第7話 疲れのせいではない
それは関係者の間ではちょっとした噂になった。『J×MAP』はもしかしたら危ないのではと。あの日のバラエティ番組の撮影の後、慎之介と拓海がまた揉めた。
慎之介は疲れていた。重たい足を引き摺りテレビ局の裏口から出ようとした時、拓海が言葉を投げかけてきた。
「よお、坊ちゃん、お帰りか?」
慎之介が足を止める。頭に血が上る。拳を握り締める。いや、ここは我慢だ。自分に言い聞かせた。昼間、せっかく葉室剛士が止めてくれたのだから。しかし、拓海の挑発は続いた。
「帰ってお稽古しとけよ、坊ちゃん」
意図に反して踵が回る。見たくもないが後ろを振り返る。拓海が半笑いで壁にもたれている。
「保育園のお遊戯のお稽古をな」
いや、我慢できない。こいつをぶん殴ってやる。
「もいっぺん言ってみろ!」
切れたのは疲れのせいではない。
「何度でも言ってやるぜ、おうちでしっかり稽古しとけ!」
「ぜったいゆるさねえ!」
先に喧嘩を売ったのは拓海である。当然、相手が手を出してくることは予期している。向かってくる相手に図ったように綺麗なカウンターパンチを浴びせた。
慎之介の顔が歪む。さらに拓海は間を詰めステップインして、慎之介の顔面に鮮やかな左ジャブを素早く2発突き入れた。慎之介の鼻孔から血が滴った。
慎之介が反撃に出る。力任せに右フックを繰り出す。しかし、拓海はスウェーバックしてこれを躱す。慎之介は前に出て左のボディーブローを放つ。これが拓海の脇腹を捉える。食らった勢いで拓海は咳き込み、2歩半ほど後退りした。しわぶいた口を拭い拓海が笑う。
「おもしれえ。こうなりゃとことんやろうぜ」
「望むところだ! ギッタギタにしてやるぜ」




