魔王軍の下っ端だけど、勇者の守護を命じられました
あ、どーも、俺、ミミックです。
所属はR-3古代遺跡地下で、普段は古代遺跡地下の一室で、ぼんやりしつつ、たまに来る探索者を食べて暮らしてます。
いや、あの遺跡、地下部は四代前の魔王様の墓地だからね。人族に荒らされるとか、許すわけないでしょ?
俺は謂わば、四代前の魔王様、通称三代目の、墓守ってやつ。
三代目は友人だったしね。友人の墓を守って暮らすってのも、ま、悪い暮らしじゃない。
三代目が現役の頃は城で警備の仕事をしてたこともあったけど、城は慌ただしいから性に合わない。静かな暮らしが好きなんだ、俺は。だから、三代目が死んでからはずっと、ここで墓守をやってる。そうすれば、気まぐれに墓参りに来る古い友人とも会えるからな。
んで、そんな悠々自適な生活をしていた俺ですが、今日は今上魔王、七代目に呼び出されています。
四代も前とは言え、魔王の墓守だからな。名目上、魔王軍所属ってことになってるんだ。現役退いてそれなりに経ってるし、下っ端だけどな、下っ端。所詮ミミックだし。
仮にも手下だから、呼び出しには応じる義務がある。ま、蹴っ飛ばしても良い呼び出しだけどな。
「お久し振りです、ルシニア様」
「様付けやめろよ、坊ちゃん」
魔王から様付けなんてされると、ぞわっとする。
首を傾げて目をすがめれば、苦笑を返された。
「お変わりないようで幸いです。相変わらずお若いですね」
「そう言われても、ミミックには年齢がないからな。老いも死も、俺には存在しない概念だ」
「性別もない、と」
「必要ないからな。ミトコンドリアと同じさ。増えようと思えばいくらでも増えられるし、一個体が消えても他の個体が残ればそれで良い」
七代目は、就任に際して歴代魔王の墓に参じた。だから、俺とも面識があるし、俺としても呼び出しに応じたわけだ。
礼儀を通した相手を無視するって言うのは、寝覚めが悪いからな。
「で?世間話のために呼び立てたわけじゃないんだろ?」
「ええ。ですが、まずは謝罪とお礼を。お呼び立てして申し訳ありません。応じて下さったこと、感謝致します」
「いや。面倒なだけで別に外出出来ないわけじゃないからな。たまに外に出るくらいなら、気分転換に丁度良い」
懐かしい顔にも、会えたしな。
視線をずらして、にっと笑うと、ずらした視線の先の強面男は、ふん、と鼻を鳴らした。
「相も変わらず、擬態から抜けたお前はひ弱だな。もっと身体を鍛えんか」
「擬態抜けて戦う予定はないからこれで良いんだよ。だいたい、お前みたいに鍛え上げてたら目立つだろうが」
「……お主も十分目立つと思うがの」
強面男の脇からひょいと顔を出して、糸目の女が笑う。
「お、ブルペスもいたのか」
「いたぞ。お主と違って引きこもってはおらんからのぅ。息災そうでなによりじゃ。そもそもお主の心配などするだけ無駄じゃがの」
ブルペスが首を振ると、飛び出た三角の耳がふるりと揺れる。ふさふさとした九尾を揺らして、こちらに歩み寄って来た。
「お主は、引きこもっておるくらいで丁度良い。出て来ると、誑かされる者共が憐れじゃ」
「あ?お前と違って妖術なんか使わないぜ?」
「だそうじゃ、リスティム」
呼ばれた強面男は、鱗顔を器用に動かして呆れ顔を作ると、大袈裟に肩を竦めた。
「こいつはずっとそうだ。死なねば治らん」
「なんだよ。俺が馬鹿だってか?」
「そうは言っていない。が、三代目も七代目も憐れだなと」
なんで今、三代目の話が出るんだ?
