十一
暗い闇。闇。
淀んで、重くて、まとわりつく、闇。
そこに、一筋の光が。
瞼の裏に、懐かしい記憶が蘇る。
静かな路地。
一人で立ち尽くすのは、幼い私。
そこに、白い着物を着た男が来る…。
「ハル。一緒に行こう」
ハル…。そうか、名前だ。
本当の名前。
昔も、今も、どれだけ偽ったとしても、その事実は変わらない。
ハル。
白鬼の笑みが浮かぶ。
「戻って来てくれて、嬉しいよ」
嬉しい、か…。
そうだ、親父さんには聞かなきゃ行けない事があった。
それに、イサクにも、文句を言わなきゃいけない。
まだ、やる事は残されてる。
たくさん。
だから…、
こんなところで、死ねない
ギンッッ!!
「何っ!」
確かに、そこにいたはずの女はおらず、刀は白い布を地面に突き刺していた。
「私はここだよ」
声のした方を振り返ると、さっきまで目の前にいた女がいた。
顔を隠してた布がとれ、その顔が月明かりに照らされる。
16歳ほどの少女だ。
ほのかに顔が白く光る。
その美しさに息を飲んだ。
「お前…」
「ここで死ぬわけにはいかないんだ」
その声は闇に響く。
気づいた時には、彼女は目の前に迫っていた。
みぞおちに蹴りが入る。
「うっっ…」
さっきと速さが全然違う。
足をすくわれその場に倒れこむ。
胸に膝を打ちつけられ、身動きが取れなくなった。
「何故、そんなに動けるんだ…」
目の前の、美女は無表情のまま答えた。
「さあね」
首には、さっきまで投げていた、くないが当てられてる。
俺の負け、か…。
死を覚悟した。
彼女の手が伸びて来る。
そして、
顔を隠していた布を剥ぎ取った。
「!!?」
「これであいこだ。これ以上、無駄な争いをするのはやめよう」
彼女はそう言うと、立ち上がり去って行った。
何故だ…。
動こうにも動けない。
彼女の瞳の中に、何かが見えた気がした。
触れてはいけない何かが。




