第6話 マルチタレントへの道
その飯倉の思いを『J×MAP』は汲み取った。自分たちに残されているチャンスは道化以外にない。ならばそれで行こうと。腹を決めてくれた彼らのために、飯倉は放送局を駆けずり回り『J×MAP』を懸命に売り込んだ。
「アイドルだと思わないでください。芸人と同じように体を張る役をください。無茶振り結構。どついてもらって結構。若いのでなんでもさせます」
さしずめ駆け出し芸人のプロモートだった。しかし、その甲斐あってか、『J×MAP』に仕事が舞い込んできた。キー局のバラエティ番組だった。この番組のプロデューサーが売れっ子の在阪の芸人と比較的トークの上手い女性タレントを組み合わせ、ダブルMCに、『J×MAP』を絡ませてコントを組み入れてみることにした。
彼らは覚悟を決めていた。これはラストチャンスだ、絶対にしくじらないと。そして彼らはアイドルを捨て道化に徹した。滑稽な着ぐるみを着たり、熱湯にも冷水にも浸かった。顔中クリームだらけにしたり、ビンタも食らった。ゲームに負けて釣り橋からのバンジージャンプも絶叫しながら飛んだ。
これが嵌った。顔立ち整ったアイドルが体を張った芸に全力で挑戦する姿は、視聴者に驚きを持って受け入れられ、お笑い芸人との境界線を一時的にもぼやけさせた。この時、リーダーの夢藤雅樹は決意表明的にこう述べた。
「もうさ、俺たち、なんでもやろうぜ! 観る人が面白いって思うことをさ、全力でやろうぜ!」
これに雅樹と同級生の飛柳拓海も思いを合わせた。
「そうだよな。出してくれんなら、俺、寄席の座布団運びだって喜んでやるぜ」
この時まだ高校生だった赤澤慎之介も、
「女装と仮装さあ、あれヤッバいね。やりだすとやめられなくなるわ」
アイドルがおよそ足を踏み入れなかった役どころを貪欲に掴み取っていった。いつしか『J×MAP』はその極みに立っていた。マルチタレントへの道を突き進み始めた。やがては、飯倉の言ったとおり評価が追いついてきて、彼らにたくさんのオファーがやってきた。歌もヒットした。ドラマも映画も当たり前のように主役をもらえるようになった。バラエティのMCさえも、リーダーの夢藤を中心に任される機会を得た。
そんな彼らをカウボーイ事務所も特別扱いし始めた。『J×MAP』のプロモーションにそれまでとは桁違いの金をかけた。いつしか彼らは国民的アイドルと称されるようになった。その称号にはただのアイドルではない、マルチな才能を認められた栄冠みたいなものが込められていた。のちにこの世界に入ってくるタレントたちは『J×MAP』を追いかけて、マルチタレントを皆、目指すことになる。
だが、その水面下で国民的アイドル達は、確かに行き詰っていたのである。




