大型新人の大型遅刻ドラマ
「おーい!あの新人今日も遅刻かよ!」
「課長、落ち着いてください!
教育係の私が、よーく言い聞かせますので!」
その時だった――
「ごめんさーーーーい!!!」
ドアが勢いよく開き、新人君がどけ座のままスライディングしてくる。
見事などけ座。日に日に磨きがかかり、俺は逆に感心した。
「今日もよく滑るなぁ……って、そうじゃなくて、
お前さぁ。学生気分じゃ困るよ。
分かってる?自分のしている事」
「じっ、実は。理由がありまして」
ゆっくりと立ち上がる新人君の表情は深刻そうで、俺は固唾を呑む。
「そ、そうだったのか。言ってみろ」
「今朝、駅でずぶ濡れの少女に会ったんです」
「今日は雲一つない晴れだが!?」
「僕も不思議だなって思ったんですよ。
しかも、その少女、赤い傘を持ってて。
"実は私はスペースポリスに追われてる、
ウナギと50歳B型静岡県に住む田中さんの間に産まれた、
子供に転生した、元天の使いで……"って」
「何その設定の量、幕の内弁当かよ!」
「僕を見る度に、"あなたが元の世界に戻る鍵です"って言うんです」
「それSFなの?ファンタジーなの?」
「で、消えました」
「雑!最後なんで考えるのやめたの?」
と、その時。怒りがピークに達した、新人君の教育係が、
「言い訳だろ!作り話なら、もうちょっとリアリティーのある話にしろや!」なんて怒声を飛ばす。
「すみませんでした!今後ないように気を付けます!」
「え~……」
少女は何者なの?てか鍵ってなに!
赤い傘は伏線なの?
その日、俺は仕事に集中できないどころか、夜も眠れなかった。
〇 〇 〇
「ごめんなさーーーー!!!」
「おう!新人君、待っていたよ。
今日はどうしたんだい?」
後ろに置いてある、昨日の話を自分なりにまとめた、付箋と文字に覆われたホワイトボードを置いて、
壁に張り巡らせた、赤い糸の相関図の前に立つ。
最後に、考察を書いたメモ帳を構え、さあ来いと言わんばかりに、フンスと鼻から息を吐いた。
「おい新人!しっかりしろ——
って、え?課長、なんですか?カチョー!」
教育係を外に締め出し、
「すまない、続けてくれ」と彼の元へ走った。
「はい、昨日の少女とまた会いまして。
実はその少女……話を聞いていたら、元宇宙飛行士でもあるそうでして……」
「昨日の設定何処に行ったし!」
「スペースポリスに追われていて」
「すぺえすぽりしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!
そこじゃない!そこ以外がなぜ矛盾しているのだ!」
「鋭いですね。僕もそう思って聞いたのです。
でも、最後まで聞いてください、全ての点が一本の線になるので」
「え?そんなトンデモ設定なのに?」
「はい、実は……」
「実は?」
「実は——」
と、そこで、昼のチャイムが鳴り、
彼は「すみません、こんなの言い訳ですよね。お客さんの所に行ってきます!」だなんて、出て行ってしまった。
「実はなんなんだよー!」
〇 〇 〇
「ごめんさあぁぁぁぁい!!!」
「もういい加減に——」
どけ座で滑り込んできたのは——
「……課長?」
目の下に、それはそれはパンダの様なクマを作った俺だった。
「違う!これはあの壮大な物語の考察の為にだな!」
「仕事。してください……」




