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蓮鬽  作者: 夏月晴
18/27

十八

瓶のふたが開けられる。

独特の匂いとともに意識がもうろうとしてきた。


もって3分といったとこか。

自力で逃げ出すのは無理だ。


でも、何か方法が・・・・・。


意識がほとんど無い状態で男の足をつかむが、力が入らずすぐに振りほどかれてしまった。


「おとなしく寝てな」


「だ・・・め・・か」


その時、爆発音とともに部屋が白い煙で包まれた。


「何事だッ!!」


「侵入者だ!!ぐぁッ!!」


「どうした!」


「固まれ!!」


男たちの叫び声が響く。何人かは殺られたようだ。


黒い影が近づいてくる。


「だ・・・・れ・・」


「静かに。助かりたかったら黙ってろ」


男の声が上から降ってきた。男は、私を抱きかかえると白い煙の中を颯爽と駆けて行った。





頬が切れるように痛い。

冷たい風がすりぬけていく。

どうやら、いつの間にか眠っていたようだ。


視線の先には、めまぐるしく変わる夜の大江戸の町並みがある。


一体どうなって・・・・・・。


そこで、体中に痛みが戻り、ここまでのいきさつを思い出した。


そして、私を肩に担いで走っているこいつは・・・・・・。


「あんた誰?」


「なんだ、起きてたのか。あと少し眠っていてほしかったな」


「で、あんた誰?」


男の声は確かにあの時の男と同じものだった。


「聞かなくても分かってるだろ」


「あんた、狼か」


男は答えない。

私は、その沈黙をイエスだと受け取った。


「なぜ助けた。それとも、これから何かするつもりか」


こいつが私を助けるメリットなど無い。

それに、あいつらとは仲間だと思っていた。


「助けただけだ」


「どうして」


「お前は、いちいち落し物を拾ってくれた奴に、どうして拾ってくれたんですかなんて聞くか?」


「聞かない」


「それと同じだ」


「じゃ、私はあんたに拾われたってことか??」


なんだこいつは。人を物のように扱いやがって。


「いや、そうじゃなくてだ。助けたかったから助けただけだ」


「メリットも無いのにか?」


「メリットはある」


一体どんなメリットがあるというのか。


「ここなら大丈夫か」


男は目的の場所に着いたらしい。

急に体が浮いた。


そして、男が音も立てず地面に着地する。

どうやら今まで屋根の上を走っていたようだ。


私はようやく肩からおろされた。


「っつ・・・・・・」


立ったと同時に腹に激痛が走る。


「あいつら手加減なしに蹴りやがって」


「大丈夫か?」


「あんたに心配されたくない」


「おいおい。人がせっかく・・・・・・」


男の言葉を遮ってまくしたてた。


「前科があるだろ。それに、こうなったのはあんたのせいだ」


「一人で乗り込んだのはお前だろ」


「うるさい」


男も言い返す気をなくしたようだ。

私も、あんな目にあったから気が収まらない。

これ以上なにか言われたら殺しかねないので、ちょうどいい。


「一つ頼みがあるんだ」


急に男は真剣な顔で言い出した。


「なんだ」


「これ以上俺のことをかぎまわるのは止めてくれ」


「無理だね」


即答で返した。


「そのためにお前を助けたんだ」


「あんたに助けを求めたことはない。あんたが勝手に助けたんだろ」


これが男のいうメリットか。くだらない。


「何回言われても無理だ」


「どうしても無理だというなら・・・・・・」


どんッ!!!!


男は一瞬の間に私を壁に押しやり、短刀を抜いて喉にあてた。


「お前を殺す」


「別にかまわない」


男の目が一瞬大きく見開かれたが、また元の鋭い刃に戻る。


「本気だぞ」


「殺れよ」


「この前は死ねないと言ってたのに、今は死ねるのか?」


「そうだ。どっちにしろ、あんたに助けられなきゃ、さっき自分で死ぬつもりだった。死に場所が変わっただけだ」


短刀はまだ喉にある。

刃が喉の皮を裂き血が薄く滲む。


「殺したいんだろ?」


男の鼓動、息、表情、何一つ変わることはない。

ただ、瞳だけが揺れていた。


一体何を迷っているんだか。


よくわからない男だ。

なら自分で死ねばいい話か。


私は、男の短刀を手でつかみ喉に深く当てようとした。


「おいッ!!」


だが、男が負けじと短刀を引くもので、なかなか刃が喉を切り裂かない。


「死なせろよ」


「やめろッッ!」


男は叫ぶ。

やめろと。


死にたがる死にぞこないを死なせまいと。


どうしてだ。


何故?


分からない。


手の力が一瞬弱まった隙に、男は短刀を引き捨てた。


地面に短刀が刺さる。


「お前を生かす為に助けたんだ」


どういうことだ。


「どう・・・・・・」


言葉が続かなかった。


体が暖かい。

視界が男の着物で埋もれる。




男に・・・・・・抱きしめられてる。


どういうことだ。


わけが分からず、身動きが取れないでいた。


さっきの殺す殺せのやり取りなど頭からふっとんだ。


耳元で男が言う。


「頼むから生きていてくれ」


と。













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