え、部屋を出ると家の主が起きてきた。


「相変わらず、無愛想な娘だ。起こしに来てくれてもいいだろ」


無精髭の生やした顎をかきながらあくびをするお前も、相変わらず汚い。見てくれは、おやじそのもの。実年齢は若いはずだが。


「おはようは言ったはずだ」


そっけなく返すと、やれやれという風にため息をつかれた。


「今日も行くのか?」


小さくうなずき返す。


「まめだな。一日サボっても怒られはしないのに」


「見ずにはいられないんだ」


「殺し屋の性ってやつかい」


「かもな」


豆腐屋の主はにっと笑った。行って来いよという風に手を振る。私も、軽く右手をあげ豆腐屋を後にした。

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