「あいつは憐れなんかじゃないだろ。いや、墓守が俺なのはアレだが、だって、あいつは番も取らなかったし、仕方ないじゃないか」
「ああ、そうじゃな。心優しい友を持って、あやつは幸せじゃ」
うんうんと頷いて、ブルペスが俺の頭を撫でる。
「だろ?で、七代目はなんで憐れなんだ。なにか悩みでも、」
「それより!本題に入らせて頂いても?」
「え?ああ、そうだな、あんたも忙しいだろうしな」
引きこもりの俺と違って、魔王なんてやってる目の前の坊っちゃんは忙しいだろう。頷いてやれば、なぜか冷や汗を拭って七代目は話し出した。
「つまり」
ところどころリスティムとブルペスの補足をはさみながら聞き終えた話を、自分なりに要約する。
「七代目を殺そうと動いている勇者について、討伐派と静観派がいるが、お前らはとある理由で勇者が必要だから、討伐でもなく静観でもなく勇者の守護をしたいと」
「そうじゃ」
「けど、魔王がよりにもよって自分を殺そうとしている相手を守ろうとするなんて本来あり得ない。かと言って勇者を生かさなければならない理由を話すわけにも行かないと」
「そうだ」
「んで、秘密裏に勇者の守護をするため、魔族にも人族にも顔が知られていない俺に、守護者として勇者一行への同行を頼みたいわけだ」
「そうなりますね」
「いや、無理だろ」
自分が話を誤解したわけではないと理解し、頭を掻く。
「確かに擬態を解いてれば魔法の気配は漏れない……と言うか擬態なら使ってても人族にはそうそうバレないし、擬態の抜けた俺は人族寄りの見た目だが」
マントから腕を出して見せる。
「さっきリスティムも言ったろ?この腕だぜ?擬態以外になにか出来るわけでもない。どうやって勇者を守るんだよ」
「細い……」
七代目が唖然とした顔で、俺の腕を見つめる。
擬態が抜けているときは基本的にマントにフードだから、七代目は俺の体つきを正確には知らなかったのだろう。弱っちい人間と変わらない、このか細い腕を。
「ミミックが」
思わずと言ったように玉座を立った七代目がこちらへ足を運び、妖精の羽に触れるようにおそるおそる俺の腕を取る。
「魔族最弱の種族である、と言うのは、事実だったのか」
「そうだな」
「リスティム殿、ブルペス殿、やはりこの案は駄目です。ルシニア様を勇者に付けるなんて、私には」
血相を変える七代目に対し、リスティムは首を傾げるだけだったし、ブルペスに至ってはにやにやと笑っていた。
「ルシニア」
「坊ちゃんもこう言ってるんだ。なしだろなし」
「吾らがいるのだから、その言い訳を通すはずがなかろう」
「リスティム殿、ですがっ、」
言い募る七代目の唇を、ブルペスが指先で塞ぐ。
「今上、確かにそやつはか弱い。妾よりもじゃ。じゃが、それだけならばなぜそやつは、三代目の友人などと言う大それた地位に着けたのじゃ?あの、三代目じゃぞ?」
七代目の口を塞いだまま、ブルペスがこちらを見遣った。
「ほれ、若いのが可哀相じゃろうが。とっとと本性をあらわさんか、この詐欺師」
「酷い言い様」
「やかましい。ほんにお主らは、擬態を抜いても偽りばかり」
「そう言う性分なものでね」
溜め息を吐いて、掴まれたままの腕を動かす。
「え……?」
抵抗も出来ずに床に座り込んだ七代目の肩を足で押し、倒れた身体を踏み付ける。
「悪いが、男に腕を握られる趣味はない」
「お主は女も嫌いじゃろうが」
「無性別だろうが嫌いだろう」
「な、え?」
状況を理解出来ないらしい七代目に、ブルペスが言う。
「これ、魔王が床を這うでない。起き上がるのじゃ」
「え、ですが、」
「つべこべ言うでない。ほら、他の者が来たらどうするのじゃ。早うせい」
ブルペスに急かされた七代目が起き上がろうと身体に力を込めた。
「ほれ、どうしたのじゃ。早うせんか」
「くっ……いや、しかし……くぅっ」
「良く見よ、小枝のごとき脚じゃろう。さっさと退けんか。なんじゃ?ルシニアに気を遣っておるのか?」
七代目は、顔を真っ赤にして力を込めている。が、一向に起き上がれる気配はない。
「このようなか細い脚に負けるとは、ひ弱じゃのう」
にいっと口端を吊り上げて、ブルペスがほほと笑う。その顔を、リスティムが呆れたように見た。
「いじめも大概にしろブルペス。ルシニアも、それ以上続けるなら仮にも家臣として吾が動く羽目になるからよせ」
お前にだけは勝てる気がしない。
リスティムがぼやいて、こちらへ近付いて来る。その手が肩に掛かる前に、肩を蹴って七代目から距離を取った。
「ヘーヘー。んで?用は済んだろ?帰って良いか?」
「なぜその結論に至る……」
頭痛がするとでも言いたげに額を押さえ、リスティムが呻く。
はっ、と笑って、言い放った。
「俺の役目が墓守だからさ。持ち場を長く空けるのは、良くないだろ?」
「黙れ詐欺師」
ぴしゃりとリスティムは俺に叱声を飛ばすと、未だ床にいた七代目の手を取って引き起こした。
「七代目、あれには三代目すら勝てはしなかった。挑むだけ無駄だ」
「おいおい、嘘吐くなよ、負けたから城の警備なんかに駆り出されたんだろ?」
「お前、歪んだ事実をあたかも正しげに言うな。あれはお前が他の地位を付けられたくないがために、わざと負けたのだろうが」
強面のリスティムが凄むと兵士でも怯む迫力があるらしいが、見慣れているのでどうと言うこともない。
「そんなわけあるかよ。あれ、最後まで勝ち進めば魔王就任さえ出来るって戦いだぜ?わざと負ける馬鹿がどこにいるんだよ」
「お前だろうが、馬鹿者」
「いやだから俺は実力」
「后就任を賭けた戦いでは三代目を瞬殺したくせにか?」
「あれは偶然」
「まだ言うか」
「あのときは、俺が后だと困る奴らがあいつの妨害してただろ?だからだよ」
「ああ言えばこう言う……」
なぜそんな、しょうがない奴みたいな反応をされなければならないのか。
義理は果たしたんだ。もう帰ってしまおうか。
「帰るな帰るな」
「触るな」
「ああ触らない。だから、勝手に帰ろうとするな。可哀相だろうが、七代目が」
器用に顔をしかめて言うと、リスティムは救いを求めるようにブルペスを見た。
「そうじゃのう……」
首を傾げたブルペスが、俺の腕を掴む。
「そう邪険にせずに、協力してくれんかの?なぁに、百年もとは言わぬ。勇者が妾らの求める役目を果たすまで、長くともほんの数年だけの話じゃ。お主からしてみれば、瞬きのような時間じゃろう?」
「だとしても」
「それに、勇者は歴々の魔王の墓を暴いて廻っておってのう、このまま行けば三代目の墓も荒らされるのではないかと」
「は?」
聞き捨てならない言葉で、眉間に力がこもった。
「歴代魔王の墓を荒らされて、なんで黙ってるんだ。墓守はなにをしている」
「残念ながら、お主ほど防衛に長けた墓守は、ほかには初代の墓にしか着いていない。荒らされると言っても、先代の結界のお陰で遺体の安置された場所は見付かっておらぬしの」
ブルペスが息を吐く。
「とは言え、墓地を荒らされているのは確かじゃ。荒らされた墓の守り手には、修繕と防備強化を命じているゆえ、現状復讐に動いている者はおらぬが、お主のように、一柱の魔王にのみ思い入れを持つ者も多い。このままでは早晩勇者狩りが始まるじゃろう」
「墓荒らしなんだ。自業自得だろ」
「言い分は尤もじゃが、勇者側は墓とは思っておらんのじゃろう。でなければ、遺体がないのを疑問に思って探すはずじゃからのぉ。魔王の墓以外にも、遺跡や聖堂が荒らされている。おそらく、保管された道具や武器の強奪が目当てじゃ」
「どっちにしろ盗っ人じゃねぇか。死んだ方が良い」
魔王の墓を荒らすものには死を。墓守の鉄則だ。
「いずれ、報いは受けさせる。ただ死ぬよりもよほど苦しむことになるであろう。そのためにも、いまは生かさねばならぬのじゃ」
「つったってよ」
頭を掻いて、目をすがめる。
「勇者の同行なんて、選ばれんのは精鋭だろ?俺じゃ見た目からして弱そうだし、実力見せたら不審がられる。どうやって混ざるんだよ」
「治癒術と浄化の使える僧侶を、今探しているらしくての。お主、治癒も浄化も出来るじゃろう?」
「出来ねぇし。ミミックをなんだと思ってやがる」
擬態して騙し討ちするだけの生き物だ。ミミックは。
「お主をただのミミックとは思っておらんからのう」
まあ、俺は出来るが。伊達に長生きしていない。
深々と、深々と息を吐いた。友の墓を荒らされたくはない。それは事実だ。
「チッ、わぁったよ。やりゃあ良いんだろ、やりゃあ。くそが、失敗しても文句言うなよ?」
「引き受けてくれるか。恩に着るぞ。ほれ、これをやろう」
ブルペスが、俺の腕に腕輪を通す。
「結界か」
「体に沿って薄い結界が張られる。神通力ゆえ、人族には疑われまい。人族に触られるなど、耐えがたかろう?」
「わかってんなら俺に頼むなよ」
死んだ人族はメシだが、生きた人族は好きじゃない。住処も墓も荒らすから。汚いし、醜い。
「すまぬ。お主にしか頼めんのじゃ」
「やり方は、自由にやらせて貰うぞ」
「構わん。お主は、それで良い」
まったく、こいつには、なにが見えているのか。
「ルシニア様……」
苦渋の表情の七代目。息を吐いて、その肩を叩いた。
「たまには国の役に立つさ。あんたは、治世で返してくれりゃ良い」
「感謝します。この命果てるまで、あなたのために、万全の治世を」
「頼むな」
ぽんぽんと肩を叩き、踵を返す。
「じゃあ行くよ。早い方が良いんだろ?」
「必要なものがあれば、用意させるぞ」
「要らねぇよ。知ってんだろ」
リスティムにしかめ面を見せてから、不敵に嗤う。
魔王軍の下っ端だけど、勇者の守護を命じられました。が、
「身一つで騙すのは、ミミックのお家芸だぜ」
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
たぶんこのあと勇者一行も無自覚に誑し込むのだと思いますこのミミックは




