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04:経商談話室

 レベル20、パーティー戦推奨のボスモンスター・リトルドラゴンを倒すとき、あたしはレベルを30まで上げた。盾も、攻撃も、回復も、全部一人でしようと思うからこうなる。正しくパーティーを組んでいれば、レベルは20も要らなかっただろう。LLOにおける最初のボスモンスターであり、パーティー戦のチュートリアルを兼ねた意味合いが強く、集団でかかればどうということはないからだ。それでも、パーティー限定ではなく推奨というところに、LLO制作陣の優しさを感じた。彼らはぼっちのことを考慮してくれているのだ。

 大学における課題はそうもいかない。経営学演習Ⅰのように、ソロプレイを禁じられることがある。集団内での役割分担とか、協調性とか、そういった社会性を身につけさせるためだ。多分。

 槙田くんと他二人のイケメン(名前覚えてない)とパーティー……じゃなくてグループを組む羽目になったあたしは、何か他のものを身につけはじめていた。スルースキルである。


「鈴原さんすごいな!もうこんなに資料集めてくれたんだ!」

「やべっ、おれ何にもやってねえ」

「お前に期待なんかしてねぇよ」

「オレ、鈴原さんと一緒のグループでよかった!」


 大学の談話室で、グループ発表の相談をしているのだが、女の子たちの氷のような視線があたしを八つ裂きにしようとしている。いや、そんなことはない、気のせい気のせい、何にも感じない……。そう思おうと必死である。

 だいたい、容姿がいい人というのは、どんなに端っこにいても目立つものである。それが大声で喋っていたら、否が応でも顔がそちらに向くだろう。そこに、何の取り柄もなさそうな、むしろ欠点しかなさそうな、不細工でやぼったい女が一緒にいたとすれば、ああやって顔を歪めることだろう。

 ……いや、そんな顔をしている人なんていない。気のせい気のせい。ギャルが舌打ちしているのなんか聞こえない。さて、課題に集中しろ、あたし。


「先に、担当を決めていこうか。他のグループが発表しているときの、司会役と質問役だけど……」


 場を取り仕切るのはやはり槙田くんである。他の二人も何も言わないし、彼がリーダーとして振る舞うのは暗黙の了解、といったところだ。彼自身もそういうのに慣れているのだろう。ならばあたしはそれに寄生するだけだ。

 あたしは、資料集めをしたということで、発表用レジュメの作成はしなくてもいいことになった。文章の推敲と、発表練習のときだけ集まればいいらしい。会うのはあと二回だけでいい!と心の中でガッツポーズ。こんな完璧超人と直接会っていると、緊張しすぎてライフが減る。

 そして、そろそろ解散かと思った矢先、槙田くんではないメガネの人があたしに話しかけてくる。


「それにしても、鈴原さんって本当にVRゲームに詳しいよね」


 その言葉に息が止まりそうになる。何なんだこの人、余計なことしないで下さいお願いします。あたしは早くさよならしたいのに!


「えっと……まあ……」


 上手い返答が思いつくわけもなく、しどろもどろになる。


「RPGはやったことある?LLOとか」

「ひっ!?」


 妙な声を上げてしまった。やばい、今のどう思われたんだろう。


「ルミナスレジェンド・オンラインっていうんだけど、オレたち一緒にやっててさ」

「最近あまり進めてないけどな」

「時間ないもんなあ」


 何なんだこの人たち、よりにもよってLLOやってるの!?他にもRPGはたくさんあるのに!


「そっちは、よく、わからなくて……」


 大嘘をつく。間違っても、早くレベルキャップが解放されればいいんですね、なんて言えない。実際にLLOをプレイしている人なら、わかってしまう。レベルカンストのあたしが、どれだけ暇なプレイヤーであるかということを……!


「まあ、女の子はRPGやらないか」

「VRだと、自分が本当にモンスター切ってる感覚になるもんなあ」

「昔のゲームはリアルな感覚がなかったから、女性ゲーマーも多かったみたいだけどね」


 脳天に矢を貫通させたときや、弓で背後の敵を殴ったときの爽快感は、いいストレス解消になりますよね!とは到底言えない。言える状況じゃない。

 それからメガネの人は、LLOについて説明をしてくれた。頭に染み着いている専門用語を、さも初めて聞いたかのように振る舞うのは大変だった。


「よし、ストレス解消をしよう……」


 あたしは帰ってすぐに、LLOにログインする。今日は親が外出しているから、誰にも文句を言われずにプレイできる。

 レベル70、ハイゴブリンらがたむろするヒビリア草原に行き、弓を構える。


「フレイム・バード!」


 炎属性の魔力を込めて放った矢は、火の鳥の姿になり、広範囲のハイゴブリンを焼き尽くす。取りこぼし、接近された分は、素早く蹴りを入れる。


「はっ!」


 素早さはあまり上げていないが、それでも現実の自分とは比べものにならないほどの運動能力だ。これぞ、VRゲームの醍醐味。フレイム・バードの効果が終了したことを確認し、ハイゴブリンの残数を確認する。


「これで……ラストッ!」


 しぶとく残っていた一匹に、ナイフを突き刺す。ギャッと叫ぶ音はするものの、血が流れるなどの描写はなく、細かい光の粒になって消えていく。もし、死体が残るような設定だったら、正直敬遠していただろう。この程度ならあたしは大丈夫だ。

 クロがドロップアイテムを回収するのを待って、マップを移動する。今日は思う存分、狩りを楽しむつもりだった。



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