懐かしい音、アイスティー。
静かに連なる、霞みかけた、心に響く、やわらかい、そんな音。
いつからだろう?
聞いたことも無い音を、なんとなく、懐かしいと思うのは。
何故だろう?
その音が、だれともつかない、優しげな人の後姿をみせてくれるのは。
いくつもの話し声。だれかが声高に、むかつく、といっている。いくつものコップ。だれかが、氷の入ったコップにストローを入れてかき回している。いくつもの携帯電話。だれかがしきりに、携帯を開いたり閉じたりしている。
何も変わったところなんてないのに、私は飽きることなく周りを見ている。何処にでもある、普通の喫茶店でアイスティーを飲みながら、時間をもてあましていた。
意識すると、なぜか急にレモンのすっぱい匂いが、口の中に広がった。アイスティーにいつも入れるのだけれど、ここのお店では置いていないレモンが恋しくなった。
氷が音を立てた。それほど珍しいことでもないから、視線がこっちに集中することはなかった。冷たいアイスティーを口に含んで喉へ滑らせると、今まで感じなかったほのかな苦さが鼻の奥をくすぐった。
びっしりとコップの外側に張り付いた水滴が、私の左手の中に入り込んでいく。それが少しくすぐったくて、パッと手をコップから離した。
水滴が手の中から手首へしたたっていく。私はそれをくいとめるためにおしぼりで、水滴を軽くふき取った。
ふと、視線を店の中から店の外へと移してみた。だれかの指紋がのこっている窓に、うすく自分がうつっていた。
通り過ぎていくだれかたち。私のほうを見る訳がないと、頬杖をついた私は普通に思っていた。こっちを見たとしても、それはただ顔が向いただけだったりとかで、相手は無意識だ。
カップルが通り過ぎると、なにも感じなくて。家族連れが通り過ぎても、とくに感じたことは無くて。買い物をする二人の女の子が通っていっても、ただそれを見ていた。
たった一度だけ、私は震えた。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。通り過ぎる人の肩と顔のあいだから一瞬だけ、私を見つめた人がいた。視線が交差したと思ったら、その人は顔をうつむかせて通り過ぎていく人達にまぎれていった。
隙間から見えた後姿に、なんだかひかれた。体の芯のようなものが、ボッとすぐさま高温になりサッと氷点下に冷えた。
喫茶店のなかで流れていたBGMが、急に耳に流れ込み始めて、懐かしくてやさしくて繊細な音が、心の奥でいつも見ていた後姿を鮮明にさせる。
あのひとなのかな。
喜びに舞い上がりそうな手をきゅっと握り、荷物を手早くまとめた。会計をすぐに済ませて、自動ドアの勝手に開く音が聞こえるころには、私の頬は紅潮していた。
常に心にいた存在の、愛しい名前を呼びながら抱きつけば。
あなたはどんな反応をみせてくれるかな。
なろうに入ってから一周年を記念しまして、ちょっとした短編をさらっと書いてしまいました。
えーと、私の名前に見覚えが無い方々、初めまして。短編が若干苦手な笹沢 莉瑠といいます。
最後までお読みいただきありがとう御座いました。おかげで日陰でひっそりと一年を迎えさせていただきました。
これを読んで私に興味を抱いてもらえれば、と思いますが基本恋愛苦手です。自分が。
ですので、ちょこちょこ短編を出します時には名前を、覚えてくださればと思います。作者のマイページで、ほかに書いた物がのっていますので、暇つぶし程度に見てやってください。
えーと、私の名前に見覚えがある方、ありがとう御座います。
どこで知ったんだろう、という疑問はしません・・・。どうも、ファンタジーが好きで中二病に片足をつっこんでいる笹沢です。
というか、見覚えがある人。いるんでしょうか? 本当に心配ですが。
はい、だらだらと、駄文失礼しました。誤字脱字等ありましたら、ぜひとも作者にお知らせねがいます。それでは、失礼します